カテゴリー: 労働問題

  • 公益通報者保護法

    最近久しぶりにアクセス記録を見たら、ここ1年ほど月間延べ4000人以上ものアクセスがあって、びっくりしました。閲覧記事が偏っているので、例によって、過去に書いたものの使い回し記事ですが、これから不定期にアップしていきたいと思います。

    今回は,当職が関係している業務から,公益通報者保護法に絡んで,コンプライアンス(法令遵守)経営の要点をご紹介します。
     公益通報者保護法は,平成18年施行の法律で,企業内部の不祥事等を告発した労働者が解雇等の不利益な取り扱いを受けないようにしたものです。
     この法律に至るまでに,ご承知のとおり,三菱自動車のリコール隠し,雪印食品の産地偽装などをはじめとする企業の組織的な法令違反が相次ぎ,いずれも内部告発が事件が明るみに出るきっかけとなりました。そのほかにも企業内部で隠れて行われた好ましくない行為が,内部者によって,監督官庁へ通報されて,企業が処分を受けるという事例はいまなお非常に多発しています。
     公益通報者保護法では,労働者に対する不利益な取り扱いを禁止する一方で,企業内部での自浄作用に期待して,企業内部への通報の仕組をつくるように求めています。前述の例のように,いきなり監督官庁やマスコミへリークされるよりは,会社内部で必要な是正措置をとるほうが,ダメージはより少ないと言えます。そのためには,社内の風通しを良くして,違法行為が定着する前に発見して芽を摘むことが必要です。
     金融・保険関係の企業では,相当以前からコンプライアンス(法令遵守経営)が言われておりましたし,一部上場の大企業に関しては,業種を問わず,コンプライアンス経営を重視して,内部監査の体制を整備してきています。
     一方,中小企業では,人員や予算の問題があって,そのような内部監査の仕組をつくることはなかなか難しく,実際上は社長の一存ですべてが決まることもあって,コンプライアンス(法令遵守)経営はひとえに社長一人に委ねられているのが実情といえます。
     このような実情に即して,中小企業でのコンプライアンス経営を考えると,社長の役割は非常に重要であり,間違った判断は許されない立場にあるといえます。もちろん,社長の判断を支える側近や従業員も大きな役割を担っていますが,最終的には風通しのよい社内環境を前提として,社長の英断が中小企業のコンプライアンス経営の根本といえるでしょう。
     残念ながら多くの弁護士は(私もまた)経営の専門家ではないので,日々の営業・経営判断の場面で,お手伝いのできることはあまり多くはありません。しかし,権利関係や契約締結などの法的適合性判断にかけては,自信を持ってお手伝いできます。今後,様々な取引形態・契約関係が生じてくるなかで,単なる取引慣行ではなく,すべての面でますます法令適合性が求められることになってくると考えられますので,新しいことに取り組む際には,御社の法務部として、顧問弁護士を活用し,コンプライアンスの観点からのリーガルチェック(適法性チェック)をご検討頂ければと存じます。

  • litigatorという存在について

    唐突ですが、Ally Mcbeal ってご存じですか。アリーマイラブといえばわかる方もいるかもしれません。ボストンの法律事務所で働く女性弁護士を主人公にしたアメリカFOXのTVドラマシリーズです。
    一時期気に入ってDVDまで買って見ていました。

    その中で、何話だったか忘れましたが、主人公の女性弁護士アリーが、「I’m a litigator」と叫ぶ場面があります。litigator とは、とある辞書によれば「a lawyer skilled in arguing in court.」だそうです。

    一方、litigatorに対しては、ある種ネガティブな固定イメージがあるようで、例えば、このようなワニ・は虫類のイメージがよく見られます。The world’s most dangerous reptile… reptile には「は虫類」の意味のほかに「卑劣」という意味もあるようで、..gator が aligator の韻を踏んで、litigatorに対する揶揄的表現になっています。

    しかし、私は自分がlitigatorであることに誇りを持っています。litigationはあらゆる知覚記憶表現叙述の技能を駆使する非常に高度な作業だと思います。弁護士からの依頼しか受けず、法廷でしか戦わない弁護士専門の弁護士になりたいとすら考えたことがあります。

    利益が対立し合う当事者が着地点を見つけるためには、訴訟は非常に合理的な手段の一つです。最近ではADR(Alternative Dispute Resolution)といって、訴訟外で、相互に譲り合って、早く解決しようという流れもありますが、これは条件によっては、「弱い者があきらめ、強い者が無理を通す(ここでいう強い・弱いは非常に多くの要素をもつ概念として使っていますので、一般にいう「弱者・強者」と必ずしも同じ意味ではありません)」構図になってしまいかねない問題があるように感じています。

    私は、これからもlitigatorの誇りをもって仕事をしていきたいと思います。

  • アスベスト問題と今後の新テクノロジーについて

     昨年5月19日に大阪地方裁判所「泉南アスベスト(石綿)工場国家賠償請求第一陣原告訴訟」の判決があり、原告の一部を除いて請求一部認容の結果となりましたが、国は控訴しました。この控訴審がいよいよ大詰めを迎えようとしているようです。

     阪南市・泉南市・泉佐野市には、第二次世界大戦前から昭和50年代ころまでの間、多数の零細なアスベスト(石綿)工場がありました。そこでは、女性男性問わず、有害な石綿粉じんを吸い込みながら長時間労働をしており、工場近隣に住む住民も工場から排出される粉じんを浴びて暮らしていました。

     最近になって取りざたされている石綿ですが、実は、国は昭和12年にこの泉南地域の大規模調査を実施しており、肺の病気が多発していることを知っていました。しかし、当時は軍備拡張のために石綿の存在は欠かせないものだったため、何の対策もされませんでした。
     ようやく昭和22年になって労働基準法で規制をしましたが、有効といえる対策が取られたのは昭和46年の特定化学物質等障害予防規則が初めてでした。石綿が発癌物質であることについては、昭和35年頃にアメリカで報告されており、国もそのことを把握していたのですが、10年以上にわたって何らの規制もしなかったのです。
     被害者にとってさらに不幸なことは、石綿による病気は潜伏期間が長く、気づいたときには手遅れになるという恐ろしさでした。

     この問題は過去の話ですが、実はこれからの未来にも関わってきます。
     例えば、電磁波による健康障害についての研究は最近一応のレポートが出されましたが、まだ問題は残っているようです(WHOリポート)。また、最近のナノテクノロジーで生成されるナノ物質はあまりにも小さくて人体からの排出機構に乗らず、体内に蓄積されてしまう可能性があるため、物質の性状によっては石綿に似た健康被害を生じるのではないかとも言われています(ワシントンポスト記事)。
     このように、今の世の中では利便性・経済合理性を追求して膨大な化学薬品や科学技術が使われていますが、その全部が数十年後の健康被害を生まないことを保証されているわけではありません。極端に恐れることはないと思いますが、便利な技術の背後に常に危険が潜んでいることは、心に留めておくべきではないでしょうか。

     上記のアスベスト訴訟には直接関与していませんが、私も大阪アスベスト弁護団に所属しており、アスベストによる健康被害の相談を受けたり、企業賠償請求の訴訟を担当したりしています。じん肺や石綿肺などの病気で苦しんでいて、過去に粉じんのある職場で働いていたことのある方やそのご遺族は、国や職場に対する損害賠償請求ができる場合があります。身近の方にそのような方がおられましたら、弁護団へご相談ください。

     *昨年5月ごろに書いた文章に最近修正を加えたものです。