カテゴリー: 法令

  • 株主と株式

     法律用語で「社員」という場合、社団の構成員(株式会社では「株主」)であると説明しました。一般用語の「社員」は「従業員」の意味で、その場合法律用語では「使用人」といいます。
     「株主」は、株式の所有を通じて、その株式会社に対して資金を提供している立場になります。

     株主には、必須の権利2つと、会社の制度上任意の権利1つがあります(会社法105条)。
     必須の権利は、「剰余金の配当を受ける権利」と「残余財産の分配を受ける権利」です。会社の任意の設定による権利は「株主総会における議決権」です。
     必須の権利のない株式は定款に決めることができませんが、「議決権のない」株式を作ることは自由です。この目的は、「金はほしいが、経営に口を出してほしくない」会社にも投資家からの出資の機会を与えるという点にあります。この場合、株主は口を出せない代わりに、他の株主よりも配当を多くすること(優先配当権付無議決権株式)で、経済的な満足を付与するやりかたが一般的です。

     必須の権利その1の「剰余金」とは、要するに「配当可能利益」のことです。あくまでも配当可能な利益がある場合に、配当を受けられるという権利ですので、利益がなければ配当を受けられないのは当然です。この点、いったん利息の支払いを約束したら、会社が赤字であっても払わなければならない「社債の利息」とは全く違います(利益があるときだけ配当すればいいというのが会社にとっての株式のメリットです)。
     利益がないのに配当することは、「蛸配当・蛸足配当(蛸が自分の足を食べる様(…が本当にあるのかどうかはさておき)になぞらえて、こういいます)」といって、違法な配当となり、経営者は会社に対して賠償責任を負いますので、そのようなことはできません(粉飾決算をすれば別ですが、それでは重ねて刑事責任まで負いかねません)。

     必須の権利その2の「残余財産」とは、その会社が破産や清算などによって、存在しなくなってしまう場合に、全部の債権者へ弁済をした後になお残った財産をいいます。破産の場合に残余財産があることはまれですが、清算(自主廃業)のような場合には、多額の残余財産が生じることもあります。ちなみに、2001年に額面株式が廃止されるよりも前に発行された株券には額面額が記載されていますが、これはあくまでも発行時点でそれだけの払込金があったという事実を示すだけであり、株主が、いつまでもその券面に書かれた金額を会社から払い戻してもらえるということではありませんので、誤解のないようにしてください。
     それらの必須の権利であっても、法律で決められた範囲内であれば、内容に差をつけることが認められています。例えば、優先配当をする株式(優先株)や、逆に他の株主よりも不利な条件で配当を受ける後配株(劣後株)などがあります。
     株式は複数の株主で「共有」することもできます。例えば、株式を遺産相続した場合や、持株会で保有した場合などに共有になることがあります。共有になったときには、株主のほうで「議決権行使者」を決めないと、原則として権利行使できません(会社法106条)。
     株主は、上記のような数種類の株式を持つことがありますが、原則として同じ種類の株式の株主は、その持ち株数に応じて「平等」に扱わなければいけません(会社法109条)。A株主は名誉会長だから配当2倍、B株主は従業員だから配当半分という扱いは、どちらも同じ種類の株式であれば、できません(そのようなことをするときは、別の種類の株式として発行する必要があります。なお、非公開会社では定款での定めなら可 2項)。

  • 株式・株券

     株式は、株式会社のあらゆる財産価値(資産、負債のほか貸借対照表や損益計算表に乗らない得意先関係や人材などの無形的資産などを含めた総合評価)を一身に集めた存在です。その存在を、投資や取引の対象とするために作られたのが株券であり、株式取引はまさに人間の知恵を集約したシステムです。

     最初の株式は、会社設立の際に、出資者が「引き受ける」ことにより誕生します。そのときの引き受け価額が、「出資の額」となり、株式の原始価格となります。それと同時に、出資者の会社債権者に対する責任は、この出資額の範囲に限定されます(会社法104条 有限責任)。この有限責任の仕組は自由主義・資本主義経済の拡大に大きく寄与しました。もし、この有限責任のシステムがなかったら、出資者はその事業に関わったというだけで、会社の債権者からの追求があれば、全財産を持ち出してでも返済しなければならなくなります。これに対して、有限責任ならば、最初の出資分が戻ってこないことだけ覚悟すればよいので、リスクが限定でき、その分いわゆるハイリスクハイリターンの事業にも積極的に関わっていくことが出来ます(残念ながら、日本市場でのリスクテイクを阻害しているのが、会社の代表者を連帯保証人にする制度と、リコースローンと呼ばれる抵当権制度ですが、このことは又後日機会があれば説明します)。

