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医療契約の相手方と訴訟上での相手方表示の問題

 患者が医療機関を受診すると、患者とその医療機関との間に原則として一定の「契約関係」が成立します。医療契約の法的性質論については、いろいろとあるようで、その説明は私の能力不足で出来ません。
 債務不履行構成で請求する場合には、相手方とのなんらかの医療契約関係の存在が請求原因事実となり、裁判実務上、相手方として誰をどのように表示するか、については、一定の決まり事があるので、説明しておきたいと思います。
 ちなみに、不法行為構成で請求する場合には、医療契約の存在は請求原因事実でないので、故意過失の主体となる医師個人を単純に被告にすればよいです。当該医師が病院との間で雇用関係や委託関係がある場合で、病院に対しても使用者責任を追求したいとなったときには、相手方表示の問題が出てきますが、それは、患者と病院の医療契約の問題ではなく、当該医師と病院との間の雇用・委託契約の問題です。とはいえ、その病院表示の特定については、以下医療契約の相手方として述べる部分がそのまま参考になります。

考え方
1 契約の相手方は、当該医療機関の「開設者(医療法7条)」であり、医師個人の開設であれば当該個人、法人の開設であれば、当該法人が相手となります。

2 国立病院は独立行政法人国立病院機構が開設者であり、地方公共団体の経営病院は当該地方自治体が開設者です。

3 団体・法人が相手になる場合の訴訟の相手方には、当該団体・法人の代表者を指定します。
 独立行政法人国立病院機構理事長、地方公共団体の首長、医療法人等の理事長がそれぞれの代表者です。
 ただし、地方公共団体が、地方公営企業法に基づく病院事業管理者を置いている場合には、当該公営病院の代表者は「病院事業管理者」になります。

注意点
 病院に・診療所には、「開設者」とは別に「管理者(医療法10条)」がいますが、この「管理者」は必ずしも当該病院の「代表者」ではありません。
 また、病院には「院長」と呼ばれる職位の医師がいることが多いですが、その呼び名にかかわらず、当該「院長」が「開設者」でも「管理者」でも、当該医療法人の「理事長」でもなく、直接診療行為をした当該医師個人でもない、のであれば、その「院長」は、当該病院に対して訴訟をするときの相手方には、なりません。

 では、ある医療機関の「開設者」「管理者」を知りたいときにはどうしたらいいでしょうか。
 そういうときは、「医療情報ネット(厚生労働省のリンク)
 を使います。
 
 検索のシステムは、各都道府県別になっていて、多くの場合は病院名称で簡単に検索できますが、稀に病院名称だけでは検索結果に出てこない場合もあります。そのときは、当該病院の所在地で検索すると出てくることが多いです。基本的には病院の報告がそのまま掲載されているのと、一定のタイムラグは不可避にあるので、必ずしも最新情報ではないという問題点はありますが、それさえ注意すれば、役に立つ情報源です。

債権の管理回収の話(3) 仮契約、オプション

1-2 仮契約の甘いワナ
(1)仮契約書等の作成は必要か
 契約をするにあたって、正式な契約の前に、仮の合意を書面化しておきたい場合があります。複数の論点が契約締結までに順次協議され、その都度合意されていく場合には、論点ごとに合意書を作りながら正式契約へ向けて進めていくというやり方も間違いとは言えません。その場合には、正式合意でないことを明確にするため、仮契約書、暫定覚書、レター・オブ・インテントなどのタイトルの文書にします。
 しかし、書面の存在は、裁判所に対する証拠価値上、大きなインパクトがありますので、正式合意前にやたらと文書を作成することは訴訟対策としては好ましくなく、文書化には慎重な判断が必要です。
 どうしても必要な場合以外には、仮の文書は作らない方がよいでしょう。もし作成せざるを得ない状況になったときでも、次のような点に留意が必要です。

(2)拘束力をどこまで付与するか
 仮契約書等は、その具体的な記載方法によっては、記載された重要事項に関する合意が成立したと解釈されます。
 合意の拘束力を弱めるには、「仮提案書」など当事者の提案を記したものであることが明確となる表題を付し、調印された最終契約書が成立しない限り何ら拘束力を有しないこと、各条項は当事者の合意を示すものでないこと、信義に則った交渉義務が生じないこと等の規定を置くほうがよいでしょう。もっとよいのは、最初から仮契約書を作らないことです。
 他方、合意の拘束力を強くしたい場合は、最終契約書に達する努力をする信義誠実義務や、相手方が仮契約書等を信じて行動したときに不利益を受けないように補償する義務等の明記をすればよいでしょう。

(3)前提とする事実の範囲はどこまでか
 仮契約書等の作成に至る経緯、動機、目的などを記載することで、仮契約書等の内容が理解しやすくなり、また、その解釈の指針を与えることができます。これによって、後に前提条件が変わった時でも、新たな解釈のもとに合意が改廃しやすくなり、柔軟な対応も可能となるでしょう。具体的にどの程度の条件設定にするかは、ケースバイケースでしょうが、緩くしすぎると条件の意味がなく、厳しくしすぎるとわずかな条件ズレで合意が無駄になるので、前提事実の確定も慎重に判断する必要があります。

(4)進め方に関する合意
 請負のような結果追求型の契約形態の場合、得られる結果が重要なので、途中経過で仮契約が必要になることは少ないでしょう。むしろ、契約締結後の事情変更で条件変更契約が必要になってくる例が多いと思われます。
 他方、継続的供給契約や共同研究開発など、プロセスが重要な契約では、仮契約で契約の目的内容そのものではなく、手続きの進め方や担当分担などの手続き面・形式面を先行して合意しておくことも有効でしょう。ただ、やはり仮合意は望ましくないので、出来れば基本契約のような枠組契約を作成して、そこから派生する個別の詳細契約を別途順次作成していく方式のほうがよいかもしれません。

(5)秘密の保護
 暫定合意の後の作業を進めるうえで、相手方に技術や秘密を開示することが不可欠であることが多いため、前もって技術や秘密を開示する当事者を保護する合意が必要になることがあります。
 なお、開示された技術の第三者開示禁止までは問題がないのですが、開示を受けた当事者がその技術に基づいて生み出した新たな派生技術の利用をどこまで制限するかは、独占禁止法の観点からの検討も必要であり、権利の濫用にならないように慎重に制限条項を定める必要があります。

1-3 オプション条項
 一方的意思表示により当該契約に基づく履行請求ができる条項を「オプション」と言います。
 オプション条項は、将来的なリスクを回避するために、相応の危険費用をあらかじめ想定して、不確定さを織り込んだ契約とすることができる点で、履行の柔軟さと契約の明確さを両立できる手法といえます。
 ただ、一般の契約にオプション条項を設けることは、双方にとって大きなリスクを含むこととなりますので、権利行使条件や期限などは、あいまいにしないで、一義的に取り決めておく必要があるため、商取引の実際上の応用は利害関係があまり対立しない親子会社・グループ会社間のリスクヘッジ取引に限られてくるだろうと思われます。