投稿者: YamanouchiKatsura

  • 国際的労働関係

     最近では、外資系企業は珍しい存在ではなくなり、一般の中小企業でも外国人労働者を採用する機会が増えています。
     外国人を日本国内で採用する場合、法的には、当事者が合意すれば、使用者側の国籍の法律を使うか、労働者側の国籍の法律を使うかは、自由に選択出来ます。従って、雇用にあたっては労働契約書を作成し、どちらの国の法律を適用した労働契約関係なのかを決めておくほうがベターです。ただし、労働法上の規制は国によって様々なので、日本以外の雇用条件を使う場合には、あらかじめよく調査しておく必要があります。
     最新の法制度事情は必ず各国法の専門家や監督行政機関へ確認しなければなりません。最新事情かどうか未確認ですので、参考までに過去の例として紹介しますが、例えば、中国では、日本と違って、労働契約には期間の定めがあるのが通常で、試用期間が労働契約期間に応じて制限されていたり、残業時間や休日の取扱も日本より厳しく、割り増し賃金も高額のようです(残業1.5倍、休日出勤2倍、祝祭日出勤3倍)。韓国は比較的日本に類似しており、日本と同様に非正規労働者が問題となっていて、いろいろと新しい労働者保護法規が出来ているようです。
     もし、当事者が明示的に適用法律を決めていない場合には、働く場所や賃金の支払い通貨のほか、いろいろな実情をもとにどの国の法規を適用するのか事後的に決めることになってきます。ある法律関係に対して、どの国の法規が適用されるのかという問題を「準拠法問題」といいます。基本的には、もっとも密接に関連する場所の法律が適用されることになるので、国内勤務者であれば日本法が適用されるのが原則的な扱いです。さらに、労働関係の規制法規(強行規定)については、準拠法が日本法でない場合でも、国内勤務にあっては適用されると解されています。
     ちなみに、外国人を日本で雇用する場合には、就労資格の有無も問題になります。外国人労働者の受入体制は、現状では非常に制限的です。入管の手続きも非常に厳格で、就労資格の認定申請には、予測できない時間がかかることから(ケースバイケースの審査で、長ければ3ヶ月以上かかることもあるようです)、海外からの労働者招へいには、時間的な余裕を持って準備する必要があります。

  • 派遣先と派遣元労働組合との関係、労働委員会の制度

     派遣労働者の労働組合に関する、ある最高裁判決によると、派遣先(派遣労働者受入側)の企業は、派遣元の労働組合からの団体交渉を拒否できないとされました。
     この事案は、民放テレビ局が、製作会社と請負契約を結び、スタッフの派遣を受けていたという案件です。
     当然ながら、テレビ局と派遣スタッフとの間には労働契約関係がないのですが、裁判所は、スタッフ側の労働組合との関係では、テレビ局が労働組合法上の「使用者」にあたるとして、団体交渉に応じる義務があると判断したのです。
     ちなみに、団体交渉義務違反のようないわゆる「不当労働行為」は、裁判所で争われるだけでなく、各都道府県に設置されている「地方労働委員会」に持ち込まれる事もあります。
     労働委員会では、不当労働行為の審査のほかに、労働争議のあっせん(使用者側・労働側双方から意見を聞いて、調整をすること)を行います。どちらも申立制になっているので、独自の調査・捜査権を持っている公正取引委員会や警察とは違って、労働委員会が独自に動いて労使紛争に介入することはありません。審査やあっせんには労使双方の委員と公益代表の委員が関与することになっていて、中立性が保たれる仕組をとっています。
     地方労働委員会の審査に不服があるときは、中央労働委員会へ持ち上がって審査されることもあります。裁判所でその審査結果を争うことも出来ます。
     その他、特定の公益事業(運輸、郵便、水道、病院など)でストライキをする場合は、10日前までに行政と労働委員会へ届け出なければならないという「予告通知」の仕組もあります。
     労働委員会から呼出が来ても慌てないように、そういう機関もあるということを知っておきましょう。

  • 労働者と労働組合

     以前「労働者とはなにか」の話をしましたが、労働基準法のほかに労働組合法でも労働者の定義があります。労働基準法は「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下『事業』という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」としていますが、労働組合法では、「この法律で『労働者』とは、職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によつて生活する者をいう。」となっていて、「使用される者」という部分が省かれています。
     これがどのような場面で問題になるかですが、例えば、裁判例でみられるのは、専属契約の楽団員の加盟する演奏者組合が、楽団経営会社に団体交渉を申し込んだ場合に、会社がこれを拒否してもよいかどうかという問題です。
     もし、労働基準法上の労働者による労働組合だけが団体交渉権を保障されるという考え方をとると、専属契約の楽団員が労基法上の労働者でなければ、楽団員の組合による団体交渉権は保護されないので、会社は団体交渉を拒否してもいいことになります。
     裁判所の判断は、雇用関係にない(労働基準法上では労働者でない)場合でも、会社から支給されている給料で生計を立てている以上は、団体交渉の権利があるというものでした。
     最近は雇用環境が厳しく、多くの労働者や個人事業者が、相互に競争関係にあるためか、大きな労働争議や厳しい労使交渉があるという話をあまり聞かなくなりました。しかし、団体交渉が低調になっている分、労働者個人や零細自営業者の不満が直接労働基準監督署や公正取引委員会等へ伝わりやすくなっていて、思わぬタイミングで、労基、公取、税務等の調査が入ったりすることも多くなってきていますので、経営者としては注意をしなければなりません。