カテゴリー: 企業法務

  • 競業禁止・競業避止

     日本と世界の主流は、自由な経済取引を原則としますが、だからといって儲かればなにをしてもいいというわけではなく、一定のルールがあります。

     法律用語で、「公正な競争」と言われる取引上の諸原則がありますが、これを破るものが「不正競争行為」や「競業禁止違反行為」です。
     競業避止義務は、他人の事業と競争関係になる事業を行ってはならない義務のことです。義務の根拠は、法律による場合と、当事者の合意による場合とがあります。

    1 支配人・代理商の競業禁止
     会社法12条、17条は、支配人・代理商が会社の事業を会社のためでなく、自分や他人のために行うことを禁止しています。
     支配人・代理商は会社のために働くべき法的義務を負っていますので、自分や他人の利益をはかろうとするのは当然ダメですよということです。

    2 事業譲渡会社の競業禁止
     会社法21条は、事業を他社に譲渡した会社が、同一の事業をしてはならない期間を定めています。
     当事者間で別に定めを設けない場合には、譲渡の日から20年間は、同一および隣接の市町村では、譲り渡したものと同一の事業をしてはならないことになっています。逆に言うと、期間を決めておかないと、20年後からはエリアが重なる競争相手になり得るということです。同一事業をしないことを特に決めた場合であっても30年が上限となります。このことは、会社法が原則として自由競争の立場に立つことを意味します。
     ただし、上記にかかわらず、「不正」の競争がダメであることには、適用期限がなく、何年経っても同じですので、30年以降も、不正な競争行為がなされたときは違法となります。

    3 取締役・業務執行社員の競業避止義務
     会社法356条、594条は、取締役・業務執行社員のような経営側の使用人の競業避止義務を定めています。これは競業禁止の場合と若干異なり、一定の競業行為をする場合には、会社の承諾を得なければならないという形になっています。
     競業禁止との違いは、経営者は会社経営について一定の裁量権を持っているので、形式的に競業になるような場合であっても、会社の為になることであれば、そのことを会社(社員・株主・他の共同経営者)に説明して、実行しても良いという点にあります。これがよく言われている「経営判断」です。ただし、いくら会社・株主の為に良いことであっても、第三者に害悪を及ぼすような経営判断をすると、その第三者から損害賠償請求をされたりするので、その点では注意が必要です。

    4 非経営側使用人(いわゆる従業員、労働者)の競業禁止
     最近では起業がもてはやされていることもあり、従業員の中には、非常に独立意識の高い方も増えています。そのためもあってか、各企業の就業規則中には、ほとんどの場合、事業上の秘密保持義務や、競業・副業禁止の規定を設けて、従業員を会社の事業に専念させるとともに、退職後にも秘密保持や競業禁止の誓約書を求めて徹底しようとすることがよくあります。ただし、この規定には、職業選択の自由や自由競争との関係で、完全な効力を有するのかどうか、後日争いになることもよくあります。

     この問題については、非常に幅広くかつ奥深い議論がされていますので、機会があれば詳述しますが、裁判例などをまとめてごく単純にいうと、地位・職務が会社の業務・研究・経営等の中枢機能に近いほど義務は重く、中枢から遠いほど義務は軽いという(いわば当たり前の)ことです。

  • 社長・取締役・支店長・支配人・使用人・従業員・社員・株主・・・

     会社は多くの人材によって支えられます。それぞれにいろいろな呼び名がありますが、一般の用語と会社法・商法での用語と違うことがあります。

     タイトルの用語のうち、会社法・商法で使われる法律用語は、「取締役」「支配人」「使用人」「社員」「株主」です。

     社長は「代表権を有する取締役」に付されることのある名称(会社法354条)です。
     支店長は多くの場合「支配人(同法10条 会社に代わって事業に関する一切の権限を持つ)」ですが、「使用人(同法11条2項 包括的な決裁権を持たない従業員)」に過ぎない場合もあり得ます。

