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  • 司法修習制度いまむかし

     例により過去のニュースレターの使い回しですが、事情の変化に合わせて若干書き換えました。

     最近,報道で,「司法修習生の給費廃止問題」が取り上げられているのを見聞きされた方がおられるかもしれません。その問題の背景に触れてみます。

     我が国では,すべての法律実務家が同じ試験や研修を受け,その後,それぞれの専門分野に進む,いわゆる「法曹一元」の理念により、法曹資格制度が設計されています。「法曹」とは法律家のことで,職種別に,裁判官,検察官,弁護士の三者に分かれます。これらを一括して「法曹三者」と呼ぶこともあります。
     法曹一元には,「立場は違っても,法曹三者の間には地位や身分などの上下関係はなく、法を通じた社会正義の実現という目的を共有して、それぞれの立場で実務を行う」という意識があります。
     弁護士のことを「在野法曹(=官ではなく,民側で法律家として活動すること)」と呼ぶこともあります。このように,民間の側に立って,国の司法機関や行政機関と対決する立場を意識的に表明する法律家像・弁護士像には,大日本帝国時代に、我が国の弁護士が戦争協力者となった過去への反省が込められているとも言えます。

     私は弁護士登録が平成10年なので,いわゆる「旧試験組」に当たります。「旧試験」は,現在の法科大学院ができる以前に実施されていた司法試験で,受験資格は、一次試験(一般教養)合格か、大学での一定の単位取得(大学を卒業している必要はない)のみ,何回でも受験可能という緩やかな制約での試験でした。優秀な方は、大学3回生で合格することもありました(ちなみに私は、大卒後4年目にやっと受かりました)。
     これに対して,現在では「新試験」が実施されています。これは,受験資格が法科大学院卒業で,卒業後5年以内3回までの受験しか認められないというものです。
     どちらの場合も,司法試験に合格すると「司法修習生」となり,各裁判所に配属されて研修を受けます。私の時代は,研修期間が2年間でしたが,その後暫時短縮されて,現在は1年間になっています。
     研修中は,裁判官,検察官,弁護士のそれぞれの職務を短期間ですが実体験します。
     私の時代は、「司法修習生」は国家公務員待遇で,単身の場合月額手取り20万円程度の給与が支給されていました。公務員ですから当然ながら兼業・アルバイトは禁止されていました。
     冒頭の「給費廃止問題」というのは,この司法修習生の給与の支払を止めて,希望者に「貸与」すなわち貸し付ける方法に変えようとするものです。昨年合格の修習生から貸与制が始まっています。貸付なので当然ながら法曹になったら返さなければなりません。
     このように,国家財政難の折から,法曹養成制度は年々窮屈な内容になりつつあります。

     弁護士として法曹養成制度の改変に反対する立場の方は,このような傾向が続けば,やがて統一的な司法試験の廃止や,法曹三者の分離・個別修習など,「法曹一元」の理念そのものまで崩壊してしまうのではないかと危惧しています。また,単純に弁護士の数が増えて,競争が激化するなかで,法科大学院にかかる多額の授業料や生活費などをまかなうための奨学金や借入金に加えてさらに借金をしたら,返せるあてがないという心配もあります(多い人だと1000万円を超える例も珍しくないらしいです)。
     弁護士の間では,弁護士になって最初の仕事が自分自身の自己破産になるんじゃないかなどという冗談話もあるくらいです。
     貸与制という半端な制度のために、一方では収入があるとされて健康保険や年金を払わされるのに、一方では収入がないとされて、経済的信用力としては失業者同様に扱われている問題もあるようです。
     何より問題なのは、修習専念義務は相変わらず負わされたままなので、貸与を断って修習を受けながら自分で働いて稼ぐことができない点です。
     近く、給費制廃止違憲訴訟を有志で提起されるそうですが、就労が禁止され、資産がない修習生は、無担保無利息とはいえ、返済義務のある債務を負うほか選択肢がない現行制度は、私個人的にも、非常に問題があると思います。

