カテゴリー: 法令

  • 関税法 刑罰と犯則事件の違い

     前回は、関税法に規定する刑罰について紹介しました。今回は犯則事件について説明します。
     犯という言葉を使っていますが、前回説明した刑事罰のある「犯罪」に似ていながら、税関に限られた範囲での処分権限がある点で、検察官が取り扱う犯罪事件とは違っています。
     関税法119条以下に税関の権限がいろいろと書いてありますので、順に見ておきます。

    1 質問、検査又は領置等(119条)

     嫌疑者・参考人に出頭を求め、質問する。
      嫌疑者は一般用語では容疑者、刑事用語では被疑者です。参考人はどの法領域でも共通です。
     
    所持品や放置品などの物件を検査し、任意提出された物あるいは嫌疑者の放置品を領置する。
      参考人の放置品は領置できません。

    2 開示の請求(120条)

     証拠の隠蔽をさせないための規定です。怪しければ、それを出しなさいと求めることができます。

    3 臨検、捜索又は差押(121~124条)

     令状による捜索差押です。犯則事件に特有のものとして臨検があります。
     嫌疑者発信・受信の郵便の差押は無条件で可能です。それ以外でも怪しい状況があれば差押が可能です。
     現行犯・準現行犯については無令状の臨検、捜索、差押可能です。
     立入禁止措置は令状がいりません(128条)。
     臨検等の措置の場合は、対象場所の所有者・管理者(会社の場合は代表者、責任者を含む)・成人の使用人(従業員)・同居の親族のいずれかを立ち会わせなければなりません。それらの者がいないときは成人の隣人、警察か自治体の職員を立ち会わせてもかまいません。女性の身体を対象にしたときは、立会人も女性でなければなりません(129条)。
     臨検等には警察官や海上保安官が同行することもあります(130条)。
     臨検等を実施したら必ず「調書」が作成されます。供述者は署名捺印するのが原則ですが、署名捺印を拒否することもできます(131条)。領置や差押をしたら、目録を作って、所有者に渡さなければなりません(132条)。
     税関での保管が困難な物件については、税関長の権限で別の場所で倉庫業者に保管させたり、売却してお金に換えることも可能です(133条)。

    4 犯則事件 第1の特徴・・・検察官に告発しなければならない事件かどうかが、法律で決まっている

     必ず告発しなければならない事件は、不正輸出入で脱税・故意の虚偽申告があるケースです。
     場合によって告発しなければならないのは、容疑者の居場所が分からなかったり、逃走や証拠隠滅の可能性があったりする場合です。ですから、もし疑われている事実が濡れ衣であったとしても、逃げてしまうとそれだけで告発されてしまう危険があります(137条)

    5 犯則事件 第2の特徴・・・税関長が「通告処分」で事件を終結させることが出来る

     税関長の通告処分で済むための要件は、
      懲役刑を言い渡すほどには犯行の内容が悪質でないこと
      対象者が罰金を払える資産・収入をもっていること
      対象者の居場所が明らかで、通告書を受領できること
     の3つです。このうちのどれか一つでもひっかかれば、告発されてしまいます(138条)。
     また、せっかく通告を受けたのに、20日以内に罰金相当額を納付しなければ、やはり告発されてしまいます。
     罰金相当額を納付すれば、同じ事件で再度処罰対象になることはありません。
     事件の個数は対象物件としてひとまとまりの輸出入申告ごとに判断されますので、対象・時期が異なると、原則として違う事件としての扱いになります。

    6 通告処分による不利益

     通告処分は処罰ではなく、行政処分ですので、いわゆる「前科」にはなりません。
     ただし、税関には処分歴が記録されますので、新たな通関業許可申請や、通関士の登録にあたっては、処分歴が審査され、罰金相当額納付後3年間は免許が下りないという不利益が課されます。
     また、許可が取り消される場合もあります(必ず取り消されるわけではありません)。

