カテゴリー: 債務問題

  • 生活保護引き下げは生活保護受給世帯だけに影響するわけではない

    詳しくは日弁連作成のパンフレット集をご覧ください。

    それがよいことか悪いことかは国民自身が決めることですが、今の政権は、間違いなく、貧富の格差を広げる方向性にあると思います。

    生活保護は働かない人の最低基準だから、真面目に働く勤労者には関係ないと思っていませんか。

    実は決してそうでないということが、いろいろ説明されていますので、やや割引ながらでも一読してみてください。

    日弁連パンフで論点はほぼ網羅されていると思いますが、あえて付け加えるとしたら、最近実感したことでいうと、

    例えば、債権差し押さえにおいて、「差し押さえ範囲変更」の申し立てというものがあり、裁判所の裁量によって、法定の割合での差し押さえ範囲を特別に増減できる仕組みがあります。

    これは、減額変更の場合、基本的に「生活保護水準を満たすかどうか」という発想から斟酌されていて、法定の差し押さえ割合を適用した場合、「生活保護水準+勤労経費」に満たなければ、ある程度の減額変更を認めてくれます。

    生活保護水準が引き下げられれば、勤労者である債務者は、債務名義に基づく差し押さえがされた場合、これまでは認められていた差し押さえ範囲の変更が、却下されたり、減額変更幅が少なくなったりします。

    過払い請求が落ち着いて、今後は有名義債務を背負った方々に対する差し押さえ案件が増えてくるかもしれません。そうなると、この生活保護水準引き下げは、確実に債務者世帯の生計を圧迫するでしょう。

    経済全体で考えると非常に難しい問題ではありますが、税制や予算などでもうちょっと別のやりようがあるのではないだろうかと、個人的には思います。

    みなさまはいかがでしょうか。

  • 仮差押・仮処分(民事保全)とは

     前回に引き続き,法的手続きによる回収に関連して,民事保全の手続についてレポートします。

     裁判所の判決は,確定して初めて,その効力が発生するのが原則です。判決に「仮執行宣言」が付されていれば,確定しなくても預金や不動産の差し押さえの手続(強制執行)に進むことができますが,そうでないときは確定を待たなければ、そのようなことができません。
     裁判を起こしてから判決を確定させるまで、争いがない事件ですら3か月程度はかかりますし,相手方が徹底して争えば,最高裁まで上がって2~3年がかりになってしまうこともあります。そうなると,その裁判をやっている間に,相手方の経営状態が悪くなったり,返還や引き渡しを求めていた物品が処分されてしまったりすることがあり,せっかく判決をとっても意味がなくなってしまう危険性があります。

     そこで,「仮差押」「仮処分」という「民事保全手続」が用意されています。
     どちらも「仮」とあることからもわかるとおり,本裁判での判決が出る前に,あくまでも,「仮に」権利の実現を認めるという制度です。

     「仮差押」とは,判決が出る前に,相手が持っている預金や不動産等の「資産」を押さえておくことです。
     仮に押さえておくだけなので,差押(本差押といいます)と違って,仮差押の時点で現実に金銭を受け取れるわけではありません。処分されてしまわないように,原状維持を図るという制度です。もし仮差押中の預金や不動産が,他の債権者によって本差押された場合には,債権額に応じた按分額が供託される仕組になっていますので,一定範囲で債権回収が確保できます。

