カテゴリー: 知的財産

  • 不正競争防止法で保護される「地域範囲」

     会社法ができるまでは、同一市町村内での同一商号が登記できなかったのですが、会社法施行後、商業登記のルールも変わり、同一所在地の同一商号だけが禁止され、そのほかのケースは登記自体は可能な仕組みになりました。

     しかし、会社法8条では、不正な商号利用を規制しており、不正競争防止法2条1項1号でも同一・類似の商号使用が不正競争の一つされています。そのため、法務局で登記が認められた商号だったとしても、他の同一・類似商号の会社から、会社法や不正競争防止法違反を理由として訴えられる可能性がないとは言えません。

     ちなみに、会社法上の保護では「不正の目的」という主観的要件(故意に準じる)がありますが、不正競争防止法では、不正の目的の有無にかかわらず、客観的に「需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似」の商号を使って「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」をすれば、損害賠償責任を負います。その意味では、会社法違反より、不正競争防止法違反のほうが引っかかりやすいといえます。

     そもそも、「主観的要件」の主張立証は、民事・刑事問わず、裁判で難しい争点の一つです。たとえば、殺人事件で、もし「殺すつもりはなかった」という言い分が通れば、結果的に人が亡くなっていても、「傷害致死」になってしまうようなことです。

     不正競争防止法に基づく損害賠償請求事件では、「広く認識されている」の点について、どのような地理的範囲を意味するのかが争われることがあります。事案としては、老舗のとんかつ屋さんが横浜・川崎を中心に店舗展開していたところ、神奈川県鎌倉と静岡県に同じ店名のとんかつ屋が開業したので、それをやめさせようとして提訴したという案件があります(勝烈庵事件)。

     結論としては、鎌倉の店のほうは表示の使用禁止が認められましたが、静岡の店のほうは、不正競争行為にならないとして、表示の使用禁止は認められませんでした。

     古い法律では、周知範囲を「日本国内」と読めるような規定になっていたので、神奈川県一帯というような狭い範囲でも「周知」といえるのかどうかが議論になりうるのですが、現行法上は、一定の地域範囲に限った周知でもよいが、その保護範囲は、当該周知の範囲内に限られると解釈されています。上記のとんかつ屋さんの件では、静岡県にまでは周知されたといえないという判断がされたことが結果に影響したわけです。

     この「周知性」に関しては、注意を要する点が一つあります。それは、他人Aが長年扱ってきて実績のある商品等XをBが譲り受けた場合にも、B自身がほかの競争者から当該商品等の利益を守るためには、XがA社のものではなく、B社のものであるという点の周知をしていなければ、不正競争防止法上保護されなくなる場合もありうるということです。この点については、営業権譲渡やのれん代などといった話に関連してくるのですが、譲渡対価を見積もる場合には、譲受側での周知に要するコストも考慮する必要があります。

  • 不正競争防止法で保護される「形・色」

     関連の事件には次のようなものがあります。

     会計伝票事件。経理で使う会計伝票(原告主張では、両サイドに綴り用の穴が等間隔に連続してあけてあり、帳簿につづった時に罫線が連続するように上下の余白がカットされた形態を特徴とする)を模倣されて、損害を被ったと主張した事件です。一審は、原告主張の特徴は、技術的に必要な形態であって、不正競争防止法上の保護を与えると特許や実用新案での保護範囲を超えてしまうとして、請求を棄却しました。二審では、技術的に必要な形態であったときも、不正競争防止法上の観点から独自の保護を検討してよいとして一審の論理を否定しましたが、本件では、原告主張の特徴自体は、需要者に対して商品表示性(それを見た一般需要者の大半が製造販売者を特定認識する程度に周知されているという状態)がないので、不正競争防止法上の保護は認められないとしました(最高裁も高裁同旨です)。

     ルービックキューブ事件。あの立方体色合わせパズルです。これはいくつか事例があって、結論もまちまちですが、東京高裁の裁判例では、パズル本体には商品表示性がないとしています。事情としては、本体だけでは特徴と言えないとされたもので、別の大阪地裁の裁判例では、ルービックキューブのパッケージの類似について争われて、不正競争による損害賠償が認められたケースがあります。

     三色ラインウェットスーツ事件。ウエットスーツとしてはこれまで使われていなかった独自の配色の組み合わせで新商品を売り出したところ、これがヒットして模造品が出回ったという事例です。色づかいに関しては、デザインの範囲であって、それが創作性のある著作・意匠として保護される場合以外は法的保護対象にならないのが原則です。しかし、特定の色彩・配色を継続使用し、それがその製造販売者に、際立って特徴的なものであるとして市場で広く認識された場合(商品表示性と周知性の獲得)には、その使用利益を保護されるとの結論です。このケースでは意匠権の登録が拒否されたデザインの案件でしたが、一審・二審ともに損害賠償請求を認めました。

