不正競争防止法で保護される「商品等表示」

 この関連で問題となった事案には、次のようなものがあります。

 VOGUE事件。米国で1892年に創刊された著名なファッション雑誌の名前を分譲マンションの名前の一部に使った事件です。裁判所は、不正競争行為であると判断しています。「Vogue」は英語(語源は仏語)で「流行」の意味らしいですが、ファッションと不動産という違う分野であってもダメだとされました。

 映画・書籍・ゲーム等のタイトルに関しては、「超時空要塞マクロス」「究極の選択」「スイングジャーナル」「ゴーマニズム宣言」「D・カーネギー」「ファイアーエムブレム」などの裁判例があります。それらの結論は、不正競争とされたものもあれば、そうでないものもあり、保護範囲に関しては、具体的な事情により、判断が分かれている状況です。

 裁判の勝敗を分けるのは、権利者側が当該表示をどれくらい市場に周知・認識させていたか、侵害者側が当該表示を使って、どの程度消費者を誤認させたか、その二つの程度の問題です。この立証のために、不正競争の商品表示が問題となった事案では、新聞雑誌の記事やパンフレット、取引状況など膨大な証拠資料の提出が必要になります。

 契約に基づく請求は比較的簡単な事件ですが、上記のように、双方の言い分が真正面からぶつかり合う種類の裁判は労力が大変なものになりがちです。一般の事件でいえば、双方過失のある交通事故、専門的判断が争われる医療事故、離婚原因に争いのある離婚事件などの不法行為案件は、立証に苦労する類型の事案です。
 裁判実務をよく知る弁護士の多くは、この手の事案は、最終結論を判決に委ねずに、早期に和解をすることが望ましいと考えていると思いますが、一般の方にとって、自分の言い分を貫徹させない決着方法は、なにか、負けを認めるようで、あまり受けのいいものではないかもしれません。
 目先の勝ち負けにこだわらないことは、いろんな戦陣訓でも言い古されていることではありますけれども、まさに言うは易く行うに難しです。しかし、本当に判決まで取るべき難しい事件というのは、結構限られた数しかないように思います。

 弁護士が増えて訴訟社会化と言われる今日、当事者の利益そっちのけで法的手続きを強行し、紛争をあおるような弁護士も巷間少なからず出現しているようですから、当事者にとって本当の利益がどこにあるのかを見失わないように、紛争が起こってもまずは落ち着いて対処することが肝要です。

不正競争防止法で保護される「営業」

 不正競争防止法は、いわゆる自由主義経済を前提として、各事業者間で、公正なルールの下で自由に競争をすることが、経済全体の健全性の維持に役立つという理念のもとに制定されている法律です。

 この法律で保護される「営業」に関して、面白い最高裁判例があります。それは、宗教法人の名称に関するものです。理解の前提として、宗教法人の仕組みについてまず説明します。

 宗教法人には、その法人が独立して一つの団体となっている「単立」宗教法人と、ある宗派の名前のもとに同じ宗派の宗教団体が多数集まっている「包括」宗教法人とがあります。多くの著名な宗教団体は、本部が包括宗教法人となり、各地に設けられた支部、分教会、末寺などがそれぞれ「被包括宗教法人」となって、上部団体である包括宗教法人に所属するという形をとっています。包括・被包括ともに、それぞれに代表役員という代表者の定めがあり、法的な観点からはそれぞれが独立した法人としての取り扱いを受けます。本件で問題となった「T」もこの包括宗教法人でした。

 さて、紛争の発端は、Tの分教会を主催する代表役員が、T本部と異なる独自の教義解釈に基づいて、T本部からの独立(被包括関係の廃止といいます)をしたにも関わらず、独立後も依然として「T・・教会」の名前で宗教活動をしていたことから始まります。本部の教義と違うことをTの名前で実行されたのでは、宗教団体としての統一が図れませんし、誤認をする信者などの出現により、布教活動にも支障が出ます。そこで、当然ながらT本部としては、その名称を変更するように、その元分教会の代表者に要請したのですが、全く聞き入れられませんでした(その代表者としては、自分の考え方こそがTの教義に合致しているとの信念があったのかもしれません。多くの伝統的宗教でも、いくつかの宗派に分かれていることは、今日当たり前ですから、それと対比して考えると、同じ宗名で別派があるという状況が必ずしもありえないものとまでは言い切れません)。
 結果的に、T本部は、裁判の手段を使いました。そこで、T本部が主張したのが、不正競争防止法2条1項の不正競争と、宗教法人としての名称使用権の侵害の二点でした。
 一審の地方裁判所は不正競争防止法の適用を認めましたが、二審の高等裁判所は、不正競争と名称権侵害の両方を否定しました。最高裁は高裁の結論を採用して、権利侵害を否定しました。
 ただし、最高裁は、宗教法人の活動全部に不正競争防止法が適用されないとしたわけではありません。「宗教儀礼の執行や教義の普及伝道活動等の本来的な宗教活動」には適用されないが、「それ以外の(例えば、境内地を駐車場として貸し出して収益を上げるような)収益事業」には適用されるとしています。これは、不正競争防止法が「経済収支上の計算に基づいて行われる活動分野での競争を公正の理念に基づいて規制しようとする目的」の法律であることによる適用場面の限定をした判断であり、司法として、宗教活動の自由に従前からかなりの配慮をしている傾向の一環でもあるとみられます。

