ブログ

  • 管理費滞納者に理事の資格を認めないことは適法か?

    まず結論から。

    違法・適法の問題ではないので,集会や理事会で議論して自由に決めてください。その意味では,管理費滞納者に理事資格を認めないことは法律上可能です。

    <以下結論に至る考察>
     いわゆる分譲マンションオーナーの権利を区分所有権という。
     「建物の区分所有等に関する法律」が,区分所有権を規律している。
     区分所有者は共有部分や一棟の建物の管理のために,「管理費」や「修繕積立金」などを支払っている場合が多い。
     裁判例では,この管理費等の滞納が,同法第6条の「区分所有者の共同の利益に反する行為」となることが認められているが,仮にそのような行為に該当するとしても,管理費滞納は「支払わない」という消極的行為なので,たとえば,共有部分を勝手に取り壊して増改築したりするような積極的行為とは若干性質が異なると考えられる。
     一般には,1~2回分の管理費の滞納だけで,直ちに「障害が著しい」とまでは言えないであろうから,競売請求(同法59条)が認められるのは比較的悪質な場合である(なお,管理費滞納を理由とする専有部分の使用禁止請求を認めなかった事例として,大阪高等裁判所平成14年5月16日判決平成13年(ネ)第3322号参照)。
     法律上,区分所有権に対する権利制限は57条以下の「義務違反者に対する措置」の限度でしか許されず,それ以外に,たとえば「管理費を滞納した場合には,電気・ガス・水道の供給を滞納解消まで一時停止する」などの措置を総会決議や管理規約で定めることはできない。法30条が「法律に定めるもののほか,規約で定めることができる」としているのは,そのような意味であると反対解釈されている。

     余談だが,弁護士会の機関誌に「自由と正義」という月刊誌があり,その末尾ページに懲戒の公告欄(弁護士の人気ナンバーワン記事?)がある。そこで,懲戒事案として,マンションの管理規約中の「管理費滞納の場合は,共有部分の使用を禁止し,電気・ガス等のライフラインを切断できる」との条項に基づいて,うかつにも電気・ガスの配線切断に立ちあってしまった弁護士の(かわいそうな?)事案が掲載されていた。みんなで決めたから…とか管理規約に書いてあるから…といって,そのまま鵜呑みにしてはならないという教訓である。

     では,管理費滞納者に対して,管理者あるいは管理組合理事長やその一部門の役員の資格を認めないとする管理規約や理事会内部での申し合わせは法律に違反しないのだろうか。
     これについては,違法・適法二つの考え方があり得る。
     違法説の根拠は,管理費滞納者の権利制限は法に定める限度でのみ許されるところ,前記の通り義務違反者に対する措置の内容は極めて限定的なので,それ以外の種類の制約は一切認められないとする考え方による。
     他方,適法説は,管理者資格あるいは理事の資格について法律はなんら規定していないから,資格制限は原則として当該団体の自由であるとの考え方による。

