カテゴリー: 債務問題

  • 破産債権・財団債権とはなにか

    破産手続開始が基準になる
    「破産手続」が開始(法30条1項)されると,破産会社に属するすべての財産は,「破産財団(法34条)」となり,裁判所が選任した「破産管財人(法31条)」によって管理され,管財人はこれを換価(法第7章)して配当(法第8章)の準備をします。
    債権者が,破産会社に対して有する債権には,大きく分けて「破産債権」,「財団債権」の別があります。破産手続開始の時点を基準として,その前の原因に基づいて生じた請求権はすべて「破産債権」となるのが原則です。
    破産債権は,「管財人報酬」,「財団債権(破産手続開始後の原因による債権等で,破産債権よりも優先して支払を受けることができる債権)を破産財団から控除し,なお残額があれば配当に与るという種類・順位の債権です。
    ちなみに,破産手続開始は正確に時刻で表現されます(例:平成18年1月27日午後5時決定)。従って,たとえば,破産会社に対して,破産手続開始1分前に販売した商品と,開始1分後に販売した商品とでは,破産前に販売した分の代金は破産債権となり,破産後に販売した分の代金は財団債権になるという違いがあります(ただし,後述するとおり,継続的給付契約の場合の例外があります)。
    (2012/11/30追記:最近閲覧数が増えてきていて、この部分の不正確さが気になっているので、補足しておきます。官公庁の方もご覧になっているようなので・・・)
    *租税等債権については、単純に「前・後」だけでは区別できませんので注意してください。まとまって書かれているサイトを見つけましたので、こちらをご参照ください。>http://www.yokotax.com/wp1/sozei.html 他人様のサイトなので、別窓表示されます。

    (2013/8/29追記:なぜかわからないが、依然として閲覧数が多いので、ますます不正確さが気になっています。大きな間違いは書いてないつもりですが、かなり要約しているので、やはり不正確なところはたくさんあります。より詳しい情報を知りたい方は、破産法学習ノート2 財団債権 関西大学法学部教授 栗田 隆先生のサイトがお勧めです。)

    債権回収の方法

    商品の売主として,「破産債権」である代金債権を回収するには,動産売買先取特権(民法311条5号)に基づいて「別除権(破産財団に属する特定の財産<この場合は販売した商品>から,他の債権者に優先して弁済を受けることができる権利 破産法65条1項)を行使することができます。具体的には,当該商品を破産管財人の同意を得て引き上げるか,動産競売(民事執行法190条)により売却換価するなどの方法をとります。また,別除権を行使しないで,当該別除権を放棄するなどにより,一般破産債権者として配当に参加することもできます。「財団債権」にあたる代金債権は,そのまま破産管財人に請求すれば足ります。
    なお,破産財団の実態は,破産した会社の資産ですから,破産者に対するすべての債権(管財人報酬,財団債権,破産債権)の財源は破産財団しかありません。また,財団債権のための財源だけを破産財団と称しているのではありません。 破産会社は大幅な債務超過に陥っているので,「破産債権」に対する配当は,ほとんどないのが通例です。場合によっては,「財団債権」すら払うことができず,按分弁済をすることもありますし,もっとひどくなると,管財人報酬だけで破産財団が消えてしまうという例すらあります。

    継続的供給に関する債権の例外

    基本契約に基づいて一定の期間ごとに料金が算定される継続的な供給(電気、ガス等)は,破産法55条2項により,申立の日が含まれている料金算定期間(例:申立が平成18年1月25日の場合,その日を含んでいる1月20日~1月27日まで)の供給分は,破産手続開始前の分であっても例外的に財団債権になります。また,破産手続開始後の債権は法148条1項2号により当然に財団債権です。

    延滞金等の扱い

    財団債権の遅延利息延滞金は財団債権ですが,減免をお願いしているのが通例です。破産債権の破産手続開始後の遅延利息延滞金は劣後破産債権となり,一般破産債権(元金・破産手続開始前の利息など)の次の順位で配当されます(破産法97条)。

