カテゴリー: 法令

  • 職業紹介事業

     労働法分野で近年大きく動いているのが、人材派遣職業紹介の領域です。もともとは、人身売買手配師などによる中間搾取など、過去の労働者に対する人権侵害の反省に立って、労働者派遣や職業紹介は、原則的かつ広範囲に禁止されていました。しかし、自由に雇用調整をしたい使用者側からの要求が強く、むやみに規制を強化することは得策でないと考えられた結果、法規制は徐々に緩和され、今日では、派遣業・人材スカウト等の人材ビジネスが社会的な存在感をもつようになってきました。

     2014年1月現在、職業紹介制度がおおむねどのようになっているのか概観しておきましょう。

     まず、公共の職業紹介は「ハローワーク」で有名ですね。他方、民間による職業紹介は、有料か無料かで規制が違います。有料で職業紹介をする場合には、厚生労働大臣の許可が必要であり、なおかつ、港湾と建設の労働者については職業紹介できません。無料で職業紹介をする場合には、すべての職業を対象にできますが、原則としてやはり許可制(一部については届出制)です。かつては職業紹介事業者は兼業禁止で、営業供託金制度もあったのですが、現在ではいずれもありませんので、職業紹介事業主は兼業も可能ですが、事業認可を受ける際には、専業の場合よりも財政基盤や人材設備等の審査が厳しくなります。その他、講習会を受講した職業紹介責任者を選任する必要があります。事業規制のトレンドとして、このような責任者選任の仕組が流行っており、古くは宅地建物取引主任者がありますが、最近は貸金業務取扱主任者、マンション管理業務主任者など、いろいろな分野に広がってきました。

     有料職業紹介は、求人者(雇用主)から手数料(上限制の場合、1件につき670円)を受けるものであって、求職者(労働者)側に手数料を求めることは原則としてできません。

     例外的に、芸能家(放送番組・広告放送、映画、寄席、劇場等で音楽、演芸その他の芸能の提供を行う者)、モデル(商品展示等のため、ファッションショーその他の催事に出席し、若しくは新聞、雑誌等に用いられる写真等の制作の題材となる者又は絵画、彫刻その他の美術品の創作の題材となる者)については収入に関係なく、また、科学技術者(高度の科学的、専門的な知識及び手段を応用し、研究を行い、又は生産その他の事業活動に関する技術的事項の企画、管理、指導等を行う者)、経営管理者(会社その他の団体の経営に関する高度の専門的知識及び経験を有し、会社その他の団体の経営のための管理的職務を行う者)若しくは熟練技能者(職業能力開発促進法に規定する技能検定のうち特級若しくは一級の技能検定に合格した者が有する技能又はこれに相当する技能を有し、生産その他の事業活動において当該技能を活用した業務を行う者)については、就職後の年収が700万円を超える場合に限り、求職者からも手数料を受けられます。受けられる手数料の上限は法律で一定額・割合に定められています。
     また、芸能家、家政婦(家政一般の業務(個人の家庭又は寄宿舎その他これに準ずる施設において行われるものに限る。)、患者、病弱者等の付添いの業務又は看護の補助の業務(病院等の施設において行われるものに限る。)を行う者)、配ぜん人(正式の献立による食事を提供するホテル、料理店、会館等において、正式の作法による食卓の布設、配ぜん、給仕等の業務(これらの業務に付随した飲食器等の器具の整理及び保管に必要な業務を含む。)を行う者)、調理士(調理、栄養及び衛生に関する専門的な知識及び技能を有し、調理の業務を行う者)、同項のモデル又はマネキン(専門的な商品知識及び宣伝技能を有し、店頭、展示会等において相対する顧客の購買意欲をそそり、販売の促進に資するために各種商品の説明、実演等の宣伝の業務(この業務に付随した販売の業務を含む。)を行う者)に限っては、手数料670円を受けることができます。

