カテゴリー: 知的財産

  • 楽で安全な抜け道は、ほぼ ない。

     弁護士に対する世間一般の俗説で、「弁護士は法の抜け穴を知っていて、うまい具合に法の網をくぐるやり方も知っている」というようなことを言う人がいます。これはやや悪意を持って言われる方向ですが、善意でも「弁護士だから、なんか特別なうまくいくやり方でできるでしょう」と言うのは、それと似たようなことです。

     確かに、現行法令には抜け穴(不備)があって、表面的なすり抜け方は少なからずあるのかもしれませんが、まともな弁護士は抜け穴を通りぬけて利益を図るようなやり方を好みません。抜け穴はほとんどの場合、紛争に至ると裁判所段階で塞がれてしまうからです。

     商標の世界にも似たようなケースがあり、登録の早い者勝ちだからといって、他人を出し抜いて不正な目的で商標を取得したり、外国の商標が日本で登録されていないのを知って、妨害目的で商標を取得したりすることは、特許庁段階では可能でも、後に裁判を通じて無効とされたり、損害賠償請求をされたりします。

     例えば、外国で発売された製品を、日本で並行輸入販売するために、国外販売者が日本での商標登録をしない隙間を突いて、販売者に無断で日本の商標登録をしたという事件があります。このケースでは、正規品販売者が日本で商標登録をしようとしたら、先に無断登録されてしまっていて、登録が拒否されたことで、無断登録が発覚しました。当然、販売者は、先の無断登録の取消を求め、裁判所は取消を認めました。
     法律の原則としては先に商標権を取得した者が優先するのですが、上記のような他人の権利を先取りして押さえてしまう申請は、特許庁段階で通っても、裁判所が無効にしてしまいます。

     また、外国の鞄メーカーの製品の日本での独占販売権を取得しようとして、その外国メーカーと交渉をし、その後交渉が不成立になって、独占販売権を得られなくなった日本の販売会社が、その外国鞄メーカーが使っているロゴ(日本では未登録)に非常に良く似た商標を日本で登録したという事件がありました。このケースでは、外国メーカーは日本での商標権をもっていなかったのですが、日本の販売会社が商標登録に先だって、その外国メーカーと交渉をしていたという事実から、日本での商標登録は、その外国メーカーの日本進出を妨害する目的でなされたものと裁判所に認定されてしまいました。

     上記のケースはどちらも特許庁での商標登録までは認められ、後に裁判所で無効になったという例です。
     このように、「できる」ことであっても、後々の事を考えれば「やらない」という選択をすべきことはいくらでもあります。

     行き止まりの道、高い塀の上などを歩かないように、あらかじめ法律専門家の意見を求めて頂ければ幸いです。

  • 立体商標及び平成26年改正

     立体形状を法的に知的財産として保護する仕組には、商標とは別に「意匠」という制度があり、工業製品の新規性・創作性を保護するために、形状・模様・色彩などのデザインを登録できる仕組になっています。
     意匠は、工業製品を権利として保護しようとするものですので、新規性・創作性が主に審査され、商標と違って周知性や識別性は問題になりません。

     商標は、個性的なアイデアでネーミングとして考案され、独占的に使用して商業的な利益につなげるところに意味があり、そのニーズから、平面の文字や図形などの記号だけでなく、立体的に商標を登録できたらもっと自由度が高まるという要求がありました。そこで、平成8年改正からは立体の商標が登録できるようになりました。
     この立体商標制度に基づいて登録された商標としては、フジヤの「ペコちゃんポコちゃん」、ケンタッキーフライドチキンの「カーネルサンダース」、ヤクルトのプラ容器などがあり、変わったところでは、早稲田大学の構内にある「大隈重信像」も商標登録されているそうです。アメリカで登録されている著名な商標としては、コカコーラのボトルなどがあります。

     立体商標が登録できない場合として、他の物品と区別の付かないもの、ある商品の包装として不可欠な形状のものという条件があります。
     不可欠性の要件は、ややわかりにくいのですが、要するに、製品の包装としてどうしてもそのような形を取らなければ不合理であるというような汎用性のある形状のものを独占させてしまうと、製品そのものが作れなくなってしまうので、そうならないようにしましょうということです。ある特定の技術的な目標を達成するためとか、材料の性質上の理由からどうしても一定の形状が必要であるような場合にも、そこを商標で縛ってしまうと、技術や材料そのものが使えなくなってしまうので、そのような場合にも商標登録はできません。

