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  • 解雇無効となった場合の賃金支払

     解雇については、前回分までの解説でおおむね説明しました。

     今回は、万一、解雇が裁判で無効とされた場合に、解雇以後の賃金の支払いはどうなるかという話です。

     一般的に、解雇無効の裁判が確定した後であっても、円満に職場復帰することはほとんどありません。
     円満復職の場合は、過去分の未払給与についても当事者同士で協議できるので大きな問題になりませんが、そうでない場合には、最終的に退職するとして、係争中の未払給与額の支払いや、地位保全仮処分による仮払額の清算が問題になります。使用者側からすれば、実際に働いていないのに給与を払う必要があるのか、係争中に別のアルバイトで稼いでいた分は控除してもいいのではないか、等の疑問があり、他方、労働者側からすれば、解雇が無効なのだから、働いたのと同じ扱いをしてほしいという要求がありますので、双方の利害を調整する必要があります。

     この点が争われた著名最高裁判例が二つあります(最高裁昭和37年7月20日判決・全駐労小倉支部山田分会事件、最高裁昭和62年4月2日判決・あけぼのタクシー事件)。
     この二つの判決から導かれる結論は、

      1.  副業的なものであって、解雇の有無にかかわらず得られたであろう収入以外の収入があるときは、元の勤務先が払う平均賃金額から4割まで控除できる。
      2.  平均賃金算定の基礎にならない部分からは全額を控除できる。
      3.  控除対象になるのは、解雇期間中に得られた収入に限る。

    というものです

     例えば、

     解雇後合意退職までの係争期間が1年間で、元の勤務先の平均賃金が月10万円、解雇期間中に対象者が働いていた別の勤務先の賃金が月5万円であった場合、10万円のうちの4割(4万円)まで控除できるので、元の勤務先は月6万円の1年分72万円を支払うことになります(0円とか、10万円-5万円の1年分=60万円では済みませんが、10万円1年分=120万円を払う必要はありません)。
     別の勤務先の賃金が月3万円だった場合は、3万円控除して月7万円の1年分84万円を支払うことになります(6万円1年分=72万円では済みません)。
     もし別の勤務先からの月収3万円が、副業的なものであり、解雇の有無にかかわらず得られていたものであれば、控除はできません(10万円1年分=120万円を払う必要があります)。

     平均賃金算定の基礎にならない部分としては、賞与(3か月を超える期間ごとに払われる臨時給)が代表例です。 
     先ほどの別の勤務先での月収5万円の事例で、解雇期間中に元勤務先で20万円の賞与が出ていれば、平均賃金部分から控除できなかった月1万円1年分=12万円をそこから控除できますので、賞与としては8万円を払えば済みます(つまり、合計で80万円(72万円+8万円)を払えばよい。140万円(120万円+20万円)のうち6割(84万円)ではない)。また、別勤務先からも賞与20万円が出ていれば、元勤務先での賞与の未控除部分8万円まで控除できるので、72万円の支払いで済みます。

     解雇が争われた裁判で、使用者側が敗訴した場合、以上のような計算に基づく清算をしなければならないのですが、解雇無効と裁判所に判断されてしまった後の交渉は、使用者側にとっては、大きなハンデを負わされた状態です。
     もし、保全処分に基づく仮払いが計算上過払いになっていたとしても、その立証や請求・回収にはかなりの労力が必要になってしまいます。
     いずれにしろ、トラブルの根源は、無効になってしまうような解雇のやり方をしてしまったことにあります。

     そうならないように、事前にきちんとリーガルチェックを受けることが大事だと思います。

  • 謹賀新年 2015

    あけましておめでとうございます。

    昨年もいろいろな事件がありましたが、今後も事件は続くでしょう。

    皆様の、ご健康とご多幸を祈念申し上げます。

    私も、世の中の動きに注視し、道を間違えないように、しっかりと歩いて行こうと思います。

  • いわゆる雇い止めと無期転換申込について

     前回は期間を定めない労働契約の場合の企業側からの解消(解雇)について説明しました。
     今回は、期間を定めた「有期契約」の解消(雇止め、更新拒否)についてです。
     「期間工」とか「臨時工」といって、工場などで一定の繁忙期ごとに期間を区切って雇い入れる例が典型ですが、工場でなくても、事務職員や雑役のためのパート・アルバイトの採用に当たって、有期契約で雇い入れれば、社内の呼び名がいわゆる「正社員」であれ、「契約社員」であれ「パート」であれ、すべて同様の問題になります。
     従前、労働基準法では、原則長期3年を超える有期契約は認めていませんが、短期は、必要以上に細切れにならないように求める指針があるだけです。そもそも、長期の拘束が前近代的な奴隷労働につながることを危惧して、長期契約を制限したのですが、現代では、むしろいかにして長期安定雇用を守るかが労使ともに目標課題になっている感があります。