     詳しくは、下記サイトをご参照ください。
    厚生労働省のサイト
    大阪労働局のサイト

  • 派遣労働の考え方

     派遣労働については、労働者派遣法(昭和60年成立、同61年7月1日から施行)以来、度重なる改正を経て、次第に規制が緩和されてくる傾向にあります。
     施行当初、適用対象業務は13種類に限られていましたが、同年10月にすぐに3業務が加えられ、平成8年12月には11業務が加えられました。そして、平成11年12月1日からは派遣対象業務を原則禁止例外許可から原則許可例外禁止へ(ポジティブリストからネガティブリストへ)改めました。併せて、派遣期間を原則1年とする制限を設けました。平成12年12月1日からは紹介予定派遣(派遣先で正社員候補として働く方式)が法制化され、製造業派遣も解禁されました。平成16年改正では、自由化業務の派遣期間を3年に延長し、旧政令26業務については派遣期間制限が撤廃されました。なお、現行法でも、建設・警備・港湾業務に関しては、派遣禁止(医療は一部可能)となっています。平成24年改正では、日雇派遣(30日以内の期間を定める場合)が原則禁止となり、労働契約のみなし申込制度(施行は平成27年10月から)が設けられるなど、労働者保護への配慮もされましたが、登録型派遣・製造業派遣は維持されました。
     派遣労働は、景気の好不調による雇用調整が正社員労働者に及ばないようにする仕組として機能している実情にあり、法律が当初想定した「専門的能力をもった、流動性のある人材活用」というイメージから遠くなりつつあります。平成16年改正の雇用申込義務の新設や、平成24年改正も、いわゆる「非正規労働者」が増えすぎて、雇用の不安定性が社会問題にまで至ったことが原因です。

     成立から25年以上になる現在でもなお、派遣法適用の場面では、いろいろな問題点を抱えています。
     その一つが、派遣先と派遣労働者との間の「黙示的労働契約」と言われる問題です。
     これは、派遣労働者を受け入れた派遣先が、単に派遣先というにとどまらず、派遣されてきた労働者との間でも、使用者の立場に立ち、明示的に契約を交わしていなくても、ある一定の条件が満たされれば、まるで、派遣先自身がその派遣労働者を雇用したのと同じような関係が成立するという考え方のことです。
     これを読んでどう思われたでしょうか。こんな労働関係が成立するとしたら、派遣先(派遣労働者を受け入れる側)の企業は、思いもよらない人員コストを負担せざるをえなくなる、非常に「怖い」状態に置かれていると言えるわけです。
     他方、労働者の側から見れば、派遣先が人事権を持っていて、給与の額まで派遣元に指示できるような関係にあったときには、派遣というのは名ばかりで、実際には派遣先に雇われているのと同じと考えても仕方がない事かも知れません。
     上記の例に限りませんが、企業としては、どのような人事労務管理政策をとるのかは、非常に重要な経営戦略の一つであると言えます。

  • 「労働者」とはなにか

     これもまた一般用語と法律概念とがストレートに結びつかない例の一つですが、基本的な考え方として、法律上「労働者」とは、「使用者」の「指揮監督に服し」て働き「賃金の支払いを受ける」人のこととされています。
     どうしてこのような定義が必要かというと、「労働者」であれば、労働法による保護(労働時間や休日、最低賃金、労災補償など)が原則適用され、「労働者でない」ならば労働法の保護は原則適用されないからです。
     会社(使用者)側からすれば、従業員が労働者でなければ、残業代も払わないでよいし、休日出勤も無制限で、賃金の規制もなく、労災保険料も払わないで済むという、非常に都合の良いことになります。そのため、質の悪い会社は、なんとかして会社の負担を減らそうと、いろいろな「工夫(脱法行為)」を試みてきました。
     例えば、以前話題になった「偽装請負・偽装派遣」などはその一種ですし、完全歩合制の代理店制度や、個人営業者への「業務委託」などの方法も、脱法行為に使われます。
     しかし、どのような脱法的な仕組を作っても、結局は「使用者の指揮監督に服し」「賃金を支払う」という二つの要素から、実際上の取扱をみて裁判所が判断しますので、上記のような労働法の適用を逃れようとする努力は、たいていの場合「無効」になります。
     裁判例によると、(1)指揮監督関係があること、(2)報酬が労務の対価として払われていること、(3)業務経費の負担、専属性の程度、服務規律の有無、租税公課の負担などの付随的要素、の3つをそれぞれの事案に応じて判断されています。
     要するに、会社で使っている個人が「労働者でない」といえるためには、その個人が会社の指揮命令に従う義務がなく(取引や労務を拒否したり、裁量で変更する自由がある)、報酬が時間給や日給ではなくて、業務成果に応じたもの(請負)になっているなど、完全に「自営業者」の実態がないとダメということです。
     人件費をはじめとする経費節減は、適法行為の範囲内で考えるようにしましょう。