     ヤクルトの容器やサントリーの角瓶など、単なる容器だからという理由で、商標登録が拒否された例があります。

     上記の例のように、すでに登録されているものの多くが、キャラクター人形の類であるのは、登録要件を満たしやすいからです。

     平成26年改正により、本年4月1日から、商標登録範囲が拡大されました。
     具体的には、法2条の定義が「この法律で「商標」とは、【人の知覚によつて認識することができるもののうち、】文字、図形、記号、立体的形状若しくは【色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「下「標章」という。)】であつて、次に掲げるものをいう。」と変わり、法5条2項各号が「一 商標に係る文字、図形、記号、立体的形状又は色彩が変化するものであつて、その変化の前後にわたるその文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合からなる商標、二 立体的形状(文字、図形、記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる商標(前号に掲げるものを除く。)、三 色彩のみからなる商標(第一号に掲げるものを除く。)、四 音からなる商標、五 前各号に掲げるもののほか、経済産業省令で定める商標(=位置商標 商標法施行規則4条の7)」と追加され、規則4条でそれぞれ、定義がされています(動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標、位置商標)。
     米国・オーストラリアでは登録可能な「におい、触感、味」は改正法後も日本では登録できません。欧州諸国でも現在は登録ができなくなっているそうです。

  • 関税法 刑罰と犯則事件の違い

     前回は、関税法に規定する刑罰について紹介しました。今回は犯則事件について説明します。
     犯という言葉を使っていますが、前回説明した刑事罰のある「犯罪」に似ていながら、税関に限られた範囲での処分権限がある点で、検察官が取り扱う犯罪事件とは違っています。
     関税法119条以下に税関の権限がいろいろと書いてありますので、順に見ておきます。

    1 質問、検査又は領置等(119条)

     嫌疑者・参考人に出頭を求め、質問する。
      嫌疑者は一般用語では容疑者、刑事用語では被疑者です。参考人はどの法領域でも共通です。
     
    所持品や放置品などの物件を検査し、任意提出された物あるいは嫌疑者の放置品を領置する。
      参考人の放置品は領置できません。

    2 開示の請求(120条)

     証拠の隠蔽をさせないための規定です。怪しければ、それを出しなさいと求めることができます。

    3 臨検、捜索又は差押(121~124条)

     令状による捜索差押です。犯則事件に特有のものとして臨検があります。
     嫌疑者発信・受信の郵便の差押は無条件で可能です。それ以外でも怪しい状況があれば差押が可能です。
     現行犯・準現行犯については無令状の臨検、捜索、差押可能です。
     立入禁止措置は令状がいりません(128条)。
     臨検等の措置の場合は、対象場所の所有者・管理者(会社の場合は代表者、責任者を含む)・成人の使用人(従業員)・同居の親族のいずれかを立ち会わせなければなりません。それらの者がいないときは成人の隣人、警察か自治体の職員を立ち会わせてもかまいません。女性の身体を対象にしたときは、立会人も女性でなければなりません(129条)。
     臨検等には警察官や海上保安官が同行することもあります(130条)。
     臨検等を実施したら必ず「調書」が作成されます。供述者は署名捺印するのが原則ですが、署名捺印を拒否することもできます(131条)。領置や差押をしたら、目録を作って、所有者に渡さなければなりません(132条)。
     税関での保管が困難な物件については、税関長の権限で別の場所で倉庫業者に保管させたり、売却してお金に換えることも可能です(133条)。

    4 犯則事件 第1の特徴・・・検察官に告発しなければならない事件かどうかが、法律で決まっている

     必ず告発しなければならない事件は、不正輸出入で脱税・故意の虚偽申告があるケースです。
     場合によって告発しなければならないのは、容疑者の居場所が分からなかったり、逃走や証拠隠滅の可能性があったりする場合です。ですから、もし疑われている事実が濡れ衣であったとしても、逃げてしまうとそれだけで告発されてしまう危険があります(137条)

    5 犯則事件 第2の特徴・・・税関長が「通告処分」で事件を終結させることが出来る

     税関長の通告処分で済むための要件は、
      懲役刑を言い渡すほどには犯行の内容が悪質でないこと
      対象者が罰金を払える資産・収入をもっていること
      対象者の居場所が明らかで、通告書を受領できること
     の3つです。このうちのどれか一つでもひっかかれば、告発されてしまいます(138条)。
     また、せっかく通告を受けたのに、20日以内に罰金相当額を納付しなければ、やはり告発されてしまいます。
     罰金相当額を納付すれば、同じ事件で再度処罰対象になることはありません。
     事件の個数は対象物件としてひとまとまりの輸出入申告ごとに判断されますので、対象・時期が異なると、原則として違う事件としての扱いになります。

    6 通告処分による不利益

     通告処分は処罰ではなく、行政処分ですので、いわゆる「前科」にはなりません。
     ただし、税関には処分歴が記録されますので、新たな通関業許可申請や、通関士の登録にあたっては、処分歴が審査され、罰金相当額納付後3年間は免許が下りないという不利益が課されます。
     また、許可が取り消される場合もあります(必ず取り消されるわけではありません)。