     少々切り口を変えて,私的団体の理事の被選任権内容に司法的判断が及ぶのかどうかという議論の建て方をすると,いわゆる「部分社会の法理」の問題になる。
     この点,最高裁判例は,「司法裁判権が、憲法又は他の法律によつてその権限に属するものとされているものの外、一切の法律上の争訟に及ぶことは、裁判所法三条の明定するところであるが、ここに一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争という意味ではない。一口に法律上の係争といつても、その範囲は広汎であり、その中には事柄の特質上司法裁判権の対象の外におくを相当とするものがあるのである。けだし、自律的な法規範をもつ社会ないしは団体に在つては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判にまつを適当としないものがあるからである。本件における出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当するものと解するを相当とする。(尤も昭和三五年三月九日大法廷判決―民集一四巻三号三五五頁以下―は議員の除名処分を司法裁判の権限内の事項としているが、右は議員の除名処分の如きは、議員の身分の喪失に関する重大事項で、単なる内部規律の問題に止らないからであつて、本件における議員の出席停止の如く議員の権利行使の一時的制限に過ぎないものとは自ら趣を異にしているのである。従つて、前者を司法裁判権に服させても、後者については別途に考慮し、これを司法裁判権の対象から除き、当該自治団体の自治的措置に委ねるを適当とするのである。)(昭和35年10月19日最高裁判所大法廷判決昭和34年(オ)第10号懲罰決議等取消請求事件)」としており,その後の政党内部の処分に関する昭和63年12月20日最高裁判所第3小法廷判決昭和60年(オ)第4号家屋明渡等請求事件で「政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばないというべきであり、他方、右処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であっても、右処分の当否は、当該政党の自律的に定めた規範が公序良俗に反するなどの特段の事情のない限り右規範に照らし、右規範を有しないときは条理に基づき、適正な手続に則ってされたか否かによって決すべきであり、その審理も右の点に限られるものといわなければならない」としている。
     要するに,①一般市民としての権利侵害でない内部問題については,完全に自治に委ねられており,国法上適法かどうかの判断はされない。②仮に一般市民としての権利侵害であっても,まずは内部規範を参照し,その規範が公序良俗に反しないかどうかを確認し,規範が合法であれば規範による。③規範が無効・不存在であれば条理(ここでは,わかりやすくするため「一般常識」と言い換えておく)に基づいて,適正手続が取られていたかどうかを判断する。という論理流れになる。

     この考え方に基づいて,管理者や理事の被選任資格に「管理費滞納者でないこと」を定める内部規約を再考してみると,管理者や理事の資格についてはなんら法律上の規律があるわけではないので,その内容は当該団体内部で自由に定めればよいということになる。もし当該資格制限の事由が,「外国人であること」「女性であること」だったりすると,直接に一般市民としての権利侵害(平等原則違反)の問題となってくるが,「管理費滞納者であること」というのは,純然たる内部問題にすぎないので,当該資格制限が適法か否かを問題にする余地がないことになろう。

     この考察からすると,タイトルの質問に対しては,「違法・適法の問題ではないので,集会や理事会で議論して自由に決めてください。その意味では,管理費滞納者に理事資格を認めないことも法律上可能です。」ということになる。

  • 忘れかけの滌除・・・

     徳永英明「壊れかけのRadio」(1990)より

     かつてあった悪名高き滌除(てきじょ)について,平成15年改正前に実務で滌除権者側に立つ機会がなく,そのまま忘れ去ってしまいそうなので復習しておく。

     滌除とは,抵当不動産(所有権,地上権,永小作権)を取得した第三取得者が,抵当権者に対して,適当に(ここがミソ)評価した金額の支払いを申し出て(現実の提供までは不要),抵当権者の承諾があれば遅滞なくその金額を弁済または供託して,抵当権を消滅させることができるという制度である。

     沿革的にはフランス民法の制度を参照したものだそうだが(新版注釈民法(9)416~419頁),フランス民法と違う制度設計をした点が,ことごとく日本における滌除に現実の弊害(抵当権者の過大な負担・増価競売・保証金の問題)を産んでしまったように思える。

     滌除の手続は次のとおりであった。
    ① 抵当権者→滌除権者
       抵当権実行通知
    ② 滌除権者→抵当権者
       滌除権の行使(①の到達から1ヶ月以内
          これがなければ,抵当権者は通常の不動産競売を実施する)
       ちなみに主債務者,保証人など債務の全額弁済義務を負う者
        は第三取得者でも滌除権を行使できない
    ③ 抵当権者が滌除を拒否する場合
       増加競売請求通知(②の到達から1ヶ月以内 期限後は承諾
          と見なされる)
      抵当権者が滌除を承諾する場合
       滌除権者は抵当権者へ滌除金額を弁済または供託し,抵当
        権は消滅する (競売は行われない)
    ④ 増価競売申立(③の発送から1週間以内)
       滌除金額の1割増の金額で落札されなければ,その価額での
         買い取りが抵当権者に義務づけられる
    ⑤ 増価競売の手続により終結