     濃紺家電事件。もう20年前くらいの話になりますが、それまで生活家電といえば白しかなかった時代に、三洋電機が濃紺色を採用した家電製品のシリーズを売り出しました。私もつい最近までそのころ買った濃紺色の炊飯器を使っていました。それは余談として、この商品シリーズがヒットしたので、他のメーカーもこれを後追いして、同じような色の商品を販売してきました。そこで、三洋電機は競合メーカーを不正競争防止法で訴えました。裁判所は、一審・二審ともに、統一色そのものでは製品の識別機能があるとはいえず、消費者はメーカー名表示と併せて識別していることなどから、請求を棄却しています。
     前記の三色ライン事件との違いは、色が一色のみであり、それ自体では特徴的とまでは言えなかったことです。同じような事件でオレンジ戸車事件(それまで黒か白だった戸車をオレンジ色で発売したらヒットした事例)というのがありますが、これも請求棄却案件です。単色だけで不正競争と認められるためには、販売形態や商品識別について、需要者に対するさらに一層のアピールが必要ということです。

  • 不正競争防止法で保護される「営業」

     不正競争防止法は、いわゆる自由主義経済を前提として、各事業者間で、公正なルールの下で自由に競争をすることが、経済全体の健全性の維持に役立つという理念のもとに制定されている法律です。

     この法律で保護される「営業」に関して、面白い最高裁判例があります。それは、宗教法人の名称に関するものです。理解の前提として、宗教法人の仕組みについてまず説明します。

     宗教法人には、その法人が独立して一つの団体となっている「単立」宗教法人と、ある宗派の名前のもとに同じ宗派の宗教団体が多数集まっている「包括」宗教法人とがあります。多くの著名な宗教団体は、本部が包括宗教法人となり、各地に設けられた支部、分教会、末寺などがそれぞれ「被包括宗教法人」となって、上部団体である包括宗教法人に所属するという形をとっています。包括・被包括ともに、それぞれに代表役員という代表者の定めがあり、法的な観点からはそれぞれが独立した法人としての取り扱いを受けます。本件で問題となった「T」もこの包括宗教法人でした。

     さて、紛争の発端は、Tの分教会を主催する代表役員が、T本部と異なる独自の教義解釈に基づいて、T本部からの独立(被包括関係の廃止といいます)をしたにも関わらず、独立後も依然として「T・・教会」の名前で宗教活動をしていたことから始まります。本部の教義と違うことをTの名前で実行されたのでは、宗教団体としての統一が図れませんし、誤認をする信者などの出現により、布教活動にも支障が出ます。そこで、当然ながらT本部としては、その名称を変更するように、その元分教会の代表者に要請したのですが、全く聞き入れられませんでした(その代表者としては、自分の考え方こそがTの教義に合致しているとの信念があったのかもしれません。多くの伝統的宗教でも、いくつかの宗派に分かれていることは、今日当たり前ですから、それと対比して考えると、同じ宗名で別派があるという状況が必ずしもありえないものとまでは言い切れません)。
     結果的に、T本部は、裁判の手段を使いました。そこで、T本部が主張したのが、不正競争防止法2条1項の不正競争と、宗教法人としての名称使用権の侵害の二点でした。
     一審の地方裁判所は不正競争防止法の適用を認めましたが、二審の高等裁判所は、不正競争と名称権侵害の両方を否定しました。最高裁は高裁の結論を採用して、権利侵害を否定しました。
     ただし、最高裁は、宗教法人の活動全部に不正競争防止法が適用されないとしたわけではありません。「宗教儀礼の執行や教義の普及伝道活動等の本来的な宗教活動」には適用されないが、「それ以外の(例えば、境内地を駐車場として貸し出して収益を上げるような)収益事業」には適用されるとしています。これは、不正競争防止法が「経済収支上の計算に基づいて行われる活動分野での競争を公正の理念に基づいて規制しようとする目的」の法律であることによる適用場面の限定をした判断であり、司法として、宗教活動の自由に従前からかなりの配慮をしている傾向の一環でもあるとみられます。

     このような宗教活動に対する司法の抑制的な姿勢は、名称権侵害の判断にも影響しており、最高裁は、「多少の不利益があっても」本件の程度では、まだ名称権侵害ありとは言えないとの判断を示しています。本件のような場合には、同一の名称使用の事実だけではなくて、その名称使用により、包括法人側にも現実の経済的被害(たとえば、教義を混同されて、週刊誌等から名誉棄損を受けたとか、誤認によって一般信者が離反したとか)が発生したことまで立証できなければ、法的な損害賠償や名称使用の差し止めを求めることはできないと考えられます。

     Tがこの裁判でいったいいくらの弁護士費用を払ったのかは知りませんが、不正競争防止法を持ち出すのはかなりの無理があったように思われます。
     特に、宗教団体の内紛に対して、裁判所は信教の自由の観点から、積極的な判断を回避する傾向にあります。一般の事業会社にあっても、たとえば、「二人の社長候補のうち、どちらが適任か」などという問題を裁判所で争うことはストレートには不可能です。そのような事案では、手続きの瑕疵を主張したり、職務代行者選任申立のなかで、実質的な不都合を多数列挙して主張立証していく必要があります。
     裁判所だからといって、なんでもかんでも判断するのではなく、あくまでも憲法以下の法規範の適用を判断しているわけです。