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  • 労働法 就業規則と労使慣行

     自社の就業規則を事業所開設以来、一度も改定したことがない経営者はどのくらいいらっしゃいますでしょうか。

     就業規則は、法的観点からすると、大変あいまいな立ち位置の文書でして、かつて、最高裁判所まで効力が争われたことがありました。

     著名事件の一つは、役職者に対して定年制を規定していなかった会社が、対象者の入社後に定年制を採用した場合、定年制になる前から主任であった当該対象者の同意がなくてもこの定年制規定を適用して良いかという内容でした。
     地裁は、定年制を適用できないと判断しましたが、高裁・最高裁はいずれも、「就業規則は、従業員の同意なく変更でき、変更後の規定が合理的であれば、同意しない従業員にも適用できる」と判断しました。
     もう一つの事件は、懲戒解雇の定めを追加した新しい就業規則を従業員に周知しないままになっていたのに、変更後の規定に基づいて懲戒解雇を適用した場合、その解雇が無効かどうかという内容でした。こちらは、同意なく変更できても、周知していなければ、個々の労働者の同意なく適用できないと判断されました。その他、就業規則の変更については、多くの裁判例があります。
     これらの最高裁の理屈は、労働契約法が制定された際に条文に取り入れられました。
     まず、(1)労働契約は、労働者及び使用者が「合意」することによって成立し、変更されます(労働契約法6条、8条)。すなわち、あくまでも「合意」が大前提であって、就業規則に書けばいつでもそのとおりになるというわけではありません。
     次に、(2)労働契約の「際に」、就業規則を労働者に「周知」させていれば、その内容が契約内容・労働条件になります(7条)。あくまでも「周知」が大前提であって、就業規則なんか見たことがないという社員がいるようでは、労働条件が周知されているとはいえません。可能であれば、社員手帳を発行して就業規則を掲載しておくことまで必要かと思われます。
     そして、ここが大事ですが、(3)原則として、労働者との合意なしに就業規則を労働者の不利益に変更してはいけません(9条)。すなわち、同意なく変更できるのは、例外的な場合に限られるということです。そして、その例外要件は、次のように概括的に記載されていますので、具体的なあてはめについては、慎重な検討が必要です。

      就業規則の変更が、
     労働者の受ける不利益の程度
     労働条件の変更の必要性
     変更後の就業規則の内容の相当性
     労働組合等との交渉の状況
     その他の就業規則の変更に係る事情
      に照らして合理的なものであるとき

     権利義務を規定する法的文書は、現実に一致していないと、いざというときの役に立ちません。労使慣行の実態と合わない就業規則を放置していると、他の有効な条項まで無効だと言われかねないので、実態に合うように常時見直すことが必要と思われます。

  • ハラスメントと労働環境

     今回はハラスメント(嫌がらせ)問題についてです。

     上司と部下、先生と生徒、男性と女性など、力関係や立場の違いなどをきっかけとして、一方的な関係に陥りやすくハラスメントの温床になりやすい人間関係がどんな会社・組織にもあります。

     セクハラはセクシャル・ハラスメントの略で、性的な言動によって相手を精神的・肉体的に傷つける行為のことです。モラハラは精神的な虐待行為です。そのうち、企業における上司と部下の間で起こるものはパワハラ(パワーハラスメント)と言われます。

     ハラスメント問題は、基本的には個人間の不法行為問題ですが、企業や組織が「個人的なこと」として、完全に無視していいわけでもありません。特にセクハラについては、前回解説した雇用機会均等法で、明確に企業の対処義務が掲げられています。

     ハラスメントをする人(加害者)は、多くの場合、ハラスメント行為の際に、内心では正当・当然と考えて暴言を吐いたり暴力を振るったりしており、罪悪感が薄いのが特徴です。被害者が、警察や弁護士に相談して、事件が表沙汰になって初めて、自分の言動が非難されたことに直面し、戸惑うことが多いと言われています。加害者のそのような特徴のため、被害者の被害感情を理解できずに、自己を正当化したり、責任を被害者や第三者に転嫁したりして、問題を紛糾させることがあります。被害者もそれによって二次的被害を受けやすい状況です。

     前回の報告で説明したとおり、セクハラに関しては、企業が対処すべき法的義務を負っています。
     裁判例では、「労働者が労務に服する過程で、生命及び健康を害しないように、職場環境等につき配慮すべき注意義務」があり、「(被害者)の譲歩・犠牲のもとに職場関係を調整しようとすること」は、この注意義務に違反するとした例があります。

     パワハラについては日本ではまだ規制法はありませんが(フランスにはパワハラ禁止条項を定めた法律があります)、裁判例は数多くあり、職場での暴言・暴行、過重・理不尽な業務命令、精神的苦痛を与える方法による退職勧奨など、いずれも、上記の職場環境等につき配慮すべき注意義務に会社が違反したとして、労務災害や損害賠償請求が認められています。平成24年1月には、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」が示されています。

     セクハラ・パワハラを防止するには、いうまでもないことですが、風通しの良い社風が不可欠です。
     人事の責任者は、社内でセクハラ・パワハラが起こっていないかどうか、気を配る必要があるでしょう。
     セクハラ・パワハラに関するホットラインも、コンプライアンス体制の一環として、整備しておくべきと思われます。

  • 労働法 男・女 均等雇用

     雇用の機会や待遇の均等確保については、男女・高齢者・障害者の各分野でいろいろな法制度や財政支援の仕組が出来ています。

     今回は、男女の問題について触れます。
     対象法律は、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」という長い名前です。しかし、決められていることはシンプルです。

     ・募集や採用について、性別による区別をもうけることはできません。(性別を理由とする差別の禁止 5条)

     ・次のような事項についても、性別によって取扱いを変えてはいけません(6条)
       労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練
       住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置等
       労働者の職種及び雇用形態の変更
       退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新

     ・性別以外の要件であっても、次のようなものは特別に必要である場合以外には募集・採用条件にしてはいけません(7条)
       労働者の身長、体重又は体力に関する事由
       労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じること

     ・女性労働者に対して次のようなことをしてはいけません(不利益取扱いの禁止等 9条)
       婚姻、妊娠、出産を退職理由として予定すること
       婚姻したことを理由として、解雇すること
       妊娠、出産、産前産後休業を理由として、解雇等の不利益取扱をすること
       (その他、軽易業務への配置転換、時間外・休日労働への不従事、育児時間、体調不良による能率低下
        などを理由とした不利益取扱も禁止されます。)
       妊娠中・出産後1年以内の女性労働者を解雇すること(原則禁止)
       (なお、労基法では産後休業後30日間は例外なく解雇できないとされています)

     ・いわゆるセクハラについてはきちんと管理体制をとらなければなりません。
     ちなみに、このセクハラ対応の体制は、会社の規模を問わず、労働者を雇用するすべての事業者の義務になっています。
     違反の場合の罰則は現在のところありませんが、管理担当者を決めておく必要があります。適切な担当者がいなければ、法律事務所等へ外部委託することも可能です。