派遣労働者の労働組合に関する、ある最高裁判決によると、派遣先(派遣労働者受入側)の企業は、派遣元の労働組合からの団体交渉を拒否できないとされました。
この事案は、民放テレビ局が、製作会社と請負契約を結び、スタッフの派遣を受けていたという案件です。
当然ながら、テレビ局と派遣スタッフとの間には労働契約関係がないのですが、裁判所は、スタッフ側の労働組合との関係では、テレビ局が労働組合法上の「使用者」にあたるとして、団体交渉に応じる義務があると判断したのです。
ちなみに、団体交渉義務違反のようないわゆる「不当労働行為」は、裁判所で争われるだけでなく、各都道府県に設置されている「地方労働委員会」に持ち込まれる事もあります。
労働委員会では、不当労働行為の審査のほかに、労働争議のあっせん(使用者側・労働側双方から意見を聞いて、調整をすること)を行います。どちらも申立制になっているので、独自の調査・捜査権を持っている公正取引委員会や警察とは違って、労働委員会が独自に動いて労使紛争に介入することはありません。審査やあっせんには労使双方の委員と公益代表の委員が関与することになっていて、中立性が保たれる仕組をとっています。
地方労働委員会の審査に不服があるときは、中央労働委員会へ持ち上がって審査されることもあります。裁判所でその審査結果を争うことも出来ます。
その他、特定の公益事業(運輸、郵便、水道、病院など)でストライキをする場合は、10日前までに行政と労働委員会へ届け出なければならないという「予告通知」の仕組もあります。
労働委員会から呼出が来ても慌てないように、そういう機関もあるということを知っておきましょう。
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派遣先と派遣元労働組合との関係、労働委員会の制度
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労働者と労働組合
以前「労働者とはなにか」の話をしましたが、労働基準法のほかに労働組合法でも労働者の定義があります。労働基準法は「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下『事業』という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」としていますが、労働組合法では、「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。」となっていて、「使用される者」という部分が省かれています。
これがどのような場面で問題になるかですが、例えば、裁判例でみられるのは、専属契約の楽団員の加盟する演奏者組合が、楽団経営会社に団体交渉を申し込んだ場合に、会社がこれを拒否してもよいかどうかという問題です。
もし、労働基準法上の労働者による労働組合だけが団体交渉権を保障されるという考え方をとると、専属契約の楽団員が労基法上の労働者でなければ、楽団員の組合による団体交渉権は保護されないので、会社は団体交渉を拒否してもいいことになります。
裁判所の判断は、雇用関係にない(労働基準法上では労働者でない)場合でも、会社から支給されている給料で生計を立てている以上は、団体交渉の権利があるというものでした。
最近は雇用環境が厳しく、多くの労働者や個人事業者が、相互に競争関係にあるためか、大きな労働争議や厳しい労使交渉があるという話をあまり聞かなくなりました。しかし、団体交渉が低調になっている分、労働者個人や零細自営業者の不満が直接労働基準監督署や公正取引委員会等へ伝わりやすくなっていて、思わぬタイミングで、労基、公取、税務等の調査が入ったりすることも多くなってきていますので、経営者としては注意をしなければなりません。 -
派遣労働の考え方
派遣労働については、労働者派遣法(昭和60年成立、同61年7月1日から施行)以来、度重なる改正を経て、次第に規制が緩和されてくる傾向にあります。
施行当初、適用対象業務は13種類に限られていましたが、同年10月にすぐに3業務が加えられ、平成8年12月には11業務が加えられました。そして、平成11年12月1日からは派遣対象業務を原則禁止例外許可から原則許可例外禁止へ(ポジティブリストからネガティブリストへ)改めました。併せて、派遣期間を原則1年とする制限を設けました。平成12年12月1日からは紹介予定派遣(派遣先で正社員候補として働く方式)が法制化され、製造業派遣も解禁されました。平成16年改正では、自由化業務の派遣期間を3年に延長し、旧政令26業務については派遣期間制限が撤廃されました。なお、現行法でも、建設・警備・港湾業務に関しては、派遣禁止(医療は一部可能)となっています。平成24年改正では、日雇派遣(30日以内の期間を定める場合)が原則禁止となり、労働契約のみなし申込制度(施行は平成27年10月から)が設けられるなど、労働者保護への配慮もされましたが、登録型派遣・製造業派遣は維持されました。
派遣労働は、景気の好不調による雇用調整が正社員労働者に及ばないようにする仕組として機能している実情にあり、法律が当初想定した「専門的能力をもった、流動性のある人材活用」というイメージから遠くなりつつあります。平成16年改正の雇用申込義務の新設や、平成24年改正も、いわゆる「非正規労働者」が増えすぎて、雇用の不安定性が社会問題にまで至ったことが原因です。成立から25年以上になる現在でもなお、派遣法適用の場面では、いろいろな問題点を抱えています。
その一つが、派遣先と派遣労働者との間の「黙示的労働契約」と言われる問題です。
これは、派遣労働者を受け入れた派遣先が、単に派遣先というにとどまらず、派遣されてきた労働者との間でも、使用者の立場に立ち、明示的に契約を交わしていなくても、ある一定の条件が満たされれば、まるで、派遣先自身がその派遣労働者を雇用したのと同じような関係が成立するという考え方のことです。
これを読んでどう思われたでしょうか。こんな労働関係が成立するとしたら、派遣先(派遣労働者を受け入れる側)の企業は、思いもよらない人員コストを負担せざるをえなくなる、非常に「怖い」状態に置かれていると言えるわけです。
他方、労働者の側から見れば、派遣先が人事権を持っていて、給与の額まで派遣元に指示できるような関係にあったときには、派遣というのは名ばかりで、実際には派遣先に雇われているのと同じと考えても仕方がない事かも知れません。
上記の例に限りませんが、企業としては、どのような人事労務管理政策をとるのかは、非常に重要な経営戦略の一つであると言えます。