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  • 個人(自然人)と会社(法人),その他の団体について

    取引の相手が個人であるか会社であるかはっきりさせることは、実務上重要なことです。

    世の中にはいろいろな団体がありますが,法的に権利義務の主体になりうる団体には必ず法律の根拠があります。
    逆に言えば,法律の根拠に基づかない「団体」には,個人(自然人)と同じような権利義務は原則として認められません。「法人」とは,生まれながらの人(自然人)ではないものについて,「法(律)」で自然人と同じような権利義務を認めるという意味です。

    法人を認める根拠になる法律のうち,いわゆる会社に適用されているのが「会社法」です。この3条に「会社は法人とする」とシンプルに書かれてありますが,このたった一行の条文により,「会社」が代表者や役員,従業員などの個人から離れて,一つの「法的主体」として「会社」の名前でいろいろな取引をすることが可能になっています。

    法人は「会社」だけではありません。例えば,宗教法による宗教法人,学校法による学校法人,医療法による医療法人などは,よくみられるものですし,「法人」と名乗らない法人(例:協同組合労働金庫信用金庫商工会議所など)もあります。

    2008年法改正までは,公益目的でない非営利法人は,法人格が認められていなかったのですが,改正後は,「一般法人」という非公益・非営利目的の法人の設立が認められるようになりました(かつて2002年中間法人法(廃止)に基づく法人もありましたが,これも非公益・非営利の団体には認められていませんでした)。
    このため,2008年改正法以前からあって,財産的裏付けや実績・伝統のある「(民法に基づく,公益目的のある)社団・財団法人」と,法改正後に出来た「(公益目的・非営利とは限らない)一般社団・財団法人」という紛らわしい呼び名の団体が出来ています。このような誤解を生みやすい状況に乗じて,法改正後の「一般社団法人」であるのに,あたかも法改正前からの「社団法人(正確には「特例社団法人」といいます)」であるかのように対外的に表示をして,信用力を偽る団体が希にありますので,ここは要注意です。

    公益目的がある場合であって,なおかつそのことを表示したい場合には,公益法人認定法に基づく認定が必要なので,その認定がないのに勝手に「公益法人」を名乗ることはできません。

    ちなみに,いわゆるNPOが法人となるのは,1998年特定非営利活動促進法に基づくものなので,一般社団法人とはやや違います。

    法人である場合には,かならず代表者があり規約の定めがあります。会社でいえば代表取締役であり定款です。その他の法人でもこの二つの基本は同じです。
    また,法人は,登記がされているので,法務局で調べれば,代表者の氏名住所が分かりますが,活動実体がない法人(休眠法人)では,長らく登記事項が変更されずに放置されている場合もありますので,必ず実体がわかるというものでもありません。

    このようなことを考えると,個人的あるいは経済的な裏付けのない「法人」は,非常にはかないものですので,法人相手に取引をする場合には,法人登記を確認することのほかに,経営者、代表者等の個人的な信用や経営状態(貸借対照表、損益計算書)をよく見極めることが重要になります。


    某所で引用していただいたので、見直して補記

    冒頭に自然人と法人以外には「原則として」権利義務主体性が認められないと書いたのは、いわゆる「権利能力なき社団」を念頭に置いたものです。これが「その他の団体」にあたります。その点の説明が落ちていたので、補足します。

    権利能力なき社団とは、「団体としての組織をそなえ、多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているもの(最判昭和39年10月15日)」と判例上定義されています。
    この定義に当てはまれば、少なくとも日本法領域にあっては、代表者が団体を代表して民事訴訟を提起できることから、あたかも団体が権利義務の主体であるかのようにふるまうことはできます。ただし、権利義務自体は、その団体の構成員全員が「総有(個々の構成員に持分が認められない特殊な共同所有関係)」するのであって、団体そのものが権利義務を持つわけではありません(だから「権利能力なき」社団といわれる)。

    権利能力なき社団による権利者表示は、当該団体の通称名と代表者・管理者個人名を列記するのが日本法の流儀に合致すると思われます。

    なお、著作権保護に関し、日本法領域では無方式主義ですから、これで問題ありませんが、そもそも権利者表示を要する法領域にあっては、厳密にいえば、権利能力なき社団としての著作権者の特定のためには、当該団体構成員全員の個人名の表示が必要ということになります。

