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  • 商標登録の対象商品・役務の問題

    問題
     自社製品の楽器について取得している商標(ロゴ)をTシャツに印刷して、楽器店で楽器を買ってくれた人に無料で配って販促に使おうと考えています。ところが、同じようなロゴを使うTシャツがすでに他社から市販されていて、ロゴも「衣類」で商標登録されていました。当社のロゴは「衣類」について商標登録していないので、販促グッズとして、ロゴ入りTシャツを配布すると、Tシャツ会社の商標を侵害することになるのでしょうか(BOSS事件参照)。

    解説
     この問題を理解するために、商標が、どういう登録のしかたをされているのか知っておく必要があります。
     商標は、一定の商品や役務を対象として特定したうえで登録申請されています(法6条)。対象は国際基準に沿って、施行令で45種類に区分されていて、各区分には対象品目が詳細に列挙されています。楽器は第15類、Tシャツは25類に分類されています(2013年1月現在)。
     商標登録によって取得できるのは、独占的排他的利用権であり、専用権(独占)と使用禁止権(排他)があると言われています。
     では、Tシャツでの商標権がない場合、楽器会社はノベルティのTシャツにも自社ロゴを入れることができないのでしょうか。また、Tシャツ会社は、楽器会社が作った販促用のTシャツについて、商標権侵害を主張できるのでしょうか。

     問題のケースは実際に裁判で争われた事案で、専門家の間でも意見が分かれていますが、裁判所は、商標侵害ではないと判断しています。
     判断の要点は、商標が、対象商品や役務の「出所」をほかのものと混同させないようにして、商標権者が当該商標を通じて、商売上の信用を蓄積する目的があることをどの程度重く評価するかの点にあります。
     売り物ではなく、あくまでも購入者特典として無償サービスする場合や、宣伝広告のためにロゴ入りの生活用品を作りたいというような場合であれば、もともとの商標権の保護対象の範囲内とみてもいいように思えますが、他方、そのようなロゴ入り衣類が大量に出回ることになると、「BOSS」ブランドを巡って誤認混同を生じるおそれもあります。楽器会社のほうが比較的著名だった場合、Tシャツ会社の不利益はより大きくなりかねません。
     問題のケースでの裁判所の結論は、楽器店側(宣伝広告として商標を使う側)に有利な結果になっていますが、個別具体的な法的紛争の実情によっては、まだ争いの余地が多い論点といえます。

     商標出願にあたっては、一類型ごとに出願料、登録料が加算されるので、複数出願をするとコストも増えるのですが、上記の例のように、法律の分類を超えて事業展開をしていくことを考えて、複数類型への出願を検討する必要があることが理解できると思います。

  • 商標法違反になる場合とは

    「商標法違反」で「刑罰」をうける可能性があるのはどんな場合でしょうか。

     商標法では、「侵害」「詐欺行為」「虚偽表示」「偽証」「秘密保持命令違反」と一定の場合の「過料」とを規定しています。

     侵害罪(商標法78条)は、商標権または商標の専用使用権を侵害したとき、10年以下の懲役・1000万円以下の罰金(法人に対しては3億円以下)に処される規定です。かなり罪が重いのは、窃盗や横領などと同様に、財産的被害を商標権者に与えるものであり、その被害が、際限なく拡大し得ることが考慮されているためです。類似品や防護商標による侵害の場合には、法定刑が上記の半分になっています(法78条の2)。

     詐欺行為罪(法79条)は、詐欺によって商標登録等の権利についての決定・審決を受けたとき、3年以下の懲役または300万円以下(法人は1億円以下)の罰金に処せられる規定です。これは主に登録を出願する側で問題になる規定です。

