カテゴリー: 企業法務

  • 個人情報保護の要点

     最近は,なんでもかんでも個人情報保護で,弁護士の立場からすると,以前よりも情報の取得が難しくなってきた感があり,訴訟や後見などのいろいろな手続が面倒になってきています。
     しかし,それだけ個人情報がシステムとして保護されている状況が定着してきたということで,全体的には好ましいといえるでしょうか。
     ところで,一般論として、漠然と個人情報を保護しなければという認識はありますが,法律上どのように規定されているのかは意外に知られていません。そこのところをお知らせするのが今回のレポートの趣旨です。

     法律は平成15年に出来た「個人情報の保護に関する法律」です。
     個人情報は,「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」と定義されています。

     つまり,「亡くなった人」の情報はこの法律では保護されていません。また,「特定の個人」を識別できない情報(例:イニシャルだけ,ありふれた姓名だけ)などは保護対象でありません。但し,それらの情報をまとめて保有していて,いつでも個人を特定できるような状態にしてあるとき(例:公開ファイルはイニシャルだけだが,固有の番号を付けたりして,本名・住所等のファイルに関連づけられている場合やクロス検索機能で簡単に抽出できる場合など)には全体が法律による保護対象になります。

     個人情報はだれもが慎重に取り扱わなければならないのですが,この法律では,とくに「個人情報取扱事業者」という定義を設けて,それに該当する場合に限って,法律による種々の規制をかける仕組になっています。もちろん,法律で規制されなくても,自主的に個人情報保護ポリシーを設けることは望ましい事です。

     「個人情報取扱事業者」は,現在の基準では,「ある事業のために,過去6ヶ月間を通じて一度でも5000人を超える人数を特定できる情報を管理している者」です。つまり,6ヶ月以内に5001人以上の個人情報を集めていたことが一日でもあれば,個人情報保護法の適用を受けて,次に述べるようないろいろな保護法準拠対策を講じなければなりません。なお,この情報は日本国籍者に限らないので,法人ではない「個人(自然人)」であれば,外国人も数にカウントされます。亡くなった方は含みません。

    (1)利用目的の特定: 個人情報を記録する際に,利用目的を決めることです。ここで決めた目的以外には原則として使わないようにします。
    (2)利用目的による制限: 本人の事前の同意がないときには,原則として,定めた目的以外のために利用してはいけません。例えば,荷物送付のために聞いた個人情報宛てに,事業の宣伝等のDMを送付したりすることはできません。そのようなことをしたければ,目的に定めておくか,個別に本人の同意をとっておかねばなりません。
    (3)適正な取得: 本人をだまして個人情報を聞き出すことは違法です。
    (4)取得に際しての利用目的の通知等: 本人には,個人情報の利用目的を知らせておかねばなりません。利用目的をWEB上で公表している例が多いですが,公表していても,新規取引毎に個別に「個人情報利用についてのお知らせ」をするほうがよいでしょう。利用目的が変更された場合には,本人へ通知しなければなりません。
    (5)データ内容の正確性の確保: 一旦集めたデータは,正確かつ最新の内容に保つようにする努力義務が課せられています。
    (6)安全な管理: 当然ながら,集めたデータが漏洩したり,なくなったりしないようにしなければなりません。
    (7)従業者の監督: 安全管理の一環として,従業員の指導監督も必要です。
    (8)委託先の監督: データ入力やDM代行業者などへ情報を委託する場合は,その業者がきちんとした個人情報保護ポリシーをもっているかどうか確認すべきでしょう。
    (9)第三者提供の制限: 当然ながら,本人の同意なしの個人情報第三者提供は禁止されています。ただし,これにはいくつかの例外があります(例:捜索差押や伝染病検疫の場合など)。
    (10)保有個人データに関する事項の公表: いわゆるプライバイシーポリシーです。法律が求めている内容は,①当該個人情報取扱事業者名称,②個人データの利用目的,③開示手数料,④苦情申出先です。
    (11)個人データの開示・訂正・利用停止: 本人の求めがあれば,保有している個人データを本人へ開示しなければなりません。その場合は一定の手数料を徴収できます。データがない場合には,データがない旨を回答しなければなりません。
     また,本人から訂正を求められたときは,内容確認のうえ,これに応じなければなりません。訂正できないときにはその旨を報告しなければなりません。これは,その本人にとっての不利益情報(例えば,料金滞納の事実や,暴力団関係者である等の事実)が記載されている場合に,生じてくる問題です。
     個人データが不正取得・不正利用されている場合は,当該データの利用停止や消去をしなければなりません。
     個人情報保護については,各業界の団体が「認定個人情報保護団体」となり,共通のガイドラインを定めている場合もあります。

