カテゴリー: 日記

  • (弁護士に質問)あなたの専門はなにですか?

     医師であれば即答できるこの質問にも,自信を持って即答できる弁護士はほとんどいないだろう。本当に法領域の一部のみを専門にしている弁護士(特定分野の事件しか扱わないことを明示し,現にそれ以外の事件を受けていない弁護士)は非常に少ないように思える。
     弁護士経験五年目のときに、自分が直接主任として扱った事件をリストアップしてみたところ,非常におおまかではあるが,下記のような結果であった(多数とあるのは少なくとも10以上はあったが、正確にカウントしていないもの)。
    債権問題>
     売掛金 判決多数   貸金 判決多数   求償金 判決1
    賃金 判決1   派遣料 判決2  預金払戻 和解1
     株主権確認 判決1  預託金 和解1・判決2  特許料 1  証拠保全 1
    損害賠償問題>
     交通事故 紛争処理センター2  傷害事件 和解1・判決1  医療過誤 和解2・交渉1
    商法266の3 1 競業禁止違反 2  詐欺 1  日照・眺望 2  補償金 1
    不動産紛争>
     賃料請求 和解2・判決1  駐車場明渡 判決1  建物明渡 和解2・判決2 土地明渡 判決1
     共有物分割 判決1  借地権譲渡許可 和解1  
    賃料増額請求 調停1・判決1  賃料減額請求 調停2・判決2
    家事事件>
     遺産分割 交渉2・和解1・調停2・審判2  養育費請求 和解1  相続財産管理人選任申立 2
     相続財産管理 3  遺言検認 2
    債務・破産>
     債務整理 多数  申立(同時廃止) 多数  申立(管財) 2  管財人(法人) 2
    契約書作成>
     共同事業 2   賃貸借・売買 多数  墓地使用
    執行・保全>
     不動産仮差押 2  処分禁止仮処分 1  競業禁止仮処分 1  強制競売 2  不動産競売 3
     動産差押 2  債権差押 多数
    労働問題>
     解雇(使用者側) 交渉2  地位保全仮処分(使用者側) 1
    刑事事件>
     入管法違反 1  変造有価証券行使(中国人) 1  窃盗 2  覚せい剤 1  脅迫・暴行 2
     大麻取締法 1  詐欺告訴 2  業務上横領告訴 1
     傷害(少年) 1  恐喝未遂 1  強制わいせつ 1
     ごらんの通り、私の弁護士経験当初5年間には,特許・税務・行政の各事件はほとんど含まれていない。なお,上記は相談だけで終わった案件をカウントしていないので,特許・税務・行政の基礎的な知識が全くないというわけでもないが,実際に事件として受任して真剣勝負してこそ血肉となるので,それらの分野に関してはほぼ素人といっても差し支えなかろう。
     業務経験をリストアップして分かった経験5年目の私の客観的弁護士像は,「一般商事・民事・家事事件に携わり、刑事弁護もする。」という平凡なものだった。これからの弁護士は専門化しなきゃいかんというのは,よく言われていることであるが,少なくとも5年目まではさしたる専門分野もなく,強いて言えば「債権回収、債務問題、不動産売買・賃貸問題を比較的多数手がけており、労働問題は使用者側に立つ」というのが特徴であった(なお,労働問題は所属事務所の方針で,独立した現在は被用者側に立っている)。
     ちなみに,最近では、私は専門を尋ねる質問に対しては、もっともシンプルには「医療過誤と環境法」と答えることが多くて、もうすこし付け加えようとすると「消費者保護、民事介入暴力対策、高齢者障害者問題、財産管理」などと散漫な答えになってしまっている。しかも,これは「現に専門」というよりも,「そんなのが好きだからそういう案件をたくさん持ち込んでね」というアピールだったりする。
     もし専門を標榜して特定の事件しか扱わなくなったら,今の規模で事務所経営を成り立たせる自信はないし,かといって,全国から集客することも現実的でない。共同化しても商圏が限定されるのであれば経営的にペイできないことは同じである。
     というわけで,「医療過誤、環境問題、消費者保護、民事介入暴力対策、高齢者障害者問題、財産管理」のご相談をお待ちしております(笑)。

  • 高校生の進路相談(夏休み宿題?)

