カテゴリー: 労働問題

  • ハラスメントと労働環境

     今回はハラスメント(嫌がらせ)問題についてです。

     上司と部下、先生と生徒、男性と女性など、力関係や立場の違いなどをきっかけとして、一方的な関係に陥りやすくハラスメントの温床になりやすい人間関係がどんな会社・組織にもあります。

     セクハラはセクシャル・ハラスメントの略で、性的な言動によって相手を精神的・肉体的に傷つける行為のことです。モラハラは精神的な虐待行為です。そのうち、企業における上司と部下の間で起こるものはパワハラ(パワーハラスメント)と言われます。

     ハラスメント問題は、基本的には個人間の不法行為問題ですが、企業や組織が「個人的なこと」として、完全に無視していいわけでもありません。特にセクハラについては、前回解説した雇用機会均等法で、明確に企業の対処義務が掲げられています。

     ハラスメントをする人(加害者)は、多くの場合、ハラスメント行為の際に、内心では正当・当然と考えて暴言を吐いたり暴力を振るったりしており、罪悪感が薄いのが特徴です。被害者が、警察や弁護士に相談して、事件が表沙汰になって初めて、自分の言動が非難されたことに直面し、戸惑うことが多いと言われています。加害者のそのような特徴のため、被害者の被害感情を理解できずに、自己を正当化したり、責任を被害者や第三者に転嫁したりして、問題を紛糾させることがあります。被害者もそれによって二次的被害を受けやすい状況です。

     前回の報告で説明したとおり、セクハラに関しては、企業が対処すべき法的義務を負っています。
     裁判例では、「労働者が労務に服する過程で、生命及び健康を害しないように、職場環境等につき配慮すべき注意義務」があり、「(被害者)の譲歩・犠牲のもとに職場関係を調整しようとすること」は、この注意義務に違反するとした例があります。

     パワハラについては日本ではまだ規制法はありませんが(フランスにはパワハラ禁止条項を定めた法律があります)、裁判例は数多くあり、職場での暴言・暴行、過重・理不尽な業務命令、精神的苦痛を与える方法による退職勧奨など、いずれも、上記の職場環境等につき配慮すべき注意義務に会社が違反したとして、労務災害や損害賠償請求が認められています。平成24年1月には、厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」が示されています。

     セクハラ・パワハラを防止するには、いうまでもないことですが、風通しの良い社風が不可欠です。
     人事の責任者は、社内でセクハラ・パワハラが起こっていないかどうか、気を配る必要があるでしょう。
     セクハラ・パワハラに関するホットラインも、コンプライアンス体制の一環として、整備しておくべきと思われます。

  • 労働法 男・女 均等雇用

     雇用の機会や待遇の均等確保については、男女・高齢者・障害者の各分野でいろいろな法制度や財政支援の仕組が出来ています。

     今回は、男女の問題について触れます。
     対象法律は、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」という長い名前です。しかし、決められていることはシンプルです。

     ・募集や採用について、性別による区別をもうけることはできません。(性別を理由とする差別の禁止 5条)

     ・次のような事項についても、性別によって取扱いを変えてはいけません(6条)
       労働者の配置(業務の配分及び権限の付与を含む。)、昇進、降格及び教育訓練
       住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置等
       労働者の職種及び雇用形態の変更
       退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新

     ・性別以外の要件であっても、次のようなものは特別に必要である場合以外には募集・採用条件にしてはいけません(7条)
       労働者の身長、体重又は体力に関する事由
       労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じること

     ・女性労働者に対して次のようなことをしてはいけません(不利益取扱いの禁止等 9条)
       婚姻、妊娠、出産を退職理由として予定すること
       婚姻したことを理由として、解雇すること
       妊娠、出産、産前産後休業を理由として、解雇等の不利益取扱をすること
       (その他、軽易業務への配置転換、時間外・休日労働への不従事、育児時間、体調不良による能率低下
        などを理由とした不利益取扱も禁止されます。)
       妊娠中・出産後1年以内の女性労働者を解雇すること(原則禁止)
       (なお、労基法では産後休業後30日間は例外なく解雇できないとされています)

     ・いわゆるセクハラについてはきちんと管理体制をとらなければなりません。
     ちなみに、このセクハラ対応の体制は、会社の規模を問わず、労働者を雇用するすべての事業者の義務になっています。
     違反の場合の罰則は現在のところありませんが、管理担当者を決めておく必要があります。適切な担当者がいなければ、法律事務所等へ外部委託することも可能です。

  • 労働者の公民権保証

     労働基準法違反に対して刑罰が科される場合がいくつかありますが、労基法7条公民権保証規定違反は罰則のある一例です。
    例えば、選挙権の行使を妨げるような職務命令をしたり、裁判員に選ばれた職員に対して休業を認めなかったり、懲戒したりすることは、違法であり、刑事罰の対象(6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)になります。

     滅多にない事ではありますが、従業員が地方自治体の議員等の選挙に出て、当選した事例があります。この場合、会社はその従業員を解雇できるでしょうか。

     結論としては、選挙に出たことや議員になったことだけを理由に、解雇することは認められないと考えておくべきでしょう。ただし、議会や選挙活動のために欠勤が度重なるとか、会社内で業務時間中自分の政治活動をしているなどの事情が出てくれば、解雇可能となりうる場合もあるでしょう。

     逆に、社長が自分の支援する政党や政治団体の行事に、従業員を強制的に参加させたり、あるいは参加した従業員を優遇することは、直接には労基法7条が規制することではありませんが、従業員の思想信条の自由を侵害する危険性が高く、場合により労基法3条の差別処遇禁止に抵触する可能性があります(これも7条と同じ罰則あります)。

     従業員の政治的・宗教的な活動や、社会貢献的活動に対しては、思想信条の自由等の人権尊重及び企業の社会的責任(CSR)の見地に立ち、ある程度までは大目に見るべきでしょう。しかし、いかなる自由権であれ、その行使が他者の権利を侵害する程度に至れば(社会的な許容範囲を超えれば)、懲戒や解雇が正当化される場合もあり得ます。

     このあたりのさじ加減は、非常に微妙な問題なので、具体的な事例への対応は苦労するかもしれませんが、大きな方向性としては、「会社の業務にどの程度の実害が出ているか」を判断基準にして考えればよいでしょう。

     具体的な懲戒事例で迷われた場合は、あとになって不当解雇などと言われないように、あらかじめ弁護士へご相談いただければ有益かと思います。