     株式は、会社の価値を体現するものであることから、会社が繁盛してその価値が上がってくると、当初の出資額以上でもその株式を買い取りたいという人が出てきます。逆に、会社の価値が下がると、当初の出資額を下回ってでもだれかに株式を譲り渡して資金を取り戻し、別の事業へ振り向けたいという人が出てきます。このような流動性の発生を多くの参加者を集めることによって収拾するのが株式市場です。現代の株式は、会社経営者・投資家の様々な思惑から、非常に複雑な仕組になっていて、どのような場合にどんな内容の株式を発行できるのか、会社法で細かく決められていますが、株式が会社の価値の表現であり(法104条)、それ自体を取引できる(法127条)という点は基本です。

     以上のように、株式は本来的には株式市場で自由に取引されることが原則ですが、経営者=株主であるような場合には、同じ経営者・株主仲間や、非経営者株主(外部出資者)との間で、会社の実質的支配権を巡って、争いになることがあります。また、株式には前記のような会社そのものの持分を意味する財産価値がありますので、その相続が発生すると、親子間・兄弟間・遺族と会社経営陣の間などで、いろいろな法律紛争が発生してしまいます。そのため、会社法は、株式の譲渡について、会社の承諾を必要とする旨を定款で定めることを認めています(法107条1項1号)。そのような定めのある会社を「非公開会社」といいます。非公開会社であっても、一定の事情が発生したときに、株主の不利益にならないように、会社がその株式を買い取らなければならない場合があります(法116条)。

     かつては株式には「株券」が必須でしたが、現在では、会社の種類を問わず、原則として株券発行不要であり、株券を発行する場合には定款にその旨記載するという仕組に変わりました(法214条)。従来の株券取引ルール(譲渡・質入れするには株券必要とか、名義書換に提示必要など)は、「株券発行会社」に限って適用されることになります。

  • 商号と商標の違い

    違いをまとめました

    商号 商標
    意味 会社の名前(1社に一つ) 商品やサービスの名前(1社が多数持つことも可)
    登録 法務局・登記 特許庁・登録
    根拠 会社法,商業登記法 商標法
    記号 なし(法務局の認める文字でないと登記不可) あり(記号や図形も登録可)
    期間 有効期限なし 10年ごと更新必要

     会社が大きくなり、需要者に周知されてくると,その名称そのものが一種の財産的価値を帯びてきます。ネームバリューとも言われます。
     最近では,コーポレイトアイデンティティ(CI)とか,ブランディングということで,広告業者や特許事務所などが,商号と商標の同時登録という広告戦略を勧めているようです。商号の登記・維持には登記費用とその後の変更登記費用がかかり,商標には出願登録時に約20万円くらい,更新時(10年ごと)に10万円くらいの費用がかかります。かといって,それだけの価値を生み出した時点で出願しようとしても,先に登録されてしまったりすることがあり,ブランディングの観点からは、著名にならないうちに先取りしておかなければなりません。
     商号や商標を不正に登記・登録・使用することは、民法や不正競争防止法により損害賠償請求の対象となります。不正使用の被害拡大を防止するための差止という方法もあります。
     ちなみに、「商標権」は知的財産権の一種です。このほか会社関連では、「意匠権」という言葉もよく出てきます。
     「意匠」は、物のデザインを保護する仕組で、商標と同じように特許庁の登録が必要です。製造企業では非常に重要な権利といえます。非製造企業では、サービスそのものの名称である「商標」のほか、独創的なサービスの仕組を一定のシステムと結びつけることで、「特許」を取得することが考えられますが、ありふれたアイデアはすでに登録されていることが多く、非常に多くの先行事例があるので、さらにその先を行く新しい発想が必要なため、なかなか狭き門といえます。