カテゴリー: 企業法務

  • 意匠の保護範囲

     意匠とは、一般用語では、製品のデザインのことですが、形状や色彩の組み合わせが他のものと違う特徴的な独創性とそれまでにない新規性をもつときに限り、意匠権として意匠法上保護されます。

     工業製品を作っている会社には必須の知的財産ですが、流通においてもパッケージデザインなどで利用価値があります。
     商標権と違って、ブランド維持とは関係がなく、あくまでも新規の創作物を保護する制度なので、登録から20年に限るものとされ、更新はありません。

     この性質から、意匠を巡る紛争は、どちらかと言えば特許紛争に似ています。
     意匠は、特許庁で登録され、その登録に異議があれば、特許庁での審決を経て、最終的には裁判所で争われることになります。

     多くの場合、審決と併せて、不正競争行為の訴えもされ、その場合の損害額はその製品の売上利益となってしまいますので、製造会社においては、まさに死活問題になる重要紛争です。
     商標・意匠・特許については、国家資格者「弁理士」の仕事として「特許事務所」で取り扱われており、弁護士が訴訟をするケースでも、特許事務所の協力が欠かせません。日ごろから膨大な知的財産権にかかわっている弁理士のセンスは訴訟を進める上でも非常に参考になります。
     意匠権の保護は、その意匠がいかに独創的で創作性があってこれまでに存在していなかったものであるかを、文章表現で説明できるかどうかが勝負です。一例として、日清食品の「カップヌードル」事件を紹介します。
     特許庁の審判では、このカップヌードルの容器は「全体形状を略逆円錐台形とした容器において、全体の地色が明調子、周側部に中間調子と暗調子で模様を表したもの」だと表現されています。カップ麺容器を意匠登録するにあたり、弁理士がいかに描写するかという苦労が現れています。そして、カップヌードルの文字部分について特許庁では「CUP及びNOODLEのローマ字を中間調子の線条で囲むかなり図案化した字体で左右に重ねあわさるように構成して2段に表し」と表現して、そのカップ容器がそれまでにありふれていたものとは違うのだと言いました。
     ところが、裁判所は、言語の伝達手段としての文字本来の機能を失っているものに模様としての創作性を認める余地があることを述べつつ、本件の「CUP NOODLE」の文字部分は、まだ文字伝達機能を失っていない(カップ入りの麺という意味が読み取れる)から、模様ではなく、カップ容器自体にも創作性はないと判断しました。

     ちなみに、文字のデザイン(フォントあるいはタイプフェイス)は意匠法では保護されません。
     現行の意匠審査基準では、意匠対象物に文字が表現してあってもそのまま審査登録するという扱いになってはいますが、それはその文字を意匠として保護することまで意味しないので注意が必要です。

     外国でのフォント・タイプフェイスの保護状況にも国ごとに非常に大きな違いがあって、現状では、文字のデザインそのものが知的財産として保護されるためのハードルはまだ高いと言えます。
     意匠権ではなく、著作権での保護を模索したモリサワ事件では、最高裁判決は文字のフォントが著作権として保護される要件を述べて、結論としてモリサワフォントの著作物性を否定しています。

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    参考リンク 特許庁サイト

  • 9月24日 全国一斉公益通報110番

     来る9月24日、弁護士会では、公益通報・内部告発等に関する全国一斉電話相談を実施します。
     勤務先や取引先で行われている違法行為や不正の内部告発・公益通報をお考えの方、告発・通報を行ったことで被害を受けている方のための電話相談です。詳しくは、日弁連WEBで!

    本日、大阪弁護士会の司法記者向け広報で、案内をさせていただきました。
    組織内部の不正で心を痛めている方にとって、何らかの救いになることを願っています。

    若干、お話ししたことの要旨を補足しておきます。

    まず、公益通報者保護法制定来の経緯については次の通りです。
     平成16年6月 公益通報者法保護法制定
     平成18年4月 同施行
     平成23年2月 公益通報者保護専門調査会とりまとめ
     平成25年6月 公益通報者保護制度に関する実態調査報告書(消費者庁)
     平成28年3月 公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会第一次報告
     現況 公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会ワーキング・グループ

     本来、施行後5年で見直しをするはずでしたが、専門調査会とりまとめでは、法改正を要する具体的な状況に至っているかどうか、さらに調査が必要とのことで、法改正なりませんでした。その後、消費者庁により、実態調査や当事者ヒアリングがなされ、現時点では、学者・弁護士を中心とするワーキンググループにより、改正案の検討がされている状況です。

     弁護士会の立場は、「公益通報 弁護士会 意見書」で検索していただければ、いくつかの意見書や会長声明がヒットしますので、そちらをご参照ください。要するに、多くの点で現行法の改正が必要であるとの意見です。

