カテゴリー: 知的財産

  • 不正競争防止法とは

     2013年10月、阪急阪神ホテルズから端を発した「メニュー偽装問題」は、他のホテルや旅館でも発覚し、社会問題になりました 。
     このニュースの中でしばしば言及されていたのが景品表示法や不正競争防止法です。
     石屋製菓が販売する北海道銘菓「白い恋人」に似せた、吉本興業販売の菓子「面白い恋人」が問題となった事件でも、不正競争防止法違反が主張されていました(和解で解決)。
     このように一般市民の消費活動にも関わってくる不正競争防止法。その概要と裁判例についてご紹介します。
     ちなみに 経産省作成の 逐条解説 はこちらです。

     不正競争防止法は国民経済の健全な発展を目的とし(1条)、「不正競争」行為をいくつか定義づけ、それに該当する様々な不正競争行為に対する差止め請求や損害賠償請求を定めたり、刑事罰を課したりしている法律です。

     不正競争防止法は2条1項で16個の行為を「不正競争」と定めています。たとえば、他人の商品・営業の表示として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の表示を使用し、その他人の商品・営業と混同を生じさせる行為(周知表示混同惹起)や、他人の商品・営業の表示として著名なものを、自己の商品・営業として使用する行為(著名表示冒用)、商品形態模倣行為(他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為)、営業秘密侵害行為などがあり、技術的制限手段回避装置提供行為(例えばビデオソフトのコピーガードを外すソフトウエアを提供する行為)なども不正競争と定められています。

     不正競争を行うと、不正競争によって被害を受けた者(「面白い恋人事件」の例で言えば白い恋人を製造している石屋製菓)は侵害の差止めを請求できます。また、不正競争によって財産的被害を被った者は侵害者に対して損害賠償請求や信用回復措置を講ずることを請求できます。

     著名事件としては、「スナックシャネル事件」があります。
     被告は、昭和59年12月から、千葉県松戸市内で「スナックシャネル」の店名で看板を出し、スナックの営業を行っていました。
     これに対し、異議を述べたのが世界的ブランド「シャネル」の商標等の管理を行うシャネル・グループの原告会社でした。
     原告会社は、被告が「スナックシャネル」という名前でスナックを営業することは、ブランド「シャネル」と何らかの関係があるとの誤解を消費者に与える(=周知表示混同惹起行為に当たる)と主張し、「・・・は、その営業上の施設又は活動に『シャネル』又は『シャネル』その他『シャネル』に類似する表示を使用してはならない」との差止請求及び被害の損害賠償請求をしました。
     この事件では、「スナックシャネル」という看板で営業することで、千葉県松戸市にある決して大きくはないスナックと世界的巨大ブランド「シャネル」とが緊密な関係にあると一般消費者に誤解を与えるかどうかが争点でした。
     一審、二審と判断は分かれましたが、最高裁は、被告スナック営業の内容は、その種類や規模からしてシャネル・グループの営業とは異なるとしたものの、「シャネル」の表示の周知性が極めて高いこと、企業の経営が多角化する傾向があること等の事情を指摘して、本件では一般消費者が松戸のスナックシャネルとシャネル・グループとの間に緊密な営業上の関係又は同一商品化事業を営むグループに属する関係があると誤信するおそれがあると判示しました。
     この判断自体には、様々な異論はありうることかと思いますが、そのような裁判紛争では、小さな個人商店であっても巨大グループ企業に敗訴することもありうると言えます。
     くれぐれも慎重な判断を要します。

    基本的には「人の褌で相撲を取るな」ということですね!

