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債権の管理回収の話(1) 契約交渉段階の基本

1-1 契約交渉段階
(1)大前提
 口約束でも原則として法的に有効な契約です(保証契約などの例外あり)。
 しかし、重要なビジネスを口約束だけで進めることはとても危険です。それはなぜでしょう。

 最大の理由は、後日の紛争に備えられないことです。口頭での表現は、文脈に応じた「解釈」の幅が広がりすぎる危険があります。もし、交渉全体を通じた録音がなければ、最悪の「言った・言わない」議論に陥り、相互に悪魔の証明が課されることになり、裁判紛争の場面では、立証責任を負うほうが不利な立場に置かれます。債権者は債権発生原因事実、債務者は債務消滅原因事実の立証責任を負う立場にあります。
 債権の管理回収に際しては、大原則・大前提は、「文書化」です。契約交渉段階から、決済に至るまで、あらゆる局面で、判断の分岐点が後日トレースできるように、内部文書や対外的書面を目的に沿って整備しておく必要があります。

(2)文書の形式
 法的観点から、文書で重要なポイントは、「原本性」「時期特定」「作成者確定」の3つです。
 ①原本性とは、その文書以外に代替できるものがないという性質のことです。たとえば、人が署名捺印した文書は原本性が極めて高度な重要書類といえますが、それをコピーしたものは、原本による代替性があるものなので、証拠価値も落ちます。ですから、代替性のない文書は、滅失・棄損したり、無用に改変されないように、確実に保管・管理しておく必要があります。
 ②時期特定とは、文書の表現がいつされたのか、わかるようにしておくことです。これをもっとも厳格に実行できるのは、紙ベース文書であれば、作成日付を記載したうえ、公証役場で確定日付の印を押してもらうことです。ただ、1件あたり700円もかかるので、どのような場合に確定日付をとっておくかは、リスクとコストの天秤で判断します。電子文書であれば、電子公証制度を使うことができますが、やはり費用は掛かります。もうすこし緩やかな証明力でよいのであれば、内容証明・配達証明・配達記録郵便の利用とか、ファックスや電子メールでの送信記録などが考えられます。
 時期を特定する目的は、事実の変化を後日検証するためです。つまり、法的な紛争が起こった場合、常識的に考えて、A事実は必ずB事実の後に起こるという論理が成り立つならば、A事実とB事実の時間的な前後関係は、当事者にとって非常に重要な要素になります。
 ③作成者確定とは、当該文書の作成者を明確にすることです。文書の表示内容は、誰かの意思に基づくものですが、誰が作成したのかわからない文書の内容の真正は、多くの場合、確かめようがないので、一般にその信用性は低いものとみられます。特に法律文書の場合、作成者が文書上に法的な意思を表現する権限を持たない場合、「意思表示の瑕疵(カシ・キズ)」につながる可能性があるため、作成者を明示することは絶対条件と言えます。

 以上の3つの形式的な要件が整えば、ひとまず法的観点からの文書としての信用性・証拠能力は合格レベルにあるといえます。あとは、その文書に表示されている内容が、真実に基づいて、的確に表現されているかどうかによって、文書の証拠価値が定まります。

ドメイン名の不正取得

 平成13年に不正競争防止法が改正され、不正に利益を得ようとしたり、他人に損害を与える目的でドメインを取得・保有することが禁止されました。それまでは、実際にドメインを使っていない場合には不正競争にならなかったのですが、この改正により、ドメインを取得するだけで違法の扱いになりました。

 ドメイン紛争は、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)が定めた紛争処理方針に従って、日本知的財産仲裁センターで裁定が行われます。
 詳しい内容は、各センターのWebサイトをご参照ください。
 ドメインの権利はあくまでもドメイン管理団体が認める範囲での名称の使用権であって、特許権や意匠権のように固有の排他的性質を持つものではないのですが、ドメインがネットワーク上で唯一無二の名称として、商標や商号と同じように使われる現実上、一定の財産的価値を認めて第三者による侵害からの保護を図ることになっているわけです。

 これに関連して、以前「mp3.co.jp vs mp3.com」事件というのがありました。センター裁定では、jpのドメインをcomに移転するべしと決まったのですが、それに対して、jp側がcomの登録者に対して、不正競争防止法を主張しないように求めて日本で裁判を起こしたのです。この件について、「裁定が覆った」と評するものもありますが、裁判所が判断したのは、「不正競争防止法」該当性であって、裁定の結論そのものを無効にしたり、覆したりするものではありません。

 センター紛争処理方針・手続規則によると、裁定から10日以内に提訴すれば、裁定の実施が保留される仕組みになっているのですが、裁定はすでに下っているので、ドメイン移転を防止するためには、改めて仲裁センターの判断を仰ぐ必要があります(おそらくその場合にはセンターが裁判所の判断に従うので、結論は同じになる可能性が高いと思われます)。

