カテゴリー: 企業法務

  • 商行為・商事契約のまとめ

    会社法は,わざわざ「事業行為」と「事業のための行為」を「商行為」だと決めています(会社法5条)。なぜ「商行為」という定義が必要なのでしょうか。
    それは,「商行為」であるかないかによって,「民法」「商法」のどちらが適用されるかが決まるからです。
    もともと,会社法は,平成18年改正までは「商法」の一部として規定されていました。いまでも「商法」という法律は残っていて,そこに「商行為」が規定されています(商法501条、502条)。
    商行為であるとき(商事)とないとき(民事)の、法律行為に関する違いは次の通りです。これらの規定は商行為全般に適用されます。

    商事 民事
    代理・顕名(本人のためにすることの表示) 不要(商法504条) 顕名必要(民法99条)
    委任 明示的委任外の行為も可(505条) 明示的委任範囲に限る(643条)
    委任による代理権 本人死亡により消滅しない(506条) 本人死亡で消滅する(653条)
    申し込み 直ちに承諾しないと申し込みは失効(507条) 民法には規定なし
    隔地者申し込み 相当期間内に承諾しないときは申し込み失効(508条) 承諾の通知を受けるのに相当な期間経過を要す(524条)
    諾否通知義務 通知義務あり・見なし承諾あり(509条) なし

    また,商事契約に関しては次のような違いがあります。

    商事 民事
    多数当事者の共同債務 当然に連帯債務(511条) 当然には連帯債務にならない(452条)
    委任の報酬 当然に相当額を請求できる(512条) 当然には報酬請求はできない
    貸金の利息 当然に商事法定利率(年6%)を請求できる 利息の取り決めをしなければ請求できない。
    流質処分 流質できる(515条) 流質できない(349条)
    債権の消滅時効 原則5年(522条) 原則10年(167条)

    要するに,一般民事よりも,素早く・簡単に物事をすませようというのが「商事」の基本的発想になっています。
    このほかにも当事者双方が商人である場合の売買については,次のような特別な取扱がされています。

    • 受領拒否・受領不能の場合に裁判所の許可なく競売が可能(商法524条)
    • 履行期日が重要な意味を持つ売買で,履行期が経過してから直ちに履行を請求しないときは解除とみなされる(商法525条)
    • 買主は通常の瑕疵は遅滞なく通知しなければ瑕疵担保・損害賠償責任を追求できない(商法526条)

    前記の商事法定利息(商法513条1項)は,両当事者にとって商行為である場合に限り適用されます。つまり,貸すほうは同じ貸金会社でも,商人に貸せば当然に商事法定利率(6%)で利息の請求ができますが,商人でない人に貸した場合は利息を約定しないと利息が取れません(利息を決めても利率を決めなければ5%です)。

  • 近況 寒くなりましたね

    今朝からダウンとマフラースタイルです。

    寒暖差激しいので皆様もお気をつけて。

    最近、和解で終結する事件が連続していて、訴訟・法廷好きの私としては、多少物足りない感はあるものの、依頼者にとってのベスト・ベターを選択すると、そうなるという結果なので、結構自分自身でも割と達成感があったりします。特に、和解は当事者の合意で、訴訟だけでは実現が難しい創設的な権利生成や契約更改もできるので、その面では訴訟での勝訴以上の意味があります。

    今の日本というか現代社会では、ものごとがもめて、双方の見解が対立したら、最終的には法律の根拠に基づく請求権をきちんと主張立証した人だけに利益が得られるという仕組み(司法制度)を使うことになり、その最後の手段が訴訟です。

    私の出身地である宮崎県は一般的に紛争を嫌う和の精神の県民性があると思いますが、実りのない示談交渉を延々と続けるより、法律の仕組みに従って、粛々と物事を進める方が適している局面もあるので、いざというときは弁護士・調停・訴訟の利用を躊躇しないで、思い切った対応をするべきだと思います。

    そしてそのために必要なのは、何をおいても証拠の確保。ほとんどこれに尽きます。

    どんな証拠がいるのかわからない? それを解決するのが 「予防法務」 の領域です。

    寒くなる前にクローゼットからダウンとマフラーを出しておくように、紛争に備えて事実経過を客観的に保存しておくことが重要です。

    ・・・で、オチ と。

  • 会社との取引の基礎的な留意事項

    会社の住所とは
     個人であれば,住民票の置いてある「住所」,現実に住んでいる「居所」の区別がありますが,会社の場合はどうでしょうか。
     会社法では,会社の住所は「本店所在地」だとしています。このような定めが必要なのは,いろいろな法律の適用の場面で,会社の「住所」が問題になるからです。「本店所在地」は「代表者の住所」と同じである必要はないし,「社屋」のある場所でなくてもよいのですが,対外的な信用の上では,きちんと対外的に表示できて,来訪されても問題がない場所を「本店所在地」にするべきでしょう。

    会社の氏名とは
     個人の氏名は,戸籍謄本に記載されたものが唯一公式のものです。別に「通称」を使うことは自由ですが,公的な手続のうえでは必ず「戸籍名」を使わなければなりません。
     会社の場合には,「商号」が唯一公式のものです。これは会社を設立したときに名称として定めて,登記することによって対外的に公表され,一定の保護を受けると同時に,それにともなう責任も生じます。
     保護の面としては,他の会社から「商号」をまねされたり,勝手に使われたりしたときには,そのようなことを止めさせることが出来たり,損害賠償を請求できたりします。
     他方,責任の面としては,他人に自己の商号を承諾のうえで使わせた場合に,取引の相手方に対して,名義貸人としての責任を負う場合がありますし,他人の商号を承諾を得て使っている場合に,取引の相手方に対して,その商号をもつ他人の分まで,名義借人として負担させられる場合があります。
     名義の貸し借りは,望ましくないと分かっていながら,いろいろな義理がけで、ついやってしまいがちなことではありますが,弁護士の立場からは,どんなことがあっても絶対にやってはいけない行為の一つであるとアドバイスします。

    法人格の否認という問題
     上記に派生して,たとえばA会社に,代表者個人Bや関連会社Cの資産負債・組織構成・経理関係などでの混同・混乱がある場合には,取引相手(債権者)から,「A社=B=C社である」との主張がされる場合があります。このことを「法人格否認」といいます。この主張が認められた場合には,会社と個人で違うだとか,A・C社は関連はあるけど別会社だという言い訳が効かなくなります。
     法人格をうまく使うためには,組織・経理をしっかり整理・区分しておかなければなりません。