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  • リンク集 ちょこっと再編 そしてついでに医療情報問題に対する雑感

     リンクを少し整理して、医療問題リンク集を独立させました。
     その他のリンク切れも整理したので、興味のある方はざっと見てみてください。

     WEBに上がってくるデータが、飛躍的に増えてきて、医療問題に限らず、情報を得るには本当に便利な世の中になりました。
     今やっている情報検索・検討作業と同じレベルのことを、図書館のカードを頼りに手作業でやるしかなかったとしたら、もう発狂するしかありません。
     しかしながら、それと同時に、根拠出典のあいまいな風評も、SNS等を通じてあっという間に広がってしまう今日この頃ですから、虚偽情報を信じてしまうことはできる限り避けなければいけません。

     医療情報の取得に関して、医者まかせにしないで、自分で自分の病気のことをよく知ることは、無用の医療トラブルを避けるのに有効であり、意欲さえあれば、かなりのレベルまでネット上の情報で学べます。知っていれば何でもないことでも、知らないばかりに医者の言いなりになったり、逆に過剰な不安を持ったりして、無知であることがよい結果につながることはまずないと思います。

     その際に注意すべきは、ガイドラインや雑誌文献等の根拠が示されていない情報は、そのまま鵜呑みにしてはいけないということです。
     専門的な事象については、わかりやすさはどうしても不正確さと隣り合わせですから、真剣に自分の病気を理解したければ、一般向けの解説書や散文的な書籍ではなく、医者・医学生向けに書かれたきちんとした文献を読むほうがよいです。おそらく、それをストレートに真面目にやろうとすると、生理学・生化学・解剖あたりが分かっていないと、どうにもならないような気がしてきますが(^^;、すくなくとも、個別の疾患に対する治療手段として、どんなものがあって、その治療成績がどのくらいか程度のことであれば、ネット上の資料だけでも十分に調査可能です(この意味では、治験データの改ざんとか論外ですね)。
     そして、その一般的な情報が、実際に自分に当てはめ可能なのかどうかとか、投薬・外科的措置の作用とか治療機序なんかといった実際上・理論上でさらに深いことは、医者に直接質問すればよいことです。
     そのうえで、非専門家である自分の立場で理解できる範囲を超えた領域に関しては、専門家の判断を謙虚に受け止めつつ、最終的には、その担当医を信用するのか、しないのか、自分のリスクで決断をする必要があります。

     ところで、医療問題に限らず、私がネット情報を参考にする場合には、出来る限り加工前の一次データを遡って探すように心掛けています。
     たとえば、「・・・と言われています」とか「・・・だそうです」とかいう記事で、その事実の根拠が示されていない場合には、「・・・」部分で検索を掛けて、根拠を示した文献がないかどうかを探します。
     法律に関しては専門家ですので、かなりの精度で検証できる自信がありますが、物理・化学等のかかわる問題(医療も含む)については、私はしょせん素人ですので、検証にも限界があります。検証できない事実・情報に関しては、内容へのコメントや引用・紹介を避けるべきと考えています。

     皆様も、他人の情報を引用・紹介する場合には、それが原資料(一次データ)なのかどうか(又聞きではないこと)を最低限確認するようにしたほうがよいと思います。可能であれば、他の情報源とも照らし合わせて疑問なく了解可能な事実が記述されているのかどうかを検証するとなおよいでしょう。
     そうしないと、あやしい情報をむやみに世間に拡散させて、誤解や過ちを誘導してしまうことになってしまいます。
     みんなの努力で、ネット情報がより信頼できる状況を地道に作っていけたらいいなと思います。

  • 成果主義賃金制度のさわり

     成果主義賃金制度がさかんに導入された初期段階から、現在では、運用実務蓄積の時期へと移っており、最近のいわゆるホワイトカラーエクゼンプション(white collar exemption)の議論で、再び新たな問題が派生しつつあります。今回はとりあえずベーシックなところだけ解説します。

     成果主義賃金には、いろいろなパターンがありますが、典型的な歩合制のほかに、前年度実績に応じて、翌年度の1年分の給料額を決めて、月割りして支払うという内容がよくあるようです。
     給料の決め方としては、労働者の目標設定・その達成度などを考慮して査定しつつも、労使の協議の余地を残して、労働者自身の勤労意欲を引き出すというタイプの仕組が多く採用されているようです。