     公益通報者保護法施行来、たくさんの内部告発事件がありました。そのうち、通報者が不利益取り扱いを受けた主な案件には、次のようなものがあります。
     平成18年4月 大阪トヨペット事件
     平成19年6月 オリンパス浜田事件、神戸司法書士事件
     平成20年1月 ピーエス三菱・北野建設共同企業体事件
     平成20年10月 島根自治労自動車共済不正事件
     平成22年9月 高松・金属工場不正事件
     平成22年12月 千葉県がんセンター事件
     平成24年3月 秋田書店事件

     問題は、それらの通報案件で、通報者は、通報後に様々な不利益取り扱いを受けてきていながら、公益通報者保護法が直接的に役に立った事案は皆無といってよく、通報者は告発後に所属する組織の攻撃から身を守り、権利を回復するための困難かつ長期の戦いを強いられている現状にあることです。
     消費者の生命身体財産を守るために組織内の不正をただそうとした正義の人がここまで虐げられていいのかと、日ごろ相談を受ける立場として切に思います。

     9月24日は全国一斉一回限りの電話相談ですが、大阪弁護士会では、毎週月曜日の正午から午後2時まで、電話相談を実施しています。
     弁護士や組織の内部窓口以外(監督官庁やマスコミ)に通報内容を含む相談をしてしまうと、公益通報者保護法による保護が受けられない(それ自体が大きな問題ではあるのですが)危険が出てきます。
     内部通報をお考えの方は、通報前にどのようなことに気を付ければいいのか、また、通報後に不利益取り扱いを受けている場合、どのように対処したらいいのか、まずは弁護士の話を聞いてみてください。

  • 商標権者の不正使用による取り消しと予防法務

     民事法の世界では、「権利の上に眠るものを保護しない」という言葉(古くから言われているこのような法律的な言い回しを「法諺(ほうげん)」といいます)があります。これは例えば「消滅時効」とか、「不使用取消」などが依拠する基本的な発想です。今回は、商標法に見られる「クリーンハンズの原則」について説明します。

     クリーンハンズとは、「きれいな手」という意味です。つまり、法律の保護を受けようとする者は、自分自身が法律の保護を受けるに値する清廉潔白さをもっていなければならないとする基本的発想です。民法で有名なのは、「不法原因給付(民708条本文)」です。不法な原因(たとえば不倫の見返りとして金品を供与したり、賭博の掛け金を払ったり、出資法違反の高金利を取るために金を貸したりするようなこと)で相手に金品を渡したときは、原因になる契約が公序良俗違反で無効(民法90条)であっても、金品の返還を求めることができないという制度です。つまり、自らが違法な行為で無効の原因を作っていながら、その無効を理由に相手に返還を求めるというのは身勝手であり、法律では助けてあげませんよということです。

     商標法で、このクリーンハンズが強く現れているのが、商標権者の商標不正使用取消(同法51条1項)という仕組みです。
     商標権者であっても、他人の商標を故意に侵害するために自己の商標に類似した商標を使った場合には、類似の元になるもともとの登録商標も登録を取り消されるという制裁的な制度です。さらに、一度取り消されると5年間その商標範囲の出願は受け付けられないという厳しい内容になっています。
     実例で著名なのが「アフタヌーンティ事件」です。特許庁は商標権を取り消しませんでしたが、東京高裁は特許庁と逆の判断をして取り消しました。

     それと別に、使用権者の不正使用取消(53条1項)という仕組みもあります。これは、商標権者自身でなく、使用許諾を受けた者が、他人の商標を侵害する類似商標を使った場合、もともとの商標登録を取り消すというさらに怖い制度です。そのため、商標権者は、商標許諾時には、厳重に契約で縛っておかないと、大変な不利益を被る可能性があるので注意が必要です。
     この実例で有名なのが、「ミネフード事件」です。これは商標権者の商標を第三者に使用許諾したところ、その第三者が勝手に商標の一部分だけを取り出して使っていたら、呼び名が似た商品を売っていた別の会社から訴えられたという事件です。これも特許庁では取り消されなかったのですが、東京高裁では取り消されるべきとされました。

     日本のビジネス界では、契約の拘束力に対する意識が低いのですが、紛争になった場合、契約書の記述は重要です。たとえば上記のような紛争の場合、商標改変使用の禁止と違反時の損害賠償予約・違約罰条項等を使用許諾契約に入れておくことで、ある程度の対策になります。そのあたりのことを押さえておかないと、他人の不始末のせいで、大きな損害を被る羽目になりかねません。商標権に限らず、契約書一般について、予防的観点からのチェックを平素より怠らないようにするとよいでしょう。