     平成15年担保・執行関連法の改正があり,滌除は廃止され,類似の制度として,抵当権消滅請求制度が設けられた。
     この制度では,上記①の通知義務がなく,第三取得者が抵当権消滅請求の申し出を行い,抵当権者が競売をするかどうかを判断するという順序になり,増価競売制度は廃止された。消滅請求を受けた場合の不動産競売の申立義務はあるが,第三取得者の消滅請求通知から2ヶ月以内に行えば良くなった。消滅請求ができる期限は,競売による差押までである。

  • 新会社法でどうなる「有限会社」?

     新会社法の制定に伴い,旧有限会社法は「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」という)」1条3号により,会社法施行とともに廃止された。
     存立根拠法を失った「有限会社」は,新会社法のもとで,いったいどのような扱いをうけるのか。というのが今回のテーマである。

    参考サイト 法務省民事局 (条文や概説が掲載されています)

     新会社法施行日(平成18年5月1日)時点で「現存する」旧有限会社は,「株式会社」として存続する(整備法2条1項)。つまり,新会社法下で株式会社の規定の適用を受けることになる。この会社を「特例有限会社」という。
     旧有限会社での「定款,社員,出資持分,出資一口」は,そのまま株式会社の「定款,株主,株式,一株」へスライドする(同条2項)。旧有限会社法では増資の上限を定める仕組みがなかったので,株式会社化初期の「発行可能株式総数」は,「発行済株式総数」と一致することになる(同条3項)。

     法律上は「株式会社」として扱われるにも拘らず,特例有限会社は,新会社法の下でも,「有限会社」と名乗ることが強制されており,「株式会社」と名乗ることが禁止されている(整備法3条1項,2項)。法律上株式会社だからといって,勝手に株式会社を自称することはできない。そのためには,整備法による変更の手続を取ることが必要である(後述)。
     旧有限会社法下でなされた資本増加,合併,分割,組織変更等の決議は,施行日前に完了して所定の手続を取っていなければ無効となってしまうので注意が必要である(整備法4条)。
     定款の記載事項のうち,「目的,商号,本店ノ所在地,公告方法」は,そのまま特例有限会社の定款として引き継がれるが,「資本総額,出資一口金額,社員氏名・住所,各社員出資口数」は意味がないので引き継がれない(整備法5条)。なお,複数の公告方法を定めている定款はその記載部分が無効になるので,官報掲載のみが公告方法となる(会社法939条1項1号,同条4項,整備法4条4項)。
     定款に関する整備法の特別の定めのため,定款に記載がなくても一定の定めが擬制されることになる(先ほどの公告の例や,後述の譲渡制限の例など)。そのため,定款の閲覧請求があった際には,記載のない事項についても説明しなければならない(整備法4条5項)。

     旧有限会社の「社員名簿」は、会社法上の「株主名簿」とみなされる(整備法8条1項)ので,新たに作成する必要はないが,そもそも社員名簿が全く更新されていない旧有限会社もあるので,この際,現在株主を確認する意味で作成しておくほうがよい
     特例有限会社では,株式譲渡制限および株主の追加株式取得にあたって会社が承認したとみなす規定が定款にあるものとみなされ,これと異なる定款を設けることができない(整備法9条)。施行日前の譲渡,自己株式取得,持分の消却(資本減少除く)手続は従前通りに扱えばよい(整備法11条~13条 ただし,消却の登記事項は新法による)。
     なお,資本減少・営業譲渡に関しては,施行日前に招集手続が開始されていれば当該社員総会で従前の例によって進めることができる(整備法29条 ただし,資本減少の登記事項は新法による)。