    破産法の実務文献リスト

  • 債務問題に対する法的手段選択についての当職の考え方

     法的手段選択の順序を考えるにあたっては,
    1 債務者の経済的な再生を第一とする
    2 費用負担がもっとも少なくなるようにする
    3 無理な計画案を立てない
      (債権者の同意が得られない,また,いずれ破綻するので,弁護士としての信用を落とし,ひいては次の債務整理を困難にする)
    4 債務者にもっとも有利な手段を選択すべきだが,それにとらわれて債権者の利益を不当に損なってはならない
     手段選択
    放置
     放置というと無責任なようだが,そうではない。時期的に法的手続に乗せるのが早すぎる場合や,手続前にさまざまな条件整備が必要な事案がある。ときとして,債権者からの執拗な計画案提示要求や差押の警告にさらされるが,実情を説明し,誠実に対応することによって,多くの場合は乗り切れる。放置の場合には,そのつど相談料(1時間1万円)を受領するか,ある程度見通しをたててそのための費用をあらかじめ請求するか,事案に応じて最初に決めておく必要がある。
     また,時効の援用ができる事案(最終弁済から5年間以上請求がなく,債務名義も取得されていないなど)には,相談料のみで本人名義による時効援用通知の内容証明を作成するサービス(通常,作成のみで別途2万1000円のところを無料)をしている。この場合には,万一時効要件を満たしていない場合は,引き続き債務整理に移行する必要がある場合もあるが,その際には別途料金となる。
    債務整理
     民事再生をとるまでもない圧縮後の債務額150万円未満の簡易な事案や,逆に再生・破産ができない特殊な事案等が債務整理の対象となる。簡易な交渉のみでカタがつかない場合は弁護士側のコスト倒れになるので,最近では債務額が150万円を超える場合には,原則として民事再生で対応することにしている。債権者によっては,10年分割にまで応じる例はあるが,一般には3~5年以内で分割返済が可能であることが債務整理の目安となる。ただし,一部の債権者は3年以内の返済案しか受け付けないという硬直的な対応をするので,その場合には,個別の事情に応じて別の手続を検討しなければならない場合もある。
     当職基準によると,着手金は債権者1社あたり2万円(ただし,最低5万円から,上限74万円),報酬金は減額された額に対する10%または分割対象総額の5%のいずれか高い方の額である。
     なお,近時の最高裁判例の効果により,過払金請求に対する各社の対応が非常に早くなっている。当職は訴訟手続のコストとリスクを勘案し,過払金請求額の9割で示談する方針をとっており,迅速な回収を優先している。
    特定調停
     調停は,3年以内の弁済を原則としており,原則として元本のカットまでは調整しないので,よほど返済余裕のある場合でないと成立は難しい。150万円を超えれば民事再生のほうが有利だし,150万円以内でも債務整理のほうが自由な交渉がしやすい。また,調停体によっては,質が悪く,債務者に無理を押し付ける例もあるし,調停を経ると債権者に債務名義を取得されてしまい,時効も10年にのびるというデメリットがある。そのため,当職としては,特定調停のメリットを感じていないので,選択肢には入れていない。本人に弁護士費用を支払う資力がない場合や,自力で債務整理をしたいという場合には,手続の方法程度の指導にとどめて,あとは本人にまかせる。着手金は任意整理に準じて扱うが,報酬は請求しない(後の手続に関与しないため)。
    個人再生
     最近では,圧縮後の債務額が150万円を超える場合の第一次選択としている。これは,債権者・債務者双方にとって,もっともバランスのよい弁済案を効率的に作成できるという利点からである。また,手続きに約10ヶ月を要するので,その間に弁護士費用を積み立てたり,経済的基盤を立て直す貯金をするなどの余裕が生まれるメリットは大きい。
     ただし,裁判所提出書類の手間を考慮すると,圧縮後の債務額が150万円を下回る事案では,手続きがやや重く,弁護士費用を考えると債務者のメリットも少ない。また,住宅ローン関係の規定が難解で,建物を共有したり,親子ローンを組んでいる事案の場合には,金融機関の理解も不十分なため,準備が難航し,手続が使いにくいという問題がある。また,連帯保証の場合の債権評価についても理論的には問題が多いが,対応としてはゼロ届けとして,異議を待つことを常套手段としている。
