カテゴリー: 債務問題

  • 売掛金回収(法的回収の基本編)

     前回に引き続き,売掛金の法的手続きによる回収について,一般論をレポートします。

    債権の発生
     企業会計原則では,発生主義(例えば,物やサービスを提供したら,その時点で「売掛金(資産)」を「未収金(収入)」として計上し,後に現金が入金された時点で,「未収金(収入)」を「現預金(資産)」で消す)の原則が要求されています。法的にも,一般的な売買契約では、支払期日が先であっても,売掛を建てた時点で,相手方に対する請求権が発生する(ただし、相手方には「引き換え給付」「同時履行」とか、「期限の利益」とかの抗弁があるのがふつう。)と考えてよいでしょう。

    履行期の到来
     請求権があるだけでは,直ちに相手に請求できることになりません。一般には,履行の期限があり,相手は履行をその期限まで猶与してもらえる立場にあります。従って,相手への請求をするには履行期になっていることが必要です。

    履行の催告
     履行期が来ても,支払われないときには,催促をします。この催促に法的な意味があるかどうかはケースに応じた判断になります。一般には,その履行準備等に必要な相当期間を定めた催告が法的意味をもつことになります。ただし,履行の催告だけでは消滅時効が中断しませんので,注意が必要です。

    法的な回収手段の実行
     担保(抵当権などの物的担保、保証契約書面による人的担保)を取っていれば,債務者本人から任意回収しなくても、競売等を申し立てたり、保証人に請求したりする方法で回収できる可能性があります。
     担保を取っていなくても,取引内容等によっては,先取特権という執行力を伴う債権になっている可能性もあるので,その活用も考慮します。
     反対債権(相手側から請求されている債務)がある場合には,それが不法行為債務(詐欺や暴行等による損害賠償の債務のことです)でないかぎり,相殺ができます。
     以上の,「担保権実行,先取特権等の優先権実行,相殺」が,ひとまず優先的に考慮すべき債権回収手段です。
     それらの手段が執れないときには,いよいよ提訴する必要が出てきます。

    提訴
     売掛金回収請求の民事裁判を起こします。ちなみに、詐欺でもない限りは、単なる代金の支払い遅延が刑事裁判になることはありません。
     一般論として,自力救済(いやがる相手から無理矢理に金品を奪って「債権回収」すること)は違法です(たとえ,債権回収として相当範囲であっても,手段方法の違法として場合によっては恐喝や強要などに問われる)ので,任意に払わない相手から強制的に金品を取るためにはどうしても裁判によって「債務名義」を取得する必要があります(まえもって執行力ある公正証書を作っておくという手もありますが、ここでの説明は割愛します)。
     このことは見方を変えて言うと,支払いを渋る相手から,交渉で金品を受領するときには,それがその債務者の「任意(自由な意思)」で支払われたという状況を,記録保存しておくべきということになります。後になって,無理矢理持って行かれたとクレームを付けられると,損害賠償をしなければならなくなる場合もあるからです。

    提訴の手続詳細
     提訴は,請求権を主張する側が原告として裁判所へ訴状を出してスタートします。一定の手数料が必要です。
     裁判所は訴状を審査し,請求内容が法律に沿って正しく構成されており、その主張が仮に全部立証されれば原告側勝訴判決になると判断したらこれを受理し,被告を呼び出す第1回期日を決めて、被告へ送達します。そのような事前審査をするのは、被告が訴状を受け取ったのに答弁書も出さず、第一回期日に欠席をした場合に、無審理で原告勝訴の判決を出す「欠席判決」という仕組みがあるためです。
     なお、民事訴訟では原告の反対側を「被告」といい、刑事訴訟の「被告人」に呼び名が似ていますが、民事の「被告」は単に「原告の反対」というだけの意味ですので、「被告」と呼ばれても刑罰を要求されているわけではなく、倫理的な非難の意味もありませんので、落ち着いて対応して下さい)。
     ちなみに,裁判所が訴状を受理するだけでは,原告の主張を認めたということにはなりません。主張の当否はその後の審理で決められます。
     審理には大きく3つの段階があります。
     第一段階は双方の主張を整理することです。これによって,お互いの言い分の内容を裁判所が理解します。
     第二段階は主張された事実について証拠を調べることです。これによって,どちらの言い分が真実であるのかを裁判所が判断します。
     第三段階は和解・判決等の最終決定へ向けた動きです。
     和解とは,判決によらないで,当事者が譲り合うことで事件を納めることです。和解のタイミングとしては,第一段階の主張整理後に切り出されるケースもありますし、第二段階の証拠調(証人尋問等)が終わった段階で切り出されるケースもあります。最終的に和解ができなければ,裁判所が第二段階までの審理をもとに,判決を書きます。場合により判決期日だけ指定され、判決までの間に和解期日を入れることもあります。
     一審の審理期間は,事案にもよりますが,短くて3ヶ月くらい,長ければ1年~2年かかることもあります。

