以前「労働者とはなにか」の話をしましたが、労働基準法のほかに労働組合法でも労働者の定義があります。労働基準法は「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下『事業』という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」としていますが、労働組合法では、「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。」となっていて、「使用される者」という部分が省かれています。
これがどのような場面で問題になるかですが、例えば、裁判例でみられるのは、専属契約の楽団員の加盟する演奏者組合が、楽団経営会社に団体交渉を申し込んだ場合に、会社がこれを拒否してもよいかどうかという問題です。
もし、労働基準法上の労働者による労働組合だけが団体交渉権を保障されるという考え方をとると、専属契約の楽団員が労基法上の労働者でなければ、楽団員の組合による団体交渉権は保護されないので、会社は団体交渉を拒否してもいいことになります。
裁判所の判断は、雇用関係にない(労働基準法上では労働者でない)場合でも、会社から支給されている給料で生計を立てている以上は、団体交渉の権利があるというものでした。
最近は雇用環境が厳しく、多くの労働者や個人事業者が、相互に競争関係にあるためか、大きな労働争議や厳しい労使交渉があるという話をあまり聞かなくなりました。しかし、団体交渉が低調になっている分、労働者個人や零細自営業者の不満が直接労働基準監督署や公正取引委員会等へ伝わりやすくなっていて、思わぬタイミングで、労基、公取、税務等の調査が入ったりすることも多くなってきていますので、経営者としては注意をしなければなりません。
カテゴリー: 労働問題
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労働者と労働組合
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派遣労働の考え方
派遣労働については、労働者派遣法(昭和60年成立、同61年7月1日から施行)以来、度重なる改正を経て、次第に規制が緩和されてくる傾向にあります。
施行当初、適用対象業務は13種類に限られていましたが、同年10月にすぐに3業務が加えられ、平成8年12月には11業務が加えられました。そして、平成11年12月1日からは派遣対象業務を原則禁止例外許可から原則許可例外禁止へ(ポジティブリストからネガティブリストへ)改めました。併せて、派遣期間を原則1年とする制限を設けました。平成12年12月1日からは紹介予定派遣(派遣先で正社員候補として働く方式)が法制化され、製造業派遣も解禁されました。平成16年改正では、自由化業務の派遣期間を3年に延長し、旧政令26業務については派遣期間制限が撤廃されました。なお、現行法でも、建設・警備・港湾業務に関しては、派遣禁止(医療は一部可能)となっています。平成24年改正では、日雇派遣(30日以内の期間を定める場合)が原則禁止となり、労働契約のみなし申込制度(施行は平成27年10月から)が設けられるなど、労働者保護への配慮もされましたが、登録型派遣・製造業派遣は維持されました。
派遣労働は、景気の好不調による雇用調整が正社員労働者に及ばないようにする仕組として機能している実情にあり、法律が当初想定した「専門的能力をもった、流動性のある人材活用」というイメージから遠くなりつつあります。平成16年改正の雇用申込義務の新設や、平成24年改正も、いわゆる「非正規労働者」が増えすぎて、雇用の不安定性が社会問題にまで至ったことが原因です。成立から25年以上になる現在でもなお、派遣法適用の場面では、いろいろな問題点を抱えています。
その一つが、派遣先と派遣労働者との間の「黙示的労働契約」と言われる問題です。
これは、派遣労働者を受け入れた派遣先が、単に派遣先というにとどまらず、派遣されてきた労働者との間でも、使用者の立場に立ち、明示的に契約を交わしていなくても、ある一定の条件が満たされれば、まるで、派遣先自身がその派遣労働者を雇用したのと同じような関係が成立するという考え方のことです。
これを読んでどう思われたでしょうか。こんな労働関係が成立するとしたら、派遣先(派遣労働者を受け入れる側)の企業は、思いもよらない人員コストを負担せざるをえなくなる、非常に「怖い」状態に置かれていると言えるわけです。
他方、労働者の側から見れば、派遣先が人事権を持っていて、給与の額まで派遣元に指示できるような関係にあったときには、派遣というのは名ばかりで、実際には派遣先に雇われているのと同じと考えても仕方がない事かも知れません。
上記の例に限りませんが、企業としては、どのような人事労務管理政策をとるのかは、非常に重要な経営戦略の一つであると言えます。 -
「労働者」とはなにか
これもまた一般用語と法律概念とがストレートに結びつかない例の一つですが、基本的な考え方として、法律上「労働者」とは、「使用者」の「指揮監督に服し」て働き「賃金の支払いを受ける」人のこととされています。
どうしてこのような定義が必要かというと、「労働者」であれば、労働法による保護(労働時間や休日、最低賃金、労災補償など)が原則適用され、「労働者でない」ならば労働法の保護は原則適用されないからです。
会社(使用者)側からすれば、従業員が労働者でなければ、残業代も払わないでよいし、休日出勤も無制限で、賃金の規制もなく、労災保険料も払わないで済むという、非常に都合の良いことになります。そのため、質の悪い会社は、なんとかして会社の負担を減らそうと、いろいろな「工夫(脱法行為)」を試みてきました。
例えば、以前話題になった「偽装請負・偽装派遣」などはその一種ですし、完全歩合制の代理店制度や、個人営業者への「業務委託」などの方法も、脱法行為に使われます。
しかし、どのような脱法的な仕組を作っても、結局は「使用者の指揮監督に服し」「賃金を支払う」という二つの要素から、実際上の取扱をみて裁判所が判断しますので、上記のような労働法の適用を逃れようとする努力は、たいていの場合「無効」になります。
裁判例によると、(1)指揮監督関係があること、(2)報酬が労務の対価として払われていること、(3)業務経費の負担、専属性の程度、服務規律の有無、租税公課の負担などの付随的要素、の3つをそれぞれの事案に応じて判断されています。
要するに、会社で使っている個人が「労働者でない」といえるためには、その個人が会社の指揮命令に従う義務がなく(取引や労務を拒否したり、裁量で変更する自由がある)、報酬が時間給や日給ではなくて、業務成果に応じたもの(請負)になっているなど、完全に「自営業者」の実態がないとダメということです。
人件費をはじめとする経費節減は、適法行為の範囲内で考えるようにしましょう。