     一般用語では、「社員」といえば「従業員」のことですが、法律用語では「社員」は「社団法人の構成員」を意味し、従業員は「使用人」とほぼ同じです。株式会社の「社員(法律用語)」を「株主」と言います。
     「支配人」は一般用語では、ホテルや旅館の筆頭責任者のイメージですが、法律用語では、一定の本店・支店範囲で業務上の専決権を持っている者のことをいいます。支配人は、裁判上の権限をもっている(会社法11条1項)ので、貸金業者が自社の関与する裁判を担当させるために、業務上の専決権を持たない名目上の「支配人」を大量に登記(会社法918条)して、裁判業務に専属させていることが問題になっています。

     法律に定めのない職制は、社内で自由に設計することができますが、取締役や支配人は法律に権限の定めがありますので、そのような役職名の使用には一定の制約があります。

     ところで、大災害が起こると、普段では考えられないことが起こり得ます。
     人材の観点からいうと、株式会社における取締役・株主の地位は、他の立場とは違って、特殊な意味を持ちますので、その喪失のパターンを以下に示しておきます。

     まず、代表取締役が亡くなった場合、残った役員のうちのだれかが仮代表を務めるか、新たな代表を選ぶかする必要があります。

     社長以下役員全員が亡くなった場合には、株主総会で新たな取締役選任をする必要があります。時効中断のために訴訟を起こす必要など時間的に切迫した状況があれば、裁判所への申し立てにより、特別代理人や仮代表者を選任する仕組もあります。

     株主全員が亡くなった場合でも、その相続人がいれば相続放棄をしない限り、株式が相続されます。突然会社が消滅することはありません。

     株主全員と、その相続人全員が亡くなり、特別縁故者(家庭裁判所が許可をすれば、相続人との個人的な縁が深かった人へ、その人の持つ財産(株式に限らず、全財産やその一部)が承継される)もいない場合には、その株式は国有になります。
     相続財産管理人が選任されれば、なんらかの方法で換価して、国庫に金銭を納付しますが、相続財産管理がなければ、そのまま塩漬けになってしまい、事実上会社が消滅します。

  • 商号と商標の違い

    違いをまとめました

    商号 商標
    意味 会社の名前(1社に一つ) 商品やサービスの名前(1社が多数持つことも可)
    登録 法務局・登記 特許庁・登録
    根拠 会社法,商業登記法 商標法
    記号 なし(法務局の認める文字でないと登記不可) あり(記号や図形も登録可)
    期間 有効期限なし 10年ごと更新必要

     会社が大きくなり、需要者に周知されてくると,その名称そのものが一種の財産的価値を帯びてきます。ネームバリューとも言われます。
     最近では,コーポレイトアイデンティティ(CI)とか,ブランディングということで,広告業者や特許事務所などが,商号と商標の同時登録という広告戦略を勧めているようです。商号の登記・維持には登記費用とその後の変更登記費用がかかり,商標には出願登録時に約20万円くらい,更新時(10年ごと)に10万円くらいの費用がかかります。かといって,それだけの価値を生み出した時点で出願しようとしても,先に登録されてしまったりすることがあり,ブランディングの観点からは、著名にならないうちに先取りしておかなければなりません。
     商号や商標を不正に登記・登録・使用することは、民法や不正競争防止法により損害賠償請求の対象となります。不正使用の被害拡大を防止するための差止という方法もあります。
     ちなみに、「商標権」は知的財産権の一種です。このほか会社関連では、「意匠権」という言葉もよく出てきます。
     「意匠」は、物のデザインを保護する仕組で、商標と同じように特許庁の登録が必要です。製造企業では非常に重要な権利といえます。非製造企業では、サービスそのものの名称である「商標」のほか、独創的なサービスの仕組を一定のシステムと結びつけることで、「特許」を取得することが考えられますが、ありふれたアイデアはすでに登録されていることが多く、非常に多くの先行事例があるので、さらにその先を行く新しい発想が必要なため、なかなか狭き門といえます。