    善良な人には、この一言で了解できるルールが、世界や日本の様々な悪者のせいで、これだけしちめんどくさい法律になってしまうという悪例です・・・。

  • 意匠の間接侵害

     意匠法38条1号では、ある意匠の製造のみに使う物の製造販売も意匠権侵害になるとされています。
     これは、直接意匠製品を製造販売するのではないけれども、意匠権を侵害するという意味で、「間接侵害」と言われます。典型的には、意匠製品を分解して、その部品(汎用性のないもの)を販売したり、意匠製品の組み立てキットを製造販売したりすることがそれに当たります。
     その他、裁判例で争われた事実として、建築用足場の足場と柵を一体として意匠権を有していた会社が、足場だけを販売していた業者に対して意匠権侵害で賠償請求をした案件があります。
     このケースでは、足場部分の部品には外観上、特段の独創性新規性もなく、また、機能的にも柵なしで単体として使われることがあるので、「建築足場柵」という意匠権者の製品の「製造のみ」に使われるとはいえないと判断されましたが、「のみ」かどうかは本当に難しい判断といえます。
     同様の間接侵害の規定は、特許法(101条)や商標法(37条8号)にもあります。

     裁判をやってみないとはっきりしたことは言えないという問題は、一般に「予測可能性」に乏しい事案だと表現されます。
     法律は、起こりうる事態を想定予測して定めてあるのですが、法律制定後に、状況が変化することはよくあり、また、状況が変わっていなくても、法解釈が裁判所に委ねられている以上、完全な予測は不可能というほかありません。
     問題ありうるケースでは、裁判で勝敗をつけることが、大きなリスクを伴うおそれがあるため、案件に応じて、裁判の断念や、損切りなどを含めて、リスク許容性を考慮した慎重な判断が必要になります。

  • 意匠の類似判断基準

     意匠紛争において、もっとも基本的な争いは、ある製品を販売している意匠権者が、その製品に非常に似通っている別製品を製造・販売する業者に対して、その製品の製造・販売差し止めと損害賠償を請求する形のものです。
     特許・意匠紛争では、慣用的に、被告が扱っている侵害品をイロハの符号で特定します。ABCでもよさそうなものですが、私もなぜかは知りません。そういう慣例になっています。
     ちなみに、民事訴訟での原告側証拠には甲、被告側証拠には乙の符号を使い、以下丙・丁と続きますが、これもどうやら慣習のようです。さらに刑事訴訟では、乙号が被告人の供述等、甲号がそれ以外で、どちらも検察官が提出し、弁護士の提出する証拠は弁号とされます。このあたりも、特に明文の根拠がない慣習のようです。なお、甲・乙は法律に根拠のある場合も結構あります(甲種・乙種などと資格区分が規定されている例など)。
     ちょっと脱線してしまいました。

     意匠侵害で重要になる「類似」の判断は、どのようにされるべきか。
     この点、最近の裁判例でいわれている表現によれば、「意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して、需要者の注意を惹き付ける部分について要部として把握した上で、両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し、全体として美感を共通にするか否かを判断すべき」とされます。
     すなわち、まず、需要者の注意を惹きつける「要部」はどこかの認定が必要であり、その要部に関して、異なった美観を与えるか否かで決めるという二段階の論理です。
     例えば、「要部」でない一部分がそっくりであっても、全体的な観察からみて、そのそっくり部分が「要部」といえなければ、意匠が類似しているとは言えないということです(ただし部分意匠の場合は別の問題あり)。
     
     実際の裁判紛争では、「要部」の議論に多くが費やされます。例えば原告が立面から見るべきと言えば、被告は側面から見るべきと言いますので、裁判所としては、まずその意匠をどの視点で観察するのかを判断しなければなりません。その「視点」を決めるのは、「当該物品の性質、目的、用途、使用態様等」ですから、意匠紛争では、当該意匠製品に関するそれらの性質等を、実際の使用事例やマーケット調査によって原告が立証しなければなりません。
     従前、公知意匠(当該意匠登録前から存在していたありふれたデザイン)と比較して創作的である部分が共通していれば類似とする考え方があったため、平成18年改正により、意匠法24条2項が追加されて、「需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて」判断するように規制されたのですが、同改正後も公知意匠と比較した創作部分の有無を、需要者の視覚を通じた美観に加えて、類似性判断の資料にすることが一般的に行われています。
     前回も説明した通り、この部分の「需要者の視覚」は、現実には人それぞれであって、決して実在しない抽象的な「需要者」なので、実際には、数多くの根拠資料を提示し、裁判官に対する説得が重要になってくる部分です。
     
     意匠侵害訴訟は判断者の知識・経験・人格に左右されやすい点で、非常に結論を読みにくい印象があります。