     「仮処分」とは,判決が出る前に,相手方が勝手に紛争の目的物を処分したり,価値を減らしたりしないように,処分を禁止するなどの命令をすることです。
     仮処分命令が出されると,権利関係は現状で固定され,相手方は自分の所有物であっても処分できなくなりますし,仮処分後の譲受人は権利主張できません。
     この仕組が使われるのは,物品の引き渡し(典型的には,賃貸不動産の解除明渡請求など)の場合です。
     たとえば,賃貸していた不動産の賃借人が賃料を払わないので,解除をして明渡を求めたとします。この明渡の裁判では,現にその建物を占有している相手方を特定しなければなりませんので,もし,最初の賃借人が,裁判の途中で勝手に第三者に又貸しをしてしまうと,その第三者を裁判の相手に追加しなければならなくなります。素性の分からない人が占有者として入ってきてしまうと,誰を相手に裁判すべきかわからなくなってしまい,判決をとっても,実際に明渡請求できなくなってしまう危険があります。
     そこで,「仮処分」の仕組を使って,賃借人が他の人に又貸ししたり,第三者を勝手に住まわせたりすることを,裁判所の命令によって禁止しておきます。そうすれば,裁判の相手方は仮処分時点での占有者に特定され,以後の占有者は当然に排除できるので,安心して最初の賃借人だけを相手に裁判をすることができます。

     上記のような「処分禁止の仮処分」のほか,「地位保全の仮処分」もよくあるパターンです。
     例えば,勤務先を解雇された従業員が,解雇は無効だとして会社を相手に裁判をする場合に,「労働者の地位」を失っていないことを「仮」の状態として裁判所に認めてもらいます。そして,それに基づいて,給料の仮払いを求めるというような使い方をします。
     また,会社等の団体の役員が不当に解任された場合に,役員の地位にあることを仮の状態として裁判所に認めてもらうというような使い方もあります。
     さらに,たとえば,右翼の街宣車が自宅や会社へ押し寄せてきて誹謗中傷を繰り返すようなケースや,暴力団がらみの恐喝事件などの場合には,「接近禁止,面談強要禁止の仮処分」といって,一定の禁止事項を裁判所から命令してもらい,違反した場合には一定の制裁金(間接強制)の支払いを命じるなどの手段によって,それらをやめさせるという使い方もできます。

     日本の法律では,裁判所を通さないで,相手の意思に反する行為をさせたり,自由や財産を奪ったりすることは「自力救済」と呼ばれ,正当防衛など限られた場面を除き,原則として違法行為になります。たとえば、家賃を滞納した賃借人を追い出すために、賃借人に無断でカギを交換して入れなくしたり、家財道具を放り出したりすることは、違法な行為です。

     そのため,仮処分の制度は,法律実務上,たいへん重要な権利実現の補助手段になっています。

  • 売掛金回収(法的回収の基本編)

     前回に引き続き,売掛金の法的手続きによる回収について,一般論をレポートします。

    債権の発生
     企業会計原則では,発生主義(例えば,物やサービスを提供したら,その時点で「売掛金(資産)」を「未収金(収入)」として計上し,後に現金が入金された時点で,「未収金(収入)」を「現預金(資産)」で消す)の原則が要求されています。法的にも,一般的な売買契約では、支払期日が先であっても,売掛を建てた時点で,相手方に対する請求権が発生する(ただし、相手方には「引き換え給付」「同時履行」とか、「期限の利益」とかの抗弁があるのがふつう。)と考えてよいでしょう。

    履行期の到来
     請求権があるだけでは,直ちに相手に請求できることになりません。一般には,履行の期限があり,相手は履行をその期限まで猶与してもらえる立場にあります。従って,相手への請求をするには履行期になっていることが必要です。

    履行の催告
     履行期が来ても,支払われないときには,催促をします。この催促に法的な意味があるかどうかはケースに応じた判断になります。一般には,その履行準備等に必要な相当期間を定めた催告が法的意味をもつことになります。ただし,履行の催告だけでは消滅時効が中断しませんので,注意が必要です。

    法的な回収手段の実行
     担保(抵当権などの物的担保、保証契約書面による人的担保)を取っていれば,債務者本人から任意回収しなくても、競売等を申し立てたり、保証人に請求したりする方法で回収できる可能性があります。
     担保を取っていなくても,取引内容等によっては,先取特権という執行力を伴う債権になっている可能性もあるので,その活用も考慮します。
     反対債権(相手側から請求されている債務)がある場合には,それが不法行為債務(詐欺や暴行等による損害賠償の債務のことです)でないかぎり,相殺ができます。
     以上の,「担保権実行,先取特権等の優先権実行,相殺」が,ひとまず優先的に考慮すべき債権回収手段です。
     それらの手段が執れないときには,いよいよ提訴する必要が出てきます。