    一審判決後の動き
     一審判決がでて,勝訴判決であれば,まず相手に任意の支払いを求めます。しかし,この判決は相手方が受領してから2週間以内であれば控訴できますので,まだ確定的なものではありません。任意に払ってくれればいいですが,だめな場合は強制執行をすることになります。
     ここで注意すべきは,その判決に「仮執行宣言」がついているかどうかです。これがついていれば,判決が確定しなくても(相手が控訴しようがしまいが),相手が判決を受領すれば強制執行ができます。しかし,仮執行宣言がついていなければ,相手が控訴すると判決が確定しないので,第二審で勝ち判決をもらうか,和解をして確定させた後でなければ強制執行できません。第二審後に上訴されたら、さらに確定が先延ばしになってしまいます。
     このようなタイムラグは,相手の経営状態が悪化しつつある状況では,非常に原告側に不利に働きます。この不利益を回避するために必要なのが,民事保全仮差押仮処分)という制度です。これについては次回の説明と致します。

  • 公正証書とは

    1 公正証書とは
     「公正証書」という言葉をご存じでしょうか。
     これは,公証役場というところで,公証人が作成する文書です。「公証人」は法務局に所属する特殊な公務員です。公正証書を作ったりする手数料だけが収入であり,国からの給与は出ていません。これに似たような立場としては,裁判所に所属する「執行官(=不動産や動産の強制執行を実施する人)」があります。退官した裁判官や検察官などが公証人になっているケースが大半です。

     公正証書には,一般市民が作成する文書(「私証書」といいます)と違う特別の法的効力が認められる場合があります。その効力のうちもっとも強力なのは,「執行力」です。

    2 執行力とは
     「執行力」とは,強制執行ができる効力のことです。
     原則として,裁判所の判決があって初めて,不動産や預金,売掛金などの債務者の財産を差し押さえることができます。
     しかし,「公正証書」のなかに,「執行認諾文言(強制執行をされても差し支えない旨の文章」が入っていれば,裁判所に訴えを起こさなくてもすぐに強制執行が出来ます。一般に裁判手続は半年から1年くらいかかりますので,その時間を短縮できるのは大きなメリットです。
     ただ,公正証書をつくるためには,原則として当事者の両方が,公証役場に出頭しなければなりません。代理人を立てることもできますが,その場合には,公正証書にしようとする文書と割り印をした委任状に本人の実印を押捺し,印鑑証明を添付する必要があります。
     このようなことから,少なくとも相手方の協力が必要になるので,ある程度の信頼関係があるうちに作成しておくのがよいでしょう。相手の協力が得られない紛争継続局面では,公正証書を作ることが困難です。

    3 公正証書の実例
     よくあるケースは,「債務弁済公正証書」です。これは,一定の債務(貸金だったり,売掛金だったりします)がある場合に,その内容や返済方法,違約条件などを文書化するものです。執行認諾文言を付けて,いつでも強制執行できるようにします。
     他には,「協議離婚の公正証書」もあります。これは協議離婚に当たって,子どもの養育費や財産分与,慰謝料などの取り決めをした場合に,その内容でいつでも強制執行できるように作成します。
     ただし,注意しなければならないのは,強制執行できるのは「金銭の取り立て」だけなので,例えば「子どもの引き渡し」とか「分与財産(例えば自動車,不動産など)の引き渡し」とか「賃貸借解除後の建物明渡」などは,別途裁判を起こさなければ,公正証書だけでの執行はできません。
     賃貸借契約なども公正証書にすることがありますが,解約したのに退去しない場合でも,明渡の執行はできないことに注意する必要があります(金銭の取り立てしかできません)。賃貸借契約のトラブルに関して合意をする場合には、簡易裁判所の「訴え提起前の和解」を利用することが便利です。これなら当事者合意だけで、債務名義が作れますので、建物明渡の強制執行も可能です。