     株主総会については次のような特則がある(参照 会社法297条)
    1 特例有限会社の総株主の議決権の十分の一以上を有する株主は,取締役に対し,株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して,株主総会の招集を請求することができる(整備法14条1項本文,ただし定款に別段の定めがある場合除く)。会社法本則と違って,割合が高いこと(会社法では100分の3以上)と,保有期間制限がないこと(会社法では6ヶ月前から)が違っている点である。
     裁判所の許可による招集の要件は本則どおりである(整備法14条2項)。
    2 特例有限会社の株主総会の普通決議については,「総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)であって,当該株主の議決権の四分の三」が要件となる。本則は「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては,その割合以上)を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の三分の二」となっており,特例有限会社においては定足数の定めがなく,議決権要件が本則より重い点が異なっている
    3 特例有限会社は,株主総会において議決権を行使することができる事項(会社法108条1項3号)についての定めがある種類の株式に関し,その株式を有する株主が総株主の議決権の十分の一以上を有する株主の権利の行使についての規定の全部又は一部の適用(例:総会招集請求権など)については議決権を有しないものとする旨を定款で定めることができる。 本則では,そのような制約がない。
    4 特例有限会社については,総会招集手続,議決権行使書面の交付,株主提案権,総会検査役選任,検査役報告を端緒とする裁判所の総会招集等(会社法297条,301~307条まで)の規定は、適用しない。
     なお,施行日前の社員総会招集手続は原則としてそのまま生かされ,それにより開催される株主総会(旧社員総会)の権限と手続は旧有限会社法の例によればよく,役員選任等の決議もその決議の日に,会社法による決議があったものとみなされる(整備法15条,同16条)

     新会社法では,機関のメニューが多彩になったと指摘されているが,特例有限会社で置くことができるのは,取締役のほかは,監査役のみであり,その権限は会計監査に限定される(整備法17条,24条)。役員の任期はない(整備法18条)。

     会計帳簿の閲覧等の請求等に関する特則もある(整備法26条)。
     特例有限会社の会計帳簿の閲覧等の請求については「総株主の議決権の十分の一以上の議決権を有する株主」「親会社社員であって当該親会社の総株主の議決権の十分の一以上を有するもの」とされており,本則(100分の3以上,親会社社員の持株数要件なし)より要件が重い。なお,旧有限会社法で各社員が閲覧請求できるようにしていた場合に附属明細書作成義務が免除される条項(旧有限会社法44条の2第2項)は,そのまま適用される。
     計算書類の公告義務はなく,支店への備付け義務もない(整備法28条)。
     役員解任の訴え(会社法854条)ができる株主は,総株主の議決権の十分の一以上の議決権を有する株主のみに限定されている(39条)。

     その他清算会社について上記と同様の趣旨の特則が定められている(整備法33条,34条)。

     休眠会社のみなし解散に関する規定・特別清算に関する規定・株式交換及び株式移転に関する規定(会社法472条)は適用されない(整備法32条,35条,38条)。

     最後に特例有限会社が商号を変更して通常の株式会社へ移行する方法を説明する(整備法45条,46条)。
     まず,株主総会(社員総会ではない)を開催し,整備法45条1項に基づく定款変更の決議を行う。
     次に,本店所在地について2週間以内,支店所在地について3週間以内に,特例有限会社の解散登記と変更後の株式会社の設立登記をする。
     このように,単なる商号変更ではなく,解散と設立の二つの登記をしなければならないが,それぞれの解散・設立手続は定款変更決議一本で事足りる。

    (後記)

    株式会社でありながら,有限会社を名乗ることを強制され,会社法の規定も整備法で制限適用される非常にユニークな存在である「(特例)有限会社」は,法史学的観点からは,昭和13年から平成18年までの間に法律制度が現実と理論の間を迷走した痕跡として,後世の評価を得るだろう。

     いっそのこと,特例有限会社には,株式会社化せずにこのまま頑張ってもらい,数百年後に「日本の伝統を遺す名門企業-特例有限会社-」ってなタイトルで経済雑誌に特集されるようになったりすると,大変おもしろいのではないかと思ったりしている。

     がんばれ有限会社!!