     もし,「個人情報取扱事業者」が法律の定めた措置を執らずに,個人情報漏洩や不正使用などをした場合には,行政から是正勧告が出されることがあります。この勧告に従わなかった場合には,是正命令が出され,さらにそれにも従わないときは刑罰(六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金)に処されることもあります。

     事業が拡大すると,すぐに個人情報を5000件を越えて保有する状況になると思いますので,それらについての適正な管理をすることが,事業経営課題の一部になってきます。

     

  • 事業承継と名称等の使用

    1 事業支援の概要
     他社の事業を支援するにあたっては,会社の新設,分割,合併,営業譲渡,出資,金融支援などの様々な手法があります。
     それらの方法については,その時点での会社法制や税制などの状況や,関係先の状態に応じて臨機応変に判断しなければならないので,必要になった都度,検討をすることになります。今回は,それらの手法のことではなく,共通して問題となる「名称の使用」について整理してみました。

    2 名称の種類
     会社は,様々な名称を使っています。例えば,「社名」これは法人組織であれば,登記された名称(商号)であり、個人営業であっても商号登記が可能で、法的保護対象になります。
     店舗経営会社の場合は,社名と経営する「店舗名」が違うこともあります。
     また,代表的なサービスや商品の名称も会社名とは違う事があります。それらの表示は商標登録されている場合もあります。
     事業支援を会社の新設,分割や営業譲渡の方法で実施する場合に,名称利用について注意すべき点が,大きく分けて二つあります。
     一つが,「商号続用」で,もう一つが「ブランド,商品名続用」です。前者では会社法・商法が,後者では商標法その他の知的財産関連法が問題になり,共通の問題としては,不正競争防止法も問題になります。順に説明して参ります。

    3 商号を続けて使う場合
     この点については,商号を続けて使うことにより事業承継者に責任が生じるケースを裁判所が多数判断しております。
     例えば、別会社の経営していた飲食店舗を譲り受けてそのままの名称で営業を続けていた会社が,もとの経営会社に対する債権者からの事業上の債権取り立てを受けていた事件で,店舗の名称を続けて使う場合には,対外的に反対の意思表示を明示していない限りは,会社法に基づいて,旧経営者の負債を弁済する義務を負うと判断された例があります。
     このことから得られる教訓は,安易に支援先の事業を引き受けて,そのままの名称を使うべきではないということです。また,どうしても名称を続けて使いたい場合には,従来の取引先に対して十分な説明と周知を実施して,理解をえる必要があります。

    4 ブランド・商品名を続けて使う場合
     これは古くからの問題ですが,最近ではインターネット上のアドレス(URL)につく「ドメイン名」の不正使用という問題も加わりました。結局は,他人の権利を侵害してはいけないという単純な話なのですが,ブランドや商品名,ドメイン名は,よほど著明なものを除いて,一般的には誰に帰属する権利なのか,あまり周知されていません。誤って他人の権利を侵害してしまうことを避けるためには,登録商標やドメイン名などを,事前に調査する必要があります。
     これらの知的財産に関する使用や登録のルールは,様々な国際条約,国内法,判例などが複雑に適用されますので,専門家(弁理士・弁護士)でないと扱いきれない問題になってきますが,会社が大きくなるとどうしても関わらざるを得ない分野です。

     ちなみに、***管理士という国家資格は、次のものだけです(これ以外に ××管理士 という名称を付けているものはすべて民間の技能検定にすぎません)。

    • エネルギー管理士・熱管理士・電気管理士(エネルギーの使用の合理化に関する法律)
    • 浄化槽管理士(浄化槽法)
    • 安全管理士・衛生管理士(労働災害防止団体法)
    • マンション管理士(マンションの管理の適正化の推進に関する法律)

    このほか国家資格ではないものの、「補償業務管理士」という資格があります。これは、公共用地補償に関する国の制度の中に位置づけられている点でやや特殊な民間資格です。

    ・・・脱線しました・・・ 

    5 不正競争の問題
     上記のような会社やサービス,商品等の名称が,世間に広まれば,それ自体が無形財産としての価値を持ちます。そのような営利会社がもつ対外的な無形的価値は会計上、「のれん(GoodWill)」として現れてきます。
     このような性質があるだけに,多くの事業会社が、被害者になるケースと加害者になるケースの両方に遭遇してしまう可能性があります。
     例えば,「sonybank」事件では,前記の「ドメイン」について,著名メーカーのソニー(sony)とは全く関係のない個人が,金銭的に多額の要求をする意図をもって,「sonybank」という名前をインターネットアドレスに登録していたケースです。最終的には裁判でソニーへの無償移転が相当と認められましたが,商取引での最近のインターネットの重要性を考えると,ソニーには相当な時間的,コスト的損害が発生したと思われます。