  • 「内容証明」について

     今回のレポートは,「内容証明」についてです。
    1 内容証明とは
     内容証明とは,日本郵便株式会社の「内容証明郵便」に「配達証明」をつけたものを指します。業界用語では「ナイハイ」と略して呼ぶこともあります。配達証明をつけておけば,いつ誰が受け取ったかを日本郵便がハガキで差出人へ通知してくれますので,便利です。
     法律の世界では,一定の内容の文書を間違いなく相手方に届けて,そのことを証拠として用いなければならない場合が多くあります。ビジネスの場面では,売掛金の督促状や債権放棄書,相殺通知書などを出す場合によく内容証明郵便が使われます。
     内容証明が法律の世界で意味があるのは,そこに記載された「意思表示(=一定の法律上の効力を発生させようとする人の意思が表示されていること)」を相手方に届けて,受領してもらうという点です。従って,内容証明に記載する事項を,法的に有効なものとするためには,民法や商法などの基礎的な知識が必要です。
     単なる督促状も,貸金,賃料,売掛金などの請求内容の違いに応じて,正しく,もれなく必要事項を記載する必要があり,記述が不十分な場合には,せっかく届いても法的に意味がないものになってしまうこともありえますので,注意が必要です。
     一方,内容証明郵便そのものに、なにか特別の強制的な効力があると誤解されているケースがありますが,原則としてそのようなことはありません。そもそも,内容証明は,単に一定の内容の文書が間違いなく相手に届いたことを後日証明するために用いられる書留郵便物に過ぎず,裁判所が発する訴状や,差押通知などの「特別送達」と違って,それ自体でなんらかの強制的な効力が受取人に対して及ぶということはありません。
     例外といえるのは,時効にかかりそうな請求の時効進行を止めるために,内容証明郵便で請求(「催告」といいます)するケースです。その場合には,時効期間満了前に相手方が受領する必要があり,なおかつ,時効進行を止められるのは6ヶ月間以内までで,その間に必ず別途裁判上の請求もしなければなりません。
     以上の通り,「内容証明」は,法的観点からすると,さほど強い効力がありませんので,第三者から内容証明郵便が届いても,必要以上に恐れることなく,弁護士に相談するなどして冷静に対応して下さい。
     他方,裁判所から発送される各種書類のなかには,「特別送達」という方式で配達されるものがあります。これを無視すると,欠席のまま敗訴判決が言い渡されたり,知らないうちに自宅が差押えられたりする危険があるので,必ず目を通す必要があります。最近は「・・・民事訴訟局」などと架空の名称を使って,「振り込め詐欺」のようなことをする犯罪者集団もあります。多くの場合、内容を見れば、偽物であることは一目瞭然ですが、届いた書類が正式な文書なのかどうかがよくわからないときは、きちんと裁判所や弁護士へ確かめる必要があります。連絡先が裁判所や実在する弁護士でない場合は詐欺文書の可能性が高いです。

    2 内容証明の出し方
     内容証明は法的な構成をふまえて過不足なく記述する必要がありますが,日常的な売掛金債権の回収や,取引上の通知・通告などの簡易な内容であれば,ある程度自由に記述しても,その効力にさほど影響ありません(後日の補正ができます)。
     文具店等に,日本法令の「法令様式」のコーナーがあり,「内容証明郵便用紙」が販売されていますが,その用紙を使わなければならないものではなく,普通のコピー用紙にプリンターで印字したものでも,便せんに手書きをしたものでもかまいません。用紙は5年間の保存に耐えられるものであればなんでもよく,枚数の制限もありません。
     但し,1枚の用紙に書ける文字数は,1行20文字で26行以内(横書きの場合は13文字40行以内)と決められていますので注意が必要です。
     すべて文字と記号だけで構成する必要があり,図表を付けることはできません。文字に下線や傍点をつけることは出来ます。
     内容証明文書以外の別紙などを同封することはできません。
     また,①のような特殊な文字は二文字とカウントしますので,一行の中にそのような文字がある場合には注意が必要です。
     出し方は,同じ内容の文書を3通作成して,記名捺印して郵便局の窓口へ持ち込みます。複数枚になるときは割り印をします。また,宛名を書いた封筒も準備しておきます。
     郵便局の窓口では,文字数の制限や宛名と封筒の表記の一致等を点検して,受付印を押して,2通を封筒とともに返してくれます。これは,「その封筒に1通を入れて,残り1通は控えとして持っておいて下さい」という意味なので(窓口の人はいちいち説明してくれないことが多いです),封筒に文書1通を入れ,封をして窓口へ戻します。料金は差し出し枚数によって違いますが,2-3枚程度のものであれば,2000円以内で足ります(詳しくは日本郵便のホームページなどでご確認いただくか,窓口でおたずね下さい)。
     このほか、やや使い勝手は悪いのですが、電子内容証明郵便というものもあります。これは一枚あたりの文字制限がない(枚数は5枚まで)ので、紙ベースの内容証明にすると2枚以上にわたる内容でも、1枚に納めることが出来ます。詳しい使い方等は日本郵便のホームページをご覧下さい。