  • 商標侵害品の輸入の処罰と通関業者の責任について

     いわゆる偽物ブランド品等は関税法69条の11(輸入してはならない貨物)のうち1項9号「…意匠権、商標権…を侵害する物品」に該当します。これに違反した場合は、関税法109条2項の罪(十年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金・併科あり)になります。さらに、商標権を侵害した者に対しては、十年以下の懲役若しくは一千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する(商標法78条)との規定があり、侵害品の輸入も処罰対象になっています。

     つまり、ニセブランド品の輸入は、関税法違反・商標法違反の二つが重ねて適用されます。このように、一つの行為が複数の犯罪になり、重複して処罰される場合のことを「観念的競合(刑法54条1項前段)」と言います(参考判例 最高裁判所第一小法廷昭和58年9月29日判決(覚せい剤輸入案件)、名古屋高等裁判所刑事第1部平成18年5月30日判決(児童ポルノ輸出案件))。
     観念的競合の場合はどちらか重い方の罰が適用されます(併合罪なら重いほうの長期1.5倍が上限です)が、上記では同じ法定刑なので、10年以下の懲役・1000万円以下の罰金・併科ありとなります。なお、懲役と罰金は、どちらかを選択する規定が多いのですが、関税法・商標法違反では、懲役と罰金を併せて科することができます。これが「併科」です。

     また、貨物を輸出し、又は輸入しようとする者は、必要な事項を税関長に申告し、貨物につき必要な検査を経て、その許可を受けなければなりません(関税法67条)。輸入禁止・制限でない物品であっても、輸入許可を得ないで国内へ持ち込む行為は処罰されます(関税法111条1項 五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金・併科あり)。対象品が商標侵害品でなければ、輸入しても商標法違反になりませんが、関税法違反にはなります。故意に内容を偽った書類を提出して輸入した場合にも111条の罪になります。これは、輸入者本人が出した場合も、通関業者が出した場合も同じように処罰されます。以上の109条、111条の関税法違反は、未遂や予備まで処罰される点で、非常に重い種類の犯罪と言えます。

     なお、関税法109条も同111条も、侵害の「故意」がなければ罪になりません。つまり、申告内容に偽りがあることを認識して、それでもいいと考えて申告して輸入することが犯罪なのであって、荷主の申告内容の虚偽申請を見過ごしただけで通関業者が犯罪に問われることはありませんし、申告時点では当該荷物が客観的に輸入禁止・制限品であることを知りようもないのに、後になって、結果的に対象品だったことが分かったからと言って、通関業者が処罰されることもありません。

     次に、正犯と幇助犯の区別について説明します。
     犯罪組織の一味が役割分担をして、ニセブランド品を輸入したとします。このときは、たとえ単なる見張り役にすぎなくても、加担した全員が密輸犯として処罰されます。このことを共同正犯(刑法60条)といいます。一部分しか関与していなくても、その関与が犯罪全体の成功に寄与するからというのが処罰根拠です。
     犯罪組織に加わっていなくても、そのような組織であることを知りながら、これに協力したという人は、犯罪の一部を助けただけなので、協力者としての限度で処罰されます。これを従犯(幇助犯)といいます。幇助犯の法定刑は正犯の半分となっています。
     密輸入・無許可輸入のあっせん・媒介や貨物の運搬保管は、関税法112条に特別の処罰規定がありますが、これは一定の類型の幇助行為を処罰しやすくするための規定です。
     ここまでは、故意犯といい、犯罪を犯す意思をもって犯罪をする場合の規定です。

     このほか、関税法では、「過失犯」として、許可を得ないで輸入してしまった場合にも重大な過失があれば処罰できるという規定があります(116条)。過失犯は、罪を犯す意思はなかったけれども、結果的に間違って罪を犯してしまったという場合の規定です。関税法109条の密輸入罪には過失処罰がありません(116条は109条を引用していない)。もともと確定的な犯罪意思に基づく密輸入は過失がありえないのです。また、111条2項の通関業者の虚偽申告も過失処罰はありません。