  • 中小企業・個人事業主・各種団体等における顧問弁護士の使い方

     企業法務に限らず、事業や団体の運営にあたっては,様々な法的問題点を抱え込みます。これを法的に適切に解決していくことや,未然に紛争予防することは,円滑で持続的な経営・団体の維持発展につながります。
     法令順守が求められる事業環境のなかで、中小企業や個人事業主・各種団体等は顧問弁護士をどのように使ったらよいでしょうか。

    一般に顧問弁護士契約のメリットは次のような点だと言われています。
    ・相談先が決まっている
      問題が起きる都度,弁護士を探す手間が省けます。

    ・継続的な状況把握がされている
      継続的に関わるので,以前からの経過や会社の状況に応じた臨機応変の対応が可能ですし、予防法務の可能性も広がります。

    ・社外的な信用が増す
      顧問弁護士がいることは社外的信用を増します。

    ・法務コストの削減
      社内に法的紛争処理専門の人材を置くのと同じ効果が低いコストで実施できます。

    ・従業員への福利厚生,取引先へのサービスとして利用できる
      会社と利害関係のない相談であれば,従業員や取引先にもサービスの一環として弁護士を紹介できます。
     
     弁護士顧問契約を存分にご利用頂き,御社にとってのメリットをご活用下さい。

     他方,顧問契約にかかわらず一般顧客と同じの点やケースバイケースの点もあります。
    ・基本的には緊急性のある順・先着順の受付け・業務遂行であること
     できる限り顧問先を優先しますが,時間的に常に最優先ではありません。保全処分(仮差押・仮処分)や、DV,民事介入暴力案件などの処理中は,一時的に他の事務が停滞することがあります。当職のような小規模事務所では、やむを得ない点ではありますが、弁護士の仕事は職人的なワンオフサービスですので、最初から複数担当制を敷いていなければ、大きな事務所でも同様の事態が生じる可能性はあります。

    ・電話やメールでの相談ができるかどうか
     当職の場合,一般の相談者でも,いちど受任した案件があれば、その後、当該事件が終了した後であっても、電話やメールでの相談であれば無料(面談は別途有料です)で受けていますので,その点での顧問先との違いはありません。ただし,顧問先には,ホットラインとして当職の携帯電話番号をお伝えして,夜間・土日等の業務時間外にも対応している点が一般相談者の場合と違います。

    ・外国法務,特許,税務等,対応できない分野がある
     この場合は,原則として、当職よりも信頼のおける別の法律事務所を紹介させていただくことになります。これも当職のような小規模事務所ではやむを得ないことですが、当職よりも品質の高い対応が期待できる他の法律事務所があれば、依頼者の利益を考慮して、そちらのほうをおすすめするのはむしろ当然のことと考えていますので、無理に依頼者や顧問先を抱え込むようなことは致しません。

    ・個別に相談するよりも相談料が割安かどうか
     ご契約内容によっては,スポットで依頼をいただくほうが割安になるケースもあります。たとえば、当職の営利法人・個人顧問契約の最低基準(月額3万円以上)によると、年間36時間以上の法律相談や,400万円相当以上の売掛金請求事件のご依頼がなければ,個別に相談料や着手金をいただくより割高になります。もっとも、顧問契約には,上述のような単純に金銭に換算できないメリットもありますので,費用だけでの比較は不適切かもしれません。

     法律・裁判例は常に変化し続けており、法令順守経営は専門家のチェックなしには相当難しいものになっています。契約書チェック,債権回収,社内規則等の整備・見直し,社員の法務教育などの一般的な企業法務や民事事件の代理業務のほか、従業員・取引先へのサービスとしての弁護士紹介,業務監査,内部通報窓口の設置などにも,顧問弁護士をご活用いただければ幸いです。