 このような宗教活動に対する司法の抑制的な姿勢は、名称権侵害の判断にも影響しており、最高裁は、「多少の不利益があっても」本件の程度では、まだ名称権侵害ありとは言えないとの判断を示しています。本件のような場合には、同一の名称使用の事実だけではなくて、その名称使用により、包括法人側にも現実の経済的被害(たとえば、教義を混同されて、週刊誌等から名誉棄損を受けたとか、誤認によって一般信者が離反したとか)が発生したことまで立証できなければ、法的な損害賠償や名称使用の差し止めを求めることはできないと考えられます。

 Tがこの裁判でいったいいくらの弁護士費用を払ったのかは知りませんが、不正競争防止法を持ち出すのはかなりの無理があったように思われます。
 特に、宗教団体の内紛に対して、裁判所は信教の自由の観点から、積極的な判断を回避する傾向にあります。一般の事業会社にあっても、たとえば、「二人の社長候補のうち、どちらが適任か」などという問題を裁判所で争うことはストレートには不可能です。そのような事案では、手続きの瑕疵を主張したり、職務代行者選任申立のなかで、実質的な不都合を多数列挙して主張立証していく必要があります。
 裁判所だからといって、なんでもかんでも判断するのではなく、あくまでも憲法以下の法規範の適用を判断しているわけです。

タイプフェイス事件

 だれもがコンピューターを美しい見た目の画面で操作できる(WYSIWYG)ようになって20年以上が経過し、現代のコンピューターやプリンターにはいろいろな種類のフォントがたくさん入っています。
 このフォントに関する文字デザイン部分(タイプフェイス)にはどのような法律の保護があるのでしょうか。
 考えられるのは著作権、意匠権、一般の不法行為法上の法律上保護相当利益、不正競争防止法などです。

 著作権については、かなり高度の創作性・審美性がなければ、保護しないと判断した最高裁判例があり、この判例による限り、タイプフェイスを著作権で保護するのは無理があります。最高裁基準で著作権の対象になるのは、書家の筆致などに限られるものと思われます。ただし、フォントを一定のプログラムに基づいて創作するソフトウエアに関しては、著作権法での保護対象です(これは諸外国でも同様)。

 意匠権については、アメリカ合衆国やEU諸国でタイプフェイスが保護対象とされている例があるものの、平成18年・19年に財団法人知的財産研究所が実施した調査によると、日本の意匠法の保護制度とは違った面があり、そのまま日本法には取り入れがたい状況と言われています。

 一般の不法行為法で、例えば完全な模倣(デッドコピーといわれます)をしたものであれば、違法性があり、タイプフェイスとして法的に保護される場合があるとは言われていますが、これも実務上確立した見解とまではいえません。

 不正競争防止法ではどうかというと、平成5年の東京高裁決定(モリサワフォント事件)では、平成5年改正前の法律に基づいて、デジタル化した書体を収めたプリンター等の販売の差し止め仮処分に関して、不正競争行為と認めて、差し止めの仮処分を認めた例があります。しかし、その後法改正で模倣商品の譲渡に関する規定が加わったことで、この裁判例がそのまま一般化できるかどうかには議論があります。

 以上のとおり、タイプフェイスが知的財産であるという共通認識はあるものの、それを法的にどのような枠組みで保護していくかは、なかなか難しい問題のようです。
 現状としては、利用許諾契約でユーザーを囲い込むことでデザイン業者の利益が確保されていますが、タイプフェイスの権利性がはっきりしないために、海賊版や模倣品による侵害からの防御が意匠や特許などの場合よりもさらに困難な実情もあります。

 とはいえ、もともとは先人が意思伝達のために数千年を経て育ててきた結果が文字になって現代に流通していることを考えると、文字の変形バージョンに対するデザイン料の収受を超えて、万人に主張できる一般的な権利性を認めることに、やや躊躇を覚えるのは、、、私だけでしょうか。

参考文献リスト

医療過誤、マンション管理,示談交渉・調停・訴訟、交通事故、債務問題、相続・遺言、その他一般民事・商事に対応

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