     虚偽表示罪(法80条)は、商標保護対象でないのに、他人の商標を虚偽で表示したりするような行為が処罰され、刑罰は詐欺行為罪と同じです。

     偽証罪は、一般の刑法上の偽証罪と同じ要件効果ですが、自白の場合の刑の軽減・免除が可能な点で、刑事責任が緩和されています。

     秘密保持命令違反は、平成16年改正で追加され、商標申請上の営業秘密などを開示することに対して、5年以下の懲役・500万円以下の罰金に処される規定です。

     過料は刑罰とは違って、特許庁や裁判所の判断で、ペナルティとして10万円以下で課されるものです。対象となるのは、偽証や審理への非協力、妨害などの行為です。

     商標権を持っていない会社でも、侵害罪等になる行為をしてしまう危険性はありますので、商標法なんてそんなんわが社に関係ないとは言えません。

     侵害行為の類型は、法37条が参考になります。まとめると、

    1. 商標権の対象として登録された指定商品・指定役務(以下まとめて指定対象等)について、登録商標・類似商標・防護商標(以下まとめて登録商標等)を使ってはいけない。
    2. 指定対象等と類似した商品・役務に対して、登録商標等を使ってもいけない。
    3. 商品そのものでなく、包装にも登録商標等を表示してはいけない
    4. 商標権侵害品を所持、製造、譲渡、輸入してはいけない
    5. 侵害品そのものでなく、侵害商標を製造する専用物品も製造、譲渡、輸入してはいけない

     以上のうち、輸入に関しては関税法の適用もあります。
     具体的には、関税法69条の11の1項9号該当で、同2項により没収廃棄されますし、同法109条2項により未遂でも10年以下の懲役・1000万円以下の罰金になり、予備すら処罰されます(5年以下・500万円)。刑法の感覚でいうと、予備が処罰されるのは、放火、殺人、強盗、身代金誘拐など限られた重い罪だけなので、不正輸入がいかに重くみられているかが分かります。

  • 商標・意匠の概要

     商標や意匠は、身近にあふれている一方で、その法的意味や、会社実務への影響の理解が不十分であるために、危険な塀の上を綱渡りで歩いているような中小企業・個人事業も案外散見されます。

     例えば、長年研究を重ねた画期的なデザイン・機能をもつ照明器具を開発し、大々的に売り出したいという場合、もし、ライバル社へ情報が漏れて、自社製品と見分けがつかないような類似品が発売されてしまったら、研究開発費用を回収出来ず、販売戦略にも大きな支障が生じてしまいます。また、運良く競業他社をしのぐ高評価を市場から得ても、後発の類似品・粗悪品が似たような名称・デザインで発売されてしまうと、自社の売り上げばかりか、製品の信用まで落ちてしまうことになりかねません。

     そのような事態を防止し、意匠(独創的なデザイン)や、商標(商品を特徴付ける呼称やマーク)に伴う信用を保護するための法律(知的所有権に関連する諸法)があります。

     おおまかにいうと、
     意匠とは、工業製品のデザインのことで、形状や色彩の組み合わせが他のものと違う特徴的な独創性をもつものを登録意匠として保護します。
     商標とは、製品やサービスにつける目印(マーク)のことで、文字や図形の組み合わせが特徴的で他と区別できるものを登録商標として保護します。

     意匠や商標の登録を管理しているのは、特許庁という国の行政機関です。早口言葉にある東京都特許許可局は実在しません。

     意匠や商標は類似のものを登録できない仕組みになっていて、データベースで検索出来ます。

     最初に挙げた新製品発売前の準備として、これらの意匠や商標を調査し、重複・類似していないかどうかを確認し、登録がうまくいくように支援する業務は、「弁理士」という国家資格者の仕事として、「特許事務所」で取り扱われています。もし、それらの調査をしないまま、登録済みの意匠・商標にかぶってしまうと、積極的な悪意がなくても権利者から販売の差止請求や、損害賠償請求をされてしまう危険があるので、自社が持っている特徴的な独創性ある商標・意匠は(それほど安くはない費用は掛かりますが)登録申請をしておくのがベターといえます。

     商標は、通用範囲が広くなるほど信用が増える性質があるので、10年の期間ごとに何度でも更新出来ます。
     他方、意匠は、一定の形態を保護するもので、それが長期間になってしまうと、創作を阻害する性質があるので、登録から20年に限って保護されます。

     商標や意匠を侵害する類似品を製造・輸入・販売等した場合には、権利者から差止請求や損害賠償請求をされる恐れがあります。また、法律上、損害額の推定規定があり、権利者の保護が強化されています。

     うっかり権利侵害をしてしまわないように、ブランドやデザインを売りにする商品やサービスを扱う場合には、相応の注意を払う必要があるということです。