     ちなみに,公正証書を作成するためには,公証人に一定の手数料を支払う必要があります。さほど高額ではありません。やりたいことが決まっていれば、書き方の相談は無料でやってもらえるので、気軽に相談できます。

     しかし、もめ事の内容が複雑だったり、まだどうするか細部が決まっていないようなときには、公証役場では十分な対応は期待できませんので、先に弁護士へ相談してから内容を決めておいたほうが、公正証書作成までスムーズに進めます。

  • 企業取引契約への法律適用

    1 外国との取引で最低限決めるべきこと
     商売上の取引はすべて契約法が支配します。そして,契約は,最終的には法律の強制力によって守らせることができるからこそ,意味があるものです。
     日本国内の契約では、ほぼ例外なく日本法を適用し、日本の裁判所で審理されることを前提に考えておけば足ります。
     国際間契約書では,戦争や国交断絶に至るまで,様々な突発事故を考慮した細かい規定が定められることがありますが,日本国内の契約実務では,大きな柱は立てるものの,細部は「信義誠実に基づいて協議する」条項で広くカバーし,問題が起こったときに話し合って決めればよいという発想が、いまだに主流です(本来これでは契約書の意味を成さないのですけど、慣用的にまあよしとしてしまっています)。

     外国との取引では,国内企業同士の取引の場合と違って,決めておくことが望ましい大切な二つの事があります。それは,「準拠法」と「管轄」です。管轄は国内企業同士の場合にも重要です。
     準拠法とは,その契約にどこの国の法律を適用するかという問題です。準拠法は第三国法でもよいのですが,双方が他国の法律に準拠すると,法令調査がたいへんだという問題もあります。法律の内容によっては,日本の裁判所で適用されない条項もあり得ますので,出来れば,日本法を選択したいところです。
     次に管轄とは,その契約に基づく紛争が生じたときにどこの裁判所で解決をするかという問題です。これも準拠法とは別に,当事者が合意により決めることができます。国際取引の場合には,裁判管轄のほかに,商事仲裁機関を紛争処理における第一次専属管轄とする例も多くあります。例えば,中国には,中国国際経済貿易仲裁委員会(CIETAC)があり,日本では一般社団法人日本商事仲裁協会があります。

    2 特に国際売買取引について
     国際物品売買契約に関する国連条約(CISG 通称ウイーン売買条約)を日本が批准したことにより,2009年8月1日以降の国際売買取引に適用されることになりました。これ以前は,準拠法を定めない場合には,それぞれの当事国の法解釈により,どの法律を適用するかを決めていましたが,この条約適用後は,当事者間で別の合意をしていない限り,この条約が適用されることになります。なお,これはあくまでも売買契約が対象であり,運送契約や請負契約等には適用されません。

    3 準拠法を決めなかった場合
     準拠法や管轄裁判所を全く決めていなかった場合にどうなるかについて説明します。
     準拠法を決めていなかった場合には,まず自国の法律が適用されるかどうかを検討します。その場合の基準になるのは,平成18年までの契約であれば「法例」,平成19年以降であれば「法の適用に関する通則法」です。その内容には微妙な違いがあるので,いつの時期の契約なのかによっては解釈が違ってくる可能性があります。
     準拠法が決まれば,裁判管轄についてもその準拠法の定めにより決まります。
     裁判管轄はあるが,相手が外国会社であるという場合には,日本の裁判所へ提訴できますが,その際には,相手国の言語による訳文を添付して提訴し,相手国政府を通じたルートで相手に届けることになります。これにはかなり時間が掛かることもあると言われております。たいていの場合には日本に支店があることが多いでしょうから、あまりこのようなケースはないかもしれません(私は未だやったことがありません)。
     日本に管轄がない場合には,相手国の裁判所への直接提訴ということになります。その場合,相手国裁判所では,自国法に基づいて管轄権の有無を判断し,管轄がないと判断して却下することもあり得ます。また,準拠法に関する相手方からの異議により,改めて準拠法と管轄が問題となる可能性もあります。
     このように,準拠法や管轄を決めておかないと,内容の判断に入るまでに,門前で無益なやりとりを延々と続けなければならない羽目になりますので,注意が必要です。