  • 企業取引契約への法律適用

    1 外国との取引で最低限決めるべきこと
     商売上の取引はすべて契約法が支配します。そして,契約は,最終的には法律の強制力によって守らせることができるからこそ,意味があるものです。
     日本国内の契約では、ほぼ例外なく日本法を適用し、日本の裁判所で審理されることを前提に考えておけば足ります。
     国際間契約書では,戦争や国交断絶に至るまで,様々な突発事故を考慮した細かい規定が定められることがありますが,日本国内の契約実務では,大きな柱は立てるものの,細部は「信義誠実に基づいて協議する」条項で広くカバーし,問題が起こったときに話し合って決めればよいという発想が、いまだに主流です(本来これでは契約書の意味を成さないのですけど、慣用的にまあよしとしてしまっています)。

     外国との取引では,国内企業同士の取引の場合と違って,決めておくことが望ましい大切な二つの事があります。それは,「準拠法」と「管轄」です。管轄は国内企業同士の場合にも重要です。
     準拠法とは,その契約にどこの国の法律を適用するかという問題です。準拠法は第三国法でもよいのですが,双方が他国の法律に準拠すると,法令調査がたいへんだという問題もあります。法律の内容によっては,日本の裁判所で適用されない条項もあり得ますので,出来れば,日本法を選択したいところです。
     次に管轄とは,その契約に基づく紛争が生じたときにどこの裁判所で解決をするかという問題です。これも準拠法とは別に,当事者が合意により決めることができます。国際取引の場合には,裁判管轄のほかに,商事仲裁機関を紛争処理における第一次専属管轄とする例も多くあります。例えば,中国には,中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)があり,日本では一般社団法人日本商事仲裁協会があります。

    2 特に国際売買取引について
     国際物品売買契約に関する国連条約(CISG 通称ウイーン売買条約)を日本が批准したことにより,2009年8月1日以降の国際売買取引に適用されることになりました。これ以前は,準拠法を定めない場合には,それぞれの当事国の法解釈により,どの法律を適用するかを決めていましたが,この条約適用後は,当事者間で別の合意をしていない限り,この条約が適用されることになります。なお,これはあくまでも売買契約が対象であり,運送契約や請負契約等には適用されません。

    3 準拠法を決めなかった場合
     準拠法や管轄裁判所を全く決めていなかった場合にどうなるかについて説明します。
     準拠法を決めていなかった場合には,まず自国の法律が適用されるかどうかを検討します。その場合の基準になるのは,平成18年までの契約であれば「法例」,平成19年以降であれば「法の適用に関する通則法」です。その内容には微妙な違いがあるので,いつの時期の契約なのかによっては解釈が違ってくる可能性があります。
     準拠法が決まれば,裁判管轄についてもその準拠法の定めにより決まります。
     裁判管轄はあるが,相手が外国会社であるという場合には,日本の裁判所へ提訴できますが,その際には,相手国の言語による訳文を添付して提訴し,相手国政府を通じたルートで相手に届けることになります。これにはかなり時間が掛かることもあると言われております。たいていの場合には日本に支店があることが多いでしょうから、あまりこのようなケースはないかもしれません(私は未だやったことがありません)。
     日本に管轄がない場合には,相手国の裁判所への直接提訴ということになります。その場合,相手国裁判所では,自国法に基づいて管轄権の有無を判断し,管轄がないと判断して却下することもあり得ます。また,準拠法に関する相手方からの異議により,改めて準拠法と管轄が問題となる可能性もあります。
     このように,準拠法や管轄を決めておかないと,内容の判断に入るまでに,門前で無益なやりとりを延々と続けなければならない羽目になりますので,注意が必要です。