  • 仮差押・仮処分(民事保全)とは

     前回に引き続き,法的手続きによる回収に関連して,民事保全の手続についてレポートします。

     裁判所の判決は,確定して初めて,その効力が発生するのが原則です。判決に「仮執行宣言」が付されていれば,確定しなくても預金や不動産の差し押さえの手続(強制執行)に進むことができますが,そうでないときは確定を待たなければ、そのようなことができません。
     裁判を起こしてから判決を確定させるまで、争いがない事件ですら3か月程度はかかりますし,相手方が徹底して争えば,最高裁まで上がって2~3年がかりになってしまうこともあります。そうなると,その裁判をやっている間に,相手方の経営状態が悪くなったり,返還や引き渡しを求めていた物品が処分されてしまったりすることがあり,せっかく判決をとっても意味がなくなってしまう危険性があります。

     そこで,「仮差押」「仮処分」という「民事保全手続」が用意されています。
     どちらも「仮」とあることからもわかるとおり,本裁判での判決が出る前に,あくまでも,「仮に」権利の実現を認めるという制度です。

     「仮差押」とは,判決が出る前に,相手が持っている預金や不動産等の「資産」を押さえておくことです。
     仮に押さえておくだけなので,差押(本差押といいます)と違って,仮差押の時点で現実に金銭を受け取れるわけではありません。処分されてしまわないように,原状維持を図るという制度です。もし仮差押中の預金や不動産が,他の債権者によって本差押された場合には,債権額に応じた按分額が供託される仕組になっていますので,一定範囲で債権回収が確保できます。

     「仮処分」とは,判決が出る前に,相手方が勝手に紛争の目的物を処分したり,価値を減らしたりしないように,処分を禁止するなどの命令をすることです。
     仮処分命令が出されると,権利関係は現状で固定され,相手方は自分の所有物であっても処分できなくなりますし,仮処分後の譲受人は権利主張できません。
     この仕組が使われるのは,物品の引き渡し(典型的には,賃貸不動産の解除明渡請求など)の場合です。
     たとえば,賃貸していた不動産の賃借人が賃料を払わないので,解除をして明渡を求めたとします。この明渡の裁判では,現にその建物を占有している相手方を特定しなければなりませんので,もし,最初の賃借人が,裁判の途中で勝手に第三者に又貸しをしてしまうと,その第三者を裁判の相手に追加しなければならなくなります。素性の分からない人が占有者として入ってきてしまうと,誰を相手に裁判すべきかわからなくなってしまい,判決をとっても,実際に明渡請求できなくなってしまう危険があります。
     そこで,「仮処分」の仕組を使って,賃借人が他の人に又貸ししたり,第三者を勝手に住まわせたりすることを,裁判所の命令によって禁止しておきます。そうすれば,裁判の相手方は仮処分時点での占有者に特定され,以後の占有者は当然に排除できるので,安心して最初の賃借人だけを相手に裁判をすることができます。

     上記のような「処分禁止の仮処分」のほか,「地位保全の仮処分」もよくあるパターンです。
     例えば,勤務先を解雇された従業員が,解雇は無効だとして会社を相手に裁判をする場合に,「労働者の地位」を失っていないことを「仮」の状態として裁判所に認めてもらいます。そして,それに基づいて,給料の仮払いを求めるというような使い方をします。
     また,会社等の団体の役員が不当に解任された場合に,役員の地位にあることを仮の状態として裁判所に認めてもらうというような使い方もあります。
     さらに,たとえば,右翼の街宣車が自宅や会社へ押し寄せてきて誹謗中傷を繰り返すようなケースや,暴力団がらみの恐喝事件などの場合には,「接近禁止,面談強要禁止の仮処分」といって,一定の禁止事項を裁判所から命令してもらい,違反した場合には一定の制裁金(間接強制)の支払いを命じるなどの手段によって,それらをやめさせるという使い方もできます。

     日本の法律では,裁判所を通さないで,相手の意思に反する行為をさせたり,自由や財産を奪ったりすることは「自力救済」と呼ばれ,正当防衛など限られた場面を除き,原則として違法行為になります。たとえば、家賃を滞納した賃借人を追い出すために、賃借人に無断でカギを交換して入れなくしたり、家財道具を放り出したりすることは、違法な行為です。

     そのため,仮処分の制度は,法律実務上,たいへん重要な権利実現の補助手段になっています。