     労働契約法のうち、有期雇用については、平成24年8月に改正があり、平成25年4月1日から有期転換申込の制度が施行されています。
     有期雇用の場合の更新拒否・雇い止めに解雇権濫用法理の適用がないことは改正法のもとでも原則論です。
     例外として無期転換申込が適用される労働者は、期間を定めて雇用し、更新を繰り返して通算5年超雇用されていた労働者です(ただし、大学等の研究者、期間限定専門職、定年後の継続雇用等の例外があります)。
     通算5年の反復更新期間をカウントするスタートは、平成25年4月1日以降に更新された契約の始期です。従って、平成24年12月1日に6か月と定めて短期雇用した人については、平成25年6月1日の更新から5年がカウントされます(平成24年12月1日からではありません)。
     5年を経過してから更新する場合には、労働者のほうから「無期転換の申込」をするかどうかを選択出来ます。事業者が労働者の意思に反して一方的に無期に転換することができるわけではありません。
     たとえば、先ほどの半年契約の労働者の例でいうと、平成25年6月1日から5年を経過するのは平成30年6月1日ですが、同年5月末日終了の契約の始め(平成29年12月1日)から平成30年5月末までの間に、期間の定めのない労働契約に変更するよう、使用者に対して申し込みをすることができます。
     労働者から無期転換申し込みがあったときは、事業者はこれを拒否できません。しかし、期間以外の労働条件(職種、勤務地、賃金、労働時間など)は、従来のままでもよく、変更の要求に応じる義務まではありません(他方、労働者の側からの期間以外の条件変更要求が禁止されているわけでもありません)。
     「通算」5年ですので、途中に空白期間があるときにはそこで中断されて、再雇用のときからカウントを積算します。どの程度の期間が空けば空白とみなされるかは、省令で細かく定義されています。

     雇止め法理と不合理な労働条件の禁止については、厚生労働省作成のパンフレットにも書かれた二つの最高裁判例やその他の裁判例がベースです。改正法の内容も、結局は「社会通念」とか「合理的理由」といった、解釈の幅の広い概念によって規定されていますので、実際の紛争になったときには、ケースバイケースの判断とならざるを得ません。
     なお、労働契約法の改正に伴って、短期雇用者に対して更新条件を通知しなければならなくなったので、労働条件通知書のモデル書式にも変更がありました。

     ちなみに、上記の法律改正にあたっては、労使双方から様々な意見があり、例えば、5年を超えて更新しないこと(1年契約として3年目で雇止めしてしまう例)が常態になってしまって、かえって短期雇用が増えるのではないか、あるいはせっかく5年を超えて契約期間が無期限になっても、正社員並労働条件に変更されないのでは、就業環境の悪化を固定化させてしまうのではないか、等と言われていました。改正法施行から1年以上経過したので、ほとんどの短期雇用者が今後改正法の適用を受ける立場にあろうかと思われます。今後、改正時に懸念された問題が現実になるのかどうか、注意を払う必要があるかもしれません。

     どんなに法律が変わっても、会社が従業員を大事にするかどうかによって、労働環境はまったく違ったものになり、結局は、裁判所で個別の事案事に争われていくという構図には変わりが無いように思います。
     会社と従業員が共存して繁栄していくWinWinの関係が成り立つように、経営者も労働者も立場の違いを理解し合って、事業の発展に勤めて収益を上げていくことが望ましい道筋ではありますが、現実問題としては、これからも難しい課題が存在し続けることは間違いありません。
     少なくとも経営者としては、法律の遵守が最低条件ですから、労働契約関係の法律改正や厚生労働省指針等に十分に留意した労務管理を行うことが必要です。