 仲裁センター自身も、センターの判断と裁判所の判断が食い違う場合もあることを認めており、その場合の対応は、事案の集積によって当面は様子を見るという態度を取っているようです。このあたりのあいまいさはなんとも日本的だなあと思うところですが、幸い、その後はセンター判断と裁判所判断が逆転する事案は、現れていないようです。

 ちなみに、ドメインに関しては、アジア系の詐欺グループが活動しており、ドメイン保護を口実にして、無用のドメインを登録させたり、ドメイン移転をほのめかしてコンサル料を請求したりするための、ダイレクトメールを送ってくるケースが世界中で広まっています。
 ドメインに関するダイレクトメールはほぼ詐欺ですので、安易に返信したり、問い合わせをしたりしないように注意してください。

秘密の流出と対策

 今回は秘密流出後の対策についてです。
 一般的に、取り急ぎ実効性のある法的措置を取りたい場合に役立つのが、「仮処分」という方法です。
 ずいぶん前になりますが、仮処分については一度解説したことがあります。重要なキーワードなので、再度説明します。

 裁判所の判決は,確定して初めて,その効力が発生するのが原則です。「確定」とは、相手方がその裁判の結果を争う手段がないという状態に至ることです。
 具体的には、裁判のなかで、「和解」をするとか、一審判決に対して、相手が控訴しないで2週間を経過するとか、いろいろなパターンがあります。そのため、相手が徹底的に争って来れば、最高裁まで事件が続き、確定まで最短でも2年くらいかかってしまうことがあります。

 「仮処分」は,判決が確定する前の段階で,相手方が勝手に紛争の目的物を処分したり,価値を減らしたりするのを防いだり、現に侵害されている権利がそれ以上侵害されないようにするための措置を講じたりするために、裁判所に申し立てて、一定の命令を出してもらう法的手段です。
 よく使う例としては、賃貸していた不動産の賃借人が賃料を払わないので,解除をして明渡を求めた場合に、賃借人が「占有屋」のような人物に不法占拠させて、追及を逃れようとするのを予防するために、「占有移転禁止仮処分」をするというものがあります。もし、この仮処分をしないままに、裁判を起こすと、裁判で勝って確定時に執行官を使って明け渡しをさせようとしても、その時点での占有者が裁判の相手と違っていた場合には、明渡を強制できません。これは、「賃借権」が、賃貸人と賃借人の間の約束であるためです。つまり、明渡の裁判は、賃借権者の地位に基づく権利行使なので、賃借人に対してしか効果がないのです。
 ただし、不正競争の場面での「仮処分」は、上記「相手方特定機能」ではなく、「仮の満足」すなわち、不正な侵害をひとまず中止してもらうという機能を目的として申し立てをします。賃借権の場面でも、例えば、賃貸事務所が暴力団に占拠されているような不法性の明白なケースでは、このような「満足機能」を目的とした「断行仮処分」をすることがあります。

 これまでに紹介した不正競争関連の裁判事例でも、「販売差し止め」や「商標使用禁止」を仮処分で申し立てた例があったと思いますが、そのような仮処分を執行することによって、時間の経過によって拡大する可能性がある損害を早い段階で食い止めることが可能となるわけです。
 他方、仮処分の相手の側(「債務者」といいます)からみると、万一裁判で権利侵害でないという結論が出た場合には、仮処分のせいで販売機会を失ってしまう結果に対して、ある程度の損害の発生が考えられることになります。そこで、この両者の権利関係を調整するために、仮処分を申し立てた側(「債権者」といいます)は、債務者の損害を担保するために、「保証金」を供託しなければなりません。これは裁判で勝訴すれば戻ってきますが、万一敗訴して、債務者が担保の権利を行使すれば、債務者に取られてしまう可能性があります。

 保証金の金額には、裁判所がおおよその目安になる基準を示していますが、前記の通り、保証金は債務者のための担保なので、債権者の権利がどれぐらい確実らしいかどうかで、上下に幅があります。前述の暴力団の事務所占拠などに対する仮処分では、数万円程度の保証金で決定が出ることもありますし、申立段階で債権者の権利が不確実と判断されれば、保証金は高額になり、そもそもいくら保証金を積んでも仮処分命令を出してもらえないこともあります。

 どんな法的手段であれ、まず最重要であるのは、「事情を知らない第三者(裁判官)に、債権者としての主張内容が真実であろうと信じてもらえる程度の証拠資料」をきっちり集めておくことです。
 そのためには、日常業務から、紛争予防のための記録化・証拠化を意識する必要があるといえます。