    6 まとめ
     以上,簡略化して説明しましたが,事業の拡大・展開や縮小・撤退過程では,さまざまな法律分野にかかわる問題がたくさん生じてきます。美しいテイクオフ・ランディングが出来るように,しっかりとした事前・事後の法務対策をすることが必要です。

  • 事業活動の取引相手についての問題点

    1 企業活動は,個人を相手にする場合と会社を相手にする場合があります。
     法的には,自然人法人という大きな区別があります。
     普段取引をしているときには,あまり意識されていないのですが,取引相手が,法的にどのような主体なのかを確認しておかないと,いざトラブル時に法的責任の所在が曖昧にされてしまうことがあるので,注意が必要です。

    2 個人の場合
     個人が,会社組織を作らないで,自分の屋号だけで商売をしている場合です。
     たとえば,マエダさんが,「前田商店」として小売店を経営している場合には,法的に表現すると,「前田商店 こと マエダ某」となります。当然,本名だけで取引をしてもかまわないのですが,実は,「前田商店」の部分(屋号)は,「商号」として保護されるケースがあります。ここではひとまず説明を省略します。
     このような個人との取引の場合には,どんなに大勢で仕事をしていても,最終的に責任追及できるのは「マエダ某」一人に対してです。
     個人的な出資者があっても,出資金の返還を約定していれば,マエダ某に対する債権者の一人として出資金を返してもらうことが出来ますので,出資者にまったく責任追及できないばかりか,かえって競合することになります。会社の株主が出資の範囲で責任を負う(倒産すれば株の価値がゼロになる)のとは違っています。
     そして,万一この「マエダ某」が亡くなったときには,金銭債権は各相続人の持分割合に応じた分割になってしまいます。たとえば,マエダ某さんに奥さんと子ども二人がいて相続された場合,400万円の債権が残っていたとしたら,奥さんには200万円、子どもには100万円づつを分割して請求するしかありません(連帯債務にはなりません)。相続人全員が相続放棄すれば,ゼロになります(正確には、何か遺産が残っていれば、相続財産管理人選任の申立をして、それを相手に回収します)。
     これを防ぐためには,個人との取引の場合には,その事業の後継者にも一定の保証債務を負担してもらうことが有効です。そのためには必ず保証契約書が必要です(口約束は無効とされています)。なお,根保証といって,一定の範囲で責任を負わせる場合には,必ず極度額(限度額)を決めなければならず,保証期間にも一定の制限があります。
     個人の特定のためには,住民票印鑑証明書の提出を求めて,運転免許証パスポートなどの顔写真のある公的証明書と照合することがほぼベストの方法です。社員証や健康保険証などは偽造が容易で,後日検証ができないので,個人特定には適していません。

    3 会社の場合
     会社との取引の場合には,相手が登記された法人なのかどうかを確認することが第一歩です。
     かつては多額の資本金を準備しないと株式会社が作れなかったのですが,現在は事実上資本金に意味がなく,登記手続き等の費用さえあれば,簡単に株式会社が作れます。会社にはそのほかにも持分会社というものもあり,有限会社もあります(但し,有限会社は現在新設出来ず、すでに設立済みの有限会社も法律上は株式会社と見なされています)。
     いずれにしろ,法務局に有効に登記がされていれば,法人ということになります。
     登記のある法人であれば,今度はその代表者が直接の取引相手になります。代表者は住所氏名が登記されているので,これを手がかりにして個人を特定します。
     本来,会社の業務は代表取締役が権限を持つのですが,社内の決済システムが整備されていて,事業部の部長や専務取締役が,対外的な契約の権限を任されているケースもあります。法的に厳密に言えば,それらの人が「支配人」として法的に会社の業務の一部を代理できる権限があるとして登記されていなければ,対外的な処理をすることができません。ただ,一般的には会社に帰属するものとして信頼して取引されているのが実情かも知れません。

    4 取引先管理上のチェック
     屋号だけで把握している個人は,営業所だけでなく,できる限り現実の住所,住民票の住所を情報として押さえておく必要があります。
     そうでないと,夜逃げをされたらいざというときに追跡しようがありません。
     会社については,登記されていることを確認するのは当然として,代表者の交代などにも注意を払う必要があります。ごく希に,登記があるけども実体がないペーパー会社を隠れ蓑として使い回す者もありますので,必ずしも登記事項証明書が万能ではありません。会社との取引の場合は,その会社そのものの資産のほかに,代表者個人の資産,収入なども把握しておいて,可能であれば保証契約書をとっておくことが望ましいといえます。