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  • グリーンピース窃盗被疑事件の感想

    不法領得の意思がないという主張は通るかどうか。
     この要件の問題意識は,器物損壊窃盗との区別をどうするかというところに発している。
     単純化していうと,損壊には,対象物を隠して使用を妨げることも含まれるので,単に物が持ち出されたというだけでは,それが損壊なのか,窃盗なのかわからないということである。また,窃盗罪の法定刑は,10年以下の懲役または50万円以下の罰金だが,器物損壊罪の法定刑は,3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料であって,両者は質的に重さが違う犯罪だという点もある。
     そこで,窃盗というためには,単に持ち出すというだけでなく,「不法領得の意思」なる主観的要素(より非難の度合いが強くなる)が必要なのではないかという問題である。

     これまでの裁判例や学者・実務家の一般的見解では,不法領得の意思は構成要件要素と認められており,窃盗罪においては,
     ①権利者を排除し,他人の物を自己の所有物として,
     ②その経済的用法に従いこれを利用若しくは処分する意思,
    と定義されている。
     これに対しては,経済的用法に従った利用処分であることまでは必要ないという見解があり,それによれば,今回のグリーンピース鯨肉事件でも不法領得の意思が認められ,窃盗罪になりうる。
     しかし,窃盗と器物損壊の法定刑が大きく違うのは,窃盗が経済的利益の獲得を目的として遂行され,従って,人間の欲得に基づいて繰り返されやすい犯罪であることを重く見ていることが理由であるから,主観的に経済的利益を得ようとしていないのであれば,窃盗として非難することは躊躇せざるを得ない。
     このように考えると,グリーンピースの「不法領得の意思がない」から「窃盗でない」との主張には一定の合理性があるように思う。もちろん,窃盗でないにしても,器物損壊あるいは宅配業者に対する威力業務妨害3年以下の懲役または50万円以下の罰金)にはなるだろうが(静岡地方裁判所沼津支部昭和56年3月12日判決 判例時報999号131頁)。。。

     何らかの罪にあたるとすれば,あとは,そのような行為が社会的に正当化されるかどうか(刑法35条正当行為,同37条緊急避難)の問題になるが,インターネット上での取り上げられ方を見る限り,どうやら社会は,グリーンピースの行為を許してくれそうにないようだ。

     思うに、何事もやりすぎはよくないにしても,「義を見てせざるは勇なきなり」という言葉もある。グリーンピースが下獄の覚悟であったならば,潔く自らの罪も認めて,社会に是非を問うべきだったのではなかろうか。自ら腹を切る覚悟なく,不義を告発しようとしたのであれば,安直だったと非難されても仕方がないのではないか。

     もっとも、これが、いわゆる「公益通報」の場面で、会社の帳簿を持ち出したような事案だったらどうかと考えると、刑法の正当行為の条項が、公益通報者保護法で生かされるような制度にしておかないといけないと思われる。

  • 医療事故事件受任に関する私の立場

    医療事故が発生したとき,患者様やご遺族はいろいろな想いを抱かれると思います。
    中には,医師への責任追及をしようと思い立ったものの,周囲の人から(時には病院側からさえ?),そんなに金がほしいんかと中傷されていやな思いをされて,あきらめた方もいるかもしれません。

    しかし,少なくとも私がこれまでに受任してきた依頼者の方々には,「とにかく金がほしい」という人は誰もいませんでした。
    もっとも求められているのは「真実」は何か,「ほかにもっと手はなかったのか」という事実究明でした。
    ただ,残念ながら,依頼者の中には,「自分に都合のよいこと」だけが,「受け入れられる真実」であって,「客観的(科学的)真実」ないしは「合理的判断」であっても,自分の望む結果(医師の謝罪)につながらない「真実」は,断固として聞き入れないというタイプの方も少なからずおられます。

    私は,患者側の医療事件しか受任しませんが,是々非々で,しっかりとした事実の裏付けと相当因果関係があると考えた場合だけしか,訴訟は致しません。理解力に乏しい患者さんの場合には,なぜできないかと今度は弁護士に向かってクレームをつけ出すことがありますが,医師の法的責任は軽々に認められるものではないことを説明して,訴訟や示談交渉の受任をお断りさせて頂いています。

    弁護士は結果に応じて報酬をいただく職業ですので,受任する以上は最大限の賠償金獲得を目指すのが職務ではありますが,私の立場として,決して事実をゆがめてまで勝訴したいとは考えておりません。

    現時点では,手一杯で新たな案件に取り組む余力がありませんが,上記のような私のスタンスをご理解頂ける方のご依頼であれば,誠心誠意対応致します。

    今後ともよろしくお願い致します。

  • 「それでもボクはやってない」

    http://www.soreboku.jp/index.html
     3月1日フジテレビで放映されたので,見た。二人の裁判官に真実味があった。あれはいずれも決して架空の裁判官ではない。まさに典型的に存在する実際の裁判官の姿が描かれていた。弁護士は東京風の味付けで少々物足りなかった。大阪の刑事弁護士が監修したらもっとアグレッシブな弁護になったかもしれない。
     いずれにしろ,刑事裁判に無縁の一般市民は,この映画を見てもなお,「それでも裁判官は間違えない」「警察官は法廷で嘘を言わない」と思っているかもしれない。しかし,実際に裁判を戦うことは,現状の刑事司法制度では,両手両足を縛られて泳げといわれているくらいに、非常に大変なことなのだ。冒頭のシーンで出てきた「当番弁護士」の言葉を,えん罪被害を受けた無実の当人が受け入れるのは難しいだろう。しかし,それが現実である以上は,そう言わざるを得ない。確かに,弁護士でなければあの当番弁護士の心情を理解するのは難しいかもしれない。

     文明国で,取り調べに弁護士が立ち会えない法制度はもはや少数である。もしかすると,警察の取り調べに弁護士が立ち会えないという現状を知って驚く方が多いかもしれない。外国映画では,弁護士が警察署の留置場にまで入り込んでくる場面があるが,日本では,決してあり得ないのだ。
     日弁連では,捜査過程を透明化し,法廷での審理に反映させるため,「取り調べ過程の録画を求める請願」を集めている。
     個人的に刑事司法への絶望は深く,ここ数年,刑事は控訴案件しか扱わないことにして,民事弁護士に専念している。しかし,刑事弁護士は,絶望の壁を乗り越えようとしてがんばっている。
     法務大臣は「えん罪」という言葉が嫌いなようだが,どう呼ぶにしろ,無実の者が刑事司法の欠陥により危うく有罪にされそうになったり,現に有罪になってしまったりするという現実は存在する。一人二人のえん罪被害者を出しても,真犯人を逃さないことが大切だと考えるのも,一つの思想かもしれない。しかし,私はそれに与しない。