カテゴリー: 法令

  • 離婚問題:養育費は子どもの権利とみるべきことについて の注意喚起

    注意喚起です。

    ネット情報を検索すると、「養育費の請求を、離婚協議書の包括的放棄・清算条項で阻止できる」という趣旨の情報が流布していますがかつて見られましたが、これは、明らかに間違いです(この記事を書いてから?ほぼなくなったようです 2014/10/20 追記)。

    財産分与慰謝料は、夫婦間の債権債務関係に基づくものなので、清算条項の範囲に含まれます。そういう意味では、包括清算条項は確かに有用です。しかし、養育費は子どもの権利(扶養請求ですが、未成熟子の扶養を養育というようです)なので、夫婦間の放棄合意(増減不可合意も)は処分権がないという意味で無効(民881)であり、夫婦間の合意としても公序良俗違反で無効になります(一定の当事者間効力を認めないわけではないけれども、子の福祉が最優先になるので、それに抵触する限りは公序良俗違反であるということ)。

    養育費は、子どもの必要を満たすために、夫婦の資力に応じて分担しあう支出ですので、夫婦の資力の変化や子どもの必要具合の変化に応じて、いつでも権利者・義務者双方から増額・減額の請求ができるものです(協議がつかなければ、家庭裁判所に「養育費増額・減額請求調停の申し立て」ができます)。

    夫婦間でとりあえず養育費内容を決めているのは、あくまでも子の福祉のための後見的配慮であるわけで、そういう意味で、個人的には、養育費については当事者の調整任せにしないで、もっと家庭裁判所の職権的な判断を強く出してもいいのではと思っていますけれども。。。

    協議離婚の公正証書に記載される包括放棄清算条項に、規定以上の養育費の請求放棄まで含まれているように当事者が理解していたとしたら、それは誤りですが、もしかすると公証人が、そこまで丁寧に意思確認してくれないかもしれませんので、上記のような誤情報に基づく一定数の錯誤が発生していて、そのうち紛争になる可能性はあります。

    繰り返しますが、養育費を包括放棄し、あるいは増減不可とする内容の離婚協議書の条項は、無効ですので、ご注意ください。

  • 商行為・商事契約のまとめ

    会社法は,わざわざ「事業行為」と「事業のための行為」を「商行為」だと決めています(会社法5条)。なぜ「商行為」という定義が必要なのでしょうか。
    それは,「商行為」であるかないかによって,「民法」「商法」のどちらが適用されるかが決まるからです。
    もともと,会社法は,平成18年改正までは「商法」の一部として規定されていました。いまでも「商法」という法律は残っていて,そこに「商行為」が規定されています(商法501条、502条)。
    商行為であるとき(商事)とないとき(民事)の、法律行為に関する違いは次の通りです。これらの規定は商行為全般に適用されます。

    商事 民事
    代理・顕名(本人のためにすることの表示) 不要(商法504条) 顕名必要(民法99条)
    委任 明示的委任外の行為も可(505条) 明示的委任範囲に限る(643条)
    委任による代理権 本人死亡により消滅しない(506条) 本人死亡で消滅する(653条)
    申し込み 直ちに承諾しないと申し込みは失効(507条) 民法には規定なし
    隔地者申し込み 相当期間内に承諾しないときは申し込み失効(508条) 承諾の通知を受けるのに相当な期間経過を要す(524条)
    諾否通知義務 通知義務あり・見なし承諾あり(509条) なし

    また,商事契約に関しては次のような違いがあります。

    商事 民事
    多数当事者の共同債務 当然に連帯債務(511条) 当然には連帯債務にならない(452条)
    委任の報酬 当然に相当額を請求できる(512条) 当然には報酬請求はできない
    貸金の利息 当然に商事法定利率(年6%)を請求できる 利息の取り決めをしなければ請求できない。
    流質処分 流質できる(515条) 流質できない(349条)
    債権の消滅時効 原則5年(522条) 原則10年(167条)

    要するに,一般民事よりも,素早く・簡単に物事をすませようというのが「商事」の基本的発想になっています。
    このほかにも当事者双方が商人である場合の売買については,次のような特別な取扱がされています。

    • 受領拒否・受領不能の場合に裁判所の許可なく競売が可能(商法524条)
    • 履行期日が重要な意味を持つ売買で,履行期が経過してから直ちに履行を請求しないときは解除とみなされる(商法525条)
    • 買主は通常の瑕疵は遅滞なく通知しなければ瑕疵担保・損害賠償責任を追求できない(商法526条)

    前記の商事法定利息(商法513条1項)は,両当事者にとって商行為である場合に限り適用されます。つまり,貸すほうは同じ貸金会社でも,商人に貸せば当然に商事法定利率(6%)で利息の請求ができますが,商人でない人に貸した場合は利息を約定しないと利息が取れません(利息を決めても利率を決めなければ5%です)。