     以上の犯罪は、個人としても法人としても処罰される可能性があります(両罰規定)。

     もし、通関業者が関税法109条や111条違反で処罰をうけると、たとえ罰金であっても通関業法6条4号の欠格事由にあたります(懲役であれば同条3号です)。欠格事由に該当すると、税関長は、通関業許可を取り消すことが出来ます(自動的に消えるわけではない)。
     関税法116条の過失犯で罰金になった場合は、通関業法上の欠格事由にはならないのですが、通関業法34条の「監督処分」の一環として、1年以内の業務停止や許可の取消まで処分可能になっていますので、許可が取り消される可能性があることは、欠格事由に該当した場合と同じです。
     通関士個人についても、業務停止(1年)や従事禁止(2年)などの処分可能性があります。

  • 商標登録できる?できない?「言葉」

     商標登録は販売促進やサービスの周知にあたり有効なツールですが、なんでも登録出来るわけではありません。

     登録制限の一つに、一般的な名称や品質を表すだけの言葉は登録できないというルールがあります。これは考えてみれば当然のことで、例えば、携帯電話の会社が「携帯電話」を商標登録出来てしまうと、他の会社は、携帯電話を違う名前で売らなければならなくなってしまいますし、運送会社が「迅速」「安全」などを商標登録できてしまうと、他の会社はそのようなキャッチを使えなくなってしまいます。そのようなことを避けるために、どこの国でも一般的な普通名称や品質を意味する言葉は商標登録できないことになっています。

     では、実際に、どんな言葉が登録できないのか。実は、この質問に対して即答するのは相当難しいことです。

     世の中には有名になりすぎて、会社の名付けがそのまま一般名称になってしまった例があります。
     例えば、「正露丸(征露丸)」はもともと大幸薬品の登録商標でしたが、いまでは同様のクレオソート製剤が、多くの会社から「正露丸」として販売されています。
     「うどんすき」も発祥には諸説ありますが、いまでは普通名称とされています。
     また、もともと登録商標だったものが、一般化されてしまって、商標権者も商標を放棄してしまったものとして、「エスカレータ」「ホッチキス」「ホームシアター」などがあります。
     その他、「瓦そば」「柿の葉茶」「アールグレー」などが一般名称とされています。

     上記あたりであれば、私も知っていましたが、裁判例のなかには、「フロアタム(打楽器だそうです)」「カンショウ乳酸(薬品名だそうです)」などが一般名称だとされたものがあります。
     つまり、一般人なら誰でも知っているというほどの著名品でなくても、当該業界で広く一般使用されているのであれば、業界人以外は知らないという程度のものでも商標登録できない可能性があるということです。

     一方、過去に商標登録が認められた実例には「ミルクドーナツ」「美術年鑑」「ジューシー」などがあり、これらのほうがよほど一般名称なのではないかと思うのですが、登録当時はそれなりに商標登録による保護が相当だと判断されたのでしょう。

     外国語の商標も難しい面があります。裁判例では、「FLAVAN(ポリフェノールの一種)」が物の一般名称だという理由で、第32類(食品)での登録を拒否された例があります。
     日本人だから外国語は知らないでしょうという理屈も通らないということです。
    「国際商標」の場合には、もっと顕著になりますから、辞書に載っているような単語はそのままでは原則として登録できないと考えておく必要があります。

     最近では、シャープが出願・登録していた液晶の「IGZO」が無効になった例がありました。これも、素人には意外だったのではないでしょうか
     
     逆に、自社の商標が日本中や世界に広がって、一般名称化することは、皮肉な現象ながら、ある意味、事業者冥利に尽きると思います。これからどんな商標が普通名称化されそうか眺めてみるのもおもしろそうですね。