     このような制度を巡り、成績評価の見直しに伴う賃料の減額が不当かどうかで争われた多くの裁判例があります。

     まず、成果主義型賃金体系への変更のため、就業規則を変更した場合の有効性が問題とされます。この点につき、「賃金などの労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきであり,この合理性の有無は,就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,変更後の就業規則の内容自体の相当性,代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである(最高裁判所第一小法廷平成12年9月7日判決・民集54巻7号2075頁参照)」というのが現在の法解釈ですので、賃金体系の変更はかなりハードルが高い印象があります(従業員の理解が必須となります)。

     次に、成果主義賃金への変更と同時に、肩書き役職の見直しを実施した場合に、実質的な降格処分ではないかとして争われるケースがあります。これについては、降格に合理的な理由があるかどうかが審理されます。会社都合解雇や懲戒処分のような従業員に対する不利益処分にあたっては、十分に根拠となる事実をあらかじめ証拠として残しておくことが必要です(業務日誌や始末書、戒告処分通知書など)。

     さらに、成果の評価や具体的な賃金決定内容そのものに対する異議があって争われるケースもあります。これは、就業規則の変更が有効かどうかとのセットで問題になることが多いですが、一般的には、この査定内容に関する不満がもっとも頻繁に起こります。協議をしたが、次年度年俸が決まらないときにどうしたらよいかという問題もあります。
     裁判上では、ひとまず前年と同額にすべきという結論を出した例がありますが、これについても、前記同様に、いろいろな事情を総合的に考慮して判断されているので、協議ができないときは必ず前年同額にしなければならないということではありません。

     賃金の決定基準は、法的には、「総合考慮」と言われていて、具体的な事案に適した一律の法的規制があるわけではありません(最低賃金を除く)。そのため、労使交渉でも難しい話題ではあります。

     「労働審判」という手続は、このような「総合考慮型」の労働紛争の解決に適したものとして運用されています。社内で協議が着かなければ、そのような場で第三者を交えて審議するということも考えられます。

  • 給料からの控除、原則・例外

     労働者の賃金(給料・給与)は、・支給対象期間の分を・支払期日に・全額もれなく・支払わなければなりません(労基法24条)。
     全額払いの原則については、法律が決めている例外と、労働者との約束によって決まる例外とがあります。
     法律上の例外は、所得税・住民税の源泉徴収・社会保険料控除・財形貯蓄控除です。
     それ以外のもの、例えば、社内貸金・購買の代金、社宅・寮の家賃・食事代、社内預金、労働組合費等の控除については、労使協定や労働協約が必要ですが、個々の従業員の同意がなくても控除は出来ます。
     他方、労働者の同意を得ずに、会社が当該労働者に対して有する損害賠償請求債権を、当該労働者の給与や退職金から控除すると、就業規則等で定めてあったとしても、労働基準法違反として無効とされる可能性が高いです。
     ちなみに、懲戒処分としての給与減額は、一回あたり平均賃金の一日分の半額まで、総額で月給の十分の一までと制限されています(労基法91条)。
     その他、例えば1円未満の単位を切り捨てたり、時間給の最小単位分を切り捨てたりすることについては、逐一従業員の同意を得る必要はありませんが、大幅な不利益変更となるケースでは、無効になる可能性もあります。
     これ以外に、いわゆる「調整的相殺」が認められるかどうかが問題とされたことがあります。
     調整的相殺とは、なんらかの事情で、過去に支払い過ぎになっていた給料分を、その後に払われる給料から差し引いてもよいかどうかという問題です。これについては、賃金の全額を払うという趣旨が、労働者の生活安定を考慮したものであることから、実支給額が名目額よりも著しく低くなってしまわないように注意する必要があり、調整を必要とする事情が判明したときから、間を置かないで、該当者に事前に予告して控除する場合には違法にならないとされています(判例)。
     問題は、どのくらいの金額までならば控除できるのかという点ですが、これについては過去の裁判例を見てもはっきりしません。法律上の定めがないので、実際上は、間違って払いすぎた過去の給料分の減額であっても、対象となる従業員に個別の同意をとってから控除するのが実務上は相当と思われます。