    知り合いから進路夏休み課題研究のためということで,尋ねられたので,答をまとめてみたが,おもしろそうなのでブログにも乗っけておくことにします。
    年齢35歳 性別男 職業弁護士
    ①現在の職業に就こうと決めたのはいつ?
     大卒後,司法試験に合格してから司法研修所で決めた
    ②理由はなに?
     高校生のころから漠然と法律家になるつもりではいたが,検察官,裁判官,学者などいろいろな選択肢のなかで,弁護士がいちばん自由に活動できる仕事だったから,一般市民の問題解決のために,法律家のなかではいちばんはじめに相談に乗れる職業だから
     最初なりたかった検察官・裁判官は公務員なので,仕事の時間や勤務地,仕事の内容などが自分で自由に決められないからやめた
    ③どんな資格をもっている?仕事に役立つ?
    普通自動車免許,大型自動二輪免許,行政書士
    アマチュア無線4級,英語検定2級,TOEFL207(CBT)
     自動車・バイクの免許は仕事で移動するときや交通事故の事件を扱うときに役立つ
     行政書士は行政書士のことがわかる
     無線では,電気や電波の知識があるので,そのような事件を扱うときに役立つ
     英語は海外の法律家と話すときに役立つ
    ④高校生のときはどんな職業につきたかった?
     検察官か裁判官
     理由 法律を適用して悪を糺す(ただす)ことができる。世の中のためになる。かっこよさそう。
    ⑤高校生の進路決定で大事なことは?
    自分が30歳,40歳,50歳,60歳になったときに,どんな自分で居たいかをよく考えること。そのなりたい自分を目標において,実現のための方法をよく考えること
    参考になりましたでしょうか(^^)/

  • 弁護士のオシゴト

     弁護士の仕事にはいろいろあるが,大企業の経済的利益を必死になって守ろうとする仕事は,それだけ大きな利益を得ることができるのだから,報酬も大きくてよかろう(特許事件やM&A紛争など)。そういう仕事は,注目を浴びて花形的な扱いを受け,最近の若い弁護士や,事業意欲のある中堅・古参弁護士がこぞって参入したがっている分野である。
     他方,弁護士の仕事には、刑事被告人の利益を守るという地味な仕事もある。そして,大企業から巨額報酬を受け取っている弁護士は,まず,皆無といっていいほど,そのような仕事をしていないのが実情である。
     このような地味な仕事は,「どうしてそんな犯罪者の味方をするのか」という一般市民からの素朴な反感を受けているのと同時に,「どうせ起訴されたら99%有罪なのだから弁護人をつけても仕方がない」という司法・行政機関の冷遇的態度に遭っており,さらに,「のれんに腕押し、糠に釘」という感もする努力に見合わない結論しか得られない逮捕・勾留への準抗告、訴訟での主張・立証、控訴・上告という刑事司法過程での実務的作業に携わる弁護人自身の空虚感も乗じて、「絶望的」状況にある。
     それでもなお,多くの弁護士達が、国選付添人制度、被疑者公選弁護制度などの実現へ向けて地道な努力をしているのは、ひとえに、弁護士が依って立つ「自由と正義」の精神による。
     そのような原始的な自由と正義を擁護するための仕事は,それだけではなんらの経済的利益を生まない。従って、経済的な報酬がなくても仕方がない。しかし,それでも必死になって守っているものはある。それは,我々の社会の「自由と正義」を実現するための「公正ルール」というきわめて大きな,金銭には代えられないほど大きな利益なのである。
     たとえば,御上のありがたいご託宣によって全ての物事が決まるとき、その判断の公正を担保するのは,ただ,その御上が公正であるという一点のみである。ところが,歴史的事実は、必ずしも御上が常に公正であるとは限らないことを示している。そのために我々の祖先達は,「刑事司法制度」を工夫して現在の制度を作り上げてきた。そこに示された刑事手続の諸原則は「人類の無形世界遺産」とでもいうべき貴重な資産なのである。
     私は,弁護士になった初心を忘れないために、たとえ手に入る経済的報酬はすくなくても,これからも,不公正な手続きが執られている刑事事件に対しては、徹底的に戦っていこうと思っている。
     ただ,きれい事だけで済まないのも現実社会なので,自分と事務所の事務員が飢え死にせず,事務所のオーナーにきちんと家賃が払える程度の収入は必ず確保しなくちゃいけないというのも,またそれはそれで零細個人業主としての悲哀なのではあるが・・・・