     弁護士費用は31万5000円(ただし,住宅ローン特例を使うときは42万円)である。裁判所の費用・実費は計2万円程度である。
     立法・施行当初は,弁護士が履行確保をすることが推奨されていたが,現実問題として,入金遅れが生じると,債権者からの督促への対応に追われ,弁護士が取り立て機関化して,債権者代理人の立場に陥ってしまう問題がある。また,仮に債務者から一定の管理費用を取るにしても,小規模法律事務所では事務負担が大きすぎて割に合わない。債務者自身が振込支払いするよりも余計な費用負担を債務者に負わせることになるので,当職としては,再生案が確定するまでが代理の範囲とし,履行は債務者自身の責任としている。従って,債権者からの問い合わせは初回から債務者自身に対応してもらうことをあらかじめ説明している。
     返済期間は3年が原則で,5年まで伸張できるが,大阪地裁の実務上では,実情の報告をすれば,ほぼ5年までの伸長を認める運用をしているようである。5000万円が適用債務額の上限である(弁済額は500万円が上限)。給与所得者の場合には,計算上の可処分所得が実態以上に大きくなる例が多いので,最近では個人民事再生の申立はすべて小規模で行っている。債権者が異議を述べる例は極めて少ないので,これまでに不認可となった例は経験していない。
    一般再生
     法人事業者の場合には一般の再生事件となるが,10年以内で債務額の10%を弁済できることと,事業安定までの1年間程度の小口債務を現金決済できる資金力があること,というのがもっとも債権者に厳しいぎりぎりの適用ラインであると考えている。債権者との交渉をすすめやすくする観点からは,5年以内で債務額の30%以上を弁済する再生案を立てられることが望ましい。つまり,反面でいうと,その程度の余力もないのであれば,企業単体としての再生よりも,M&Aや廃業を考えた方が現実的である。
    破産申立
     法人・個人を問わず,自己破産は最後のやむをえない手段と考えている。
     かつて事務所に相談に来た顧客のなかで,申立書類まで完備し,提出直前のところで,親類縁者からの援助申し出があり,事業を整理してかろうじて本業で生き延び,現在は再び収益を上げるようになった事業者や,破産を決意して準備に着手してまもなく,大口の継続取引が成立したため,民事再生の方法で準備をやり直して,その後認可成立した事業者の例がある。このような例からも,まずは自助努力,それでもだめなら親類縁者・取引先など,ありとあらゆるチャンネルを使って,簡単には諦めないというファイトが必要である。
     ただし,それが成功するためには,確かな状況分析と資金の裏付け,取引先の協力,経営者の改革意識などが必要であり,弁護士に相談にくる時点では,残念ながら,それらの要素がことごとく摩耗しきっており,経営者の意欲が失われている事例がほとんどである。
     給与所得者の自己破産は収入の範囲内で生活する感覚や技術が身に付いていないこと,さらにそのような感覚や技術を鈍磨させる簡易審査の消費者金融が多数存在して,幻惑的ともいえる営業活動を行っていることが主な原因であり,すこしでも早く借金のできない状態を作る必要がある。
     しかし,最近では,「ブラックOK」と称して,破産経験者にまで高利融資する業者があり,これに手を出してしまう債務者も少なくない。このような債務者の取り扱いには弁護士の間でも様々な意見がある。当職としては,よほど悲惨な状況がなければ,あまり同情する気になれず,過去の経験からも,弁護士が介入しても,おそらくそのまま連絡を絶って逃げてしまうか,返済案を履行できなくなってしまう可能性が非常に高いので,最近では依頼を受けても破産経験者からの受任は断っている。
     基本的には年収を超える債務(住宅ローン含む)があるサラリーマンは,非常に重い返済リスクをかかえており,家族や自分自身,勤務先にひとたび不幸が生じたら,あっという間に経済的に破綻してしまう危険があることを十分に認識して,できるだけ早く無借金(住宅ローンは除く)の家計運営に切り替えるべきである。
     破産事件には,申立段階で,さらにどのような申立内容とするかを検討しなければならないが,この点については,項を改めて説明する。