  • 会社の種類について超まとめ

     前回は個人と会社について述べましたが,今回は,会社の種類についてです。
     会社は,次に述べるようないろいろな区分がされています。大きな目的は,会社の規模に応じて,柔軟な法規制をすることですが,会社の内部組織をどのようにするかは,重要な経営問題でもあります。

    ・資本形態 株式会社(特例有限会社含む),持分会社(合名会社,合資会社,合同会社)
     会社のオーナーは,その会社の「株式」ないし「持分」を支配している人のことです。株式会社では「株主」持分会社では「社員」と呼びます。一般用語での「社員」は「従業員」と同じ意味で使われていますが,法律用語としての「社員」は社団(人の集まり)の構成員という意味です。
     非公開会社の場合は創業者・創業家が株式等を独占していることが多いのですが,公開会社は,性質上単独支配が難しく,株主総会・社員総会の運営が問題になります。
     有限会社は,2006年法改正で「株式会社」と見なされることになり,それ以後は新設できません。従前の有限会社は「特例株式会社」として以前の有限会社に近い内容での存続が特例として認められています。
     持分会社の違いを理解するには,有限責任・無限責任の考え方の理解が必要です。何が「有限・無限」かというと,もし,その会社が倒産した場合に,債権者に対して,「出資の範囲内・会社にある財産だけで責任を負う(=有限)」のか,「出資額を超えて・会社の財産がなくても、個人としての財産まで提供する責任を負う(=無限)」のか、ということです。「合名会社」は,社員全員が無限責任ですが,「合同会社」では全員が有限責任です。「合資会社」は,無限責任社員と有限責任社員の両方がいます。「株式会社」の社員は全員が「有限責任」です。つまり、株式会社の株主と、合同会社の社員は、会社の債務を保証していない限り,出資額の範囲で(つまり,株式が紙くずになって,会社が解散しても払戻額は0円になるという意味で)責任を負えばよいわけですが、無限責任社員は、会社に財産がなくなったら、個人の財産から会社の債権者に対して弁済しなければならなくなります。

    ・公開性 非公開会社・公開会社・上場会社 同族会社・非同族会社
     公開・非公開は、会社の株式を誰が保有できて,どのように入手できるかの違いです。基本的に株式の譲渡を認めていないのが非公開会社(閉鎖会社ともいいます)です。公開会社は,株式の譲渡が原則自由であり,だれでも株式を持てるという意味で公開されています。このことをいっそう徹底して,株式を証券市場で不特定多数の投資家の売買にさらす会社を上場会社といいます。上場が起業家の成功の証拠のように言われていますが,上場に伴うコスト・リスクとメリットをよく考えないと、大失敗してしまいます。非上場化の手法としてMBO(経営陣による会社の買い取り)があります。
     同族・非同族は、法人税の場面で区別されている種類です。要するに,同族支配(出資者一族とのつながり)が強い会社の場合には,個人・家族資産と会社資産の区分が不明瞭になりがちなので,規制をかけているわけです。

    ・系列・実質的支配関係 親会社・子会社
     基本的には、議決権の半分を超えて保有しているほうが親会社で,保有されているほうが子会社です。ただし、「経営を支配している(法2条4号)」「財務及び事業の方針の決定を支配している(施行規則3条3項)」という拡張した定義概念がありますので、具体的にどういう関係であれば親子会社といえるのかはそれらの規定に従ってチェックされます。
     一般用語では、元請け・下請け関係のことを,親会社・子会社と言う例もまれにあるようですが、議決権による関与がない場合には,その言葉遣いは法的に間違いです。

    ・資本の規模 大会社,中会社,小会社
     会社法では,資本金5億円以上,負債200億円以上を大会社と規定して,厳しい規制を掛けています。中会社・小会社は中小企業基本法や法人税法などで,各種の優遇措置対象としての定義がされています。くわしくは、中小企業庁のサイト等をご参照ください。

    ・組織 取締役会,会計参与,監査役,監査役会,会計監査人,委員会 等の設置会社
     かつて、株式会社には3人以上の取締役を置かなければならず,必ず取締役会がありました。しかし,現行法では,取締役は1人または2人以上と規定され、かつ、取締役会の設置も会社の任意になりました。例外として,公開会社,監査役会設置会社,委員会設置会社には取締役会の設置義務があり、その場合には取締役は3人以上置かねばなりません(法331条4項)。そのほかの機関も置く必要があるかどうかは,法律の規定により必要とされる場合と,会社の任意による場合とがあります。

     他にも,民法上の組合(民法667条),匿名組合(商法535条),有限責任事業組合(LLP法),投資事業有限責任組合(LPS法),特定目的会社(SPC法)などが,共同事業やファイナンスのスキームで用いられています。

     以上のように,会社組織や共同事業の形態には様々な構成方法があり,規模の大小にもよりますが,それぞれにメリット・デメリットがあります。取引関係法や内部統制はもちろんのこと,税法上の取扱にも大きく影響します。そのため,事業を展開して他の事業者と提携・合併する場合や,会社の規模を拡大・縮小するには,どのような組織形態がよいのか,その都度、税理士・公認会計士との相談もして、慎重に検討する必要があります。