    提訴
     売掛金回収請求の民事裁判を起こします。ちなみに、詐欺でもない限りは、単なる代金の支払い遅延が刑事裁判になることはありません。
     一般論として,自力救済(いやがる相手から無理矢理に金品を奪って「債権回収」すること)は違法です(たとえ,債権回収として相当範囲であっても,手段方法の違法として場合によっては恐喝や強要などに問われる)ので,任意に払わない相手から強制的に金品を取るためにはどうしても裁判によって「債務名義」を取得する必要があります(まえもって執行力ある公正証書を作っておくという手もありますが、ここでの説明は割愛します)。
     このことは見方を変えて言うと,支払いを渋る相手から,交渉で金品を受領するときには,それがその債務者の「任意(自由な意思)」で支払われたという状況を,記録保存しておくべきということになります。後になって,無理矢理持って行かれたとクレームを付けられると,損害賠償をしなければならなくなる場合もあるからです。

    提訴の手続詳細
     提訴は,請求権を主張する側が原告として裁判所へ訴状を出してスタートします。一定の手数料が必要です。
     裁判所は訴状を審査し,請求内容が法律に沿って正しく構成されており、その主張が仮に全部立証されれば原告側勝訴判決になると判断したらこれを受理し,被告を呼び出す第1回期日を決めて、被告へ送達します。そのような事前審査をするのは、被告が訴状を受け取ったのに答弁書も出さず、第一回期日に欠席をした場合に、無審理で原告勝訴の判決を出す「欠席判決」という仕組みがあるためです。
     なお、民事訴訟では原告の反対側を「被告」といい、刑事訴訟の「被告人」に呼び名が似ていますが、民事の「被告」は単に「原告の反対」というだけの意味ですので、「被告」と呼ばれても刑罰を要求されているわけではなく、倫理的な非難の意味もありませんので、落ち着いて対応して下さい)。
     ちなみに,裁判所が訴状を受理するだけでは,原告の主張を認めたということにはなりません。主張の当否はその後の審理で決められます。
     審理には大きく3つの段階があります。
     第一段階は双方の主張を整理することです。これによって,お互いの言い分の内容を裁判所が理解します。
     第二段階は主張された事実について証拠を調べることです。これによって,どちらの言い分が真実であるのかを裁判所が判断します。
     第三段階は和解・判決等の最終決定へ向けた動きです。
     和解とは,判決によらないで,当事者が譲り合うことで事件を納めることです。和解のタイミングとしては,第一段階の主張整理後に切り出されるケースもありますし、第二段階の証拠調(証人尋問等)が終わった段階で切り出されるケースもあります。最終的に和解ができなければ,裁判所が第二段階までの審理をもとに,判決を書きます。場合により判決期日だけ指定され、判決までの間に和解期日を入れることもあります。
     一審の審理期間は,事案にもよりますが,短くて3ヶ月くらい,長ければ1年~2年かかることもあります。

    一審判決後の動き
     一審判決がでて,勝訴判決であれば,まず相手に任意の支払いを求めます。しかし,この判決は相手方が受領してから2週間以内であれば控訴できますので,まだ確定的なものではありません。任意に払ってくれればいいですが,だめな場合は強制執行をすることになります。
     ここで注意すべきは,その判決に「仮執行宣言」がついているかどうかです。これがついていれば,判決が確定しなくても(相手が控訴しようがしまいが),相手が判決を受領すれば強制執行ができます。しかし,仮執行宣言がついていなければ,相手が控訴すると判決が確定しないので,第二審で勝ち判決をもらうか,和解をして確定させた後でなければ強制執行できません。第二審後に上訴されたら、さらに確定が先延ばしになってしまいます。
     このようなタイムラグは,相手の経営状態が悪化しつつある状況では,非常に原告側に不利に働きます。この不利益を回避するために必要なのが,民事保全仮差押仮処分)という制度です。これについては次回の説明と致します。