タイプフェイス事件

 だれもがコンピューターを美しい見た目の画面で操作できる(WYSIWYG)ようになって20年以上が経過し、現代のコンピューターやプリンターにはいろいろな種類のフォントがたくさん入っています。
 このフォントに関する文字デザイン部分(タイプフェイス)にはどのような法律の保護があるのでしょうか。
 考えられるのは著作権、意匠権、一般の不法行為法上の法律上保護相当利益、不正競争防止法などです。

 著作権については、かなり高度の創作性・審美性がなければ、保護しないと判断した最高裁判例があり、この判例による限り、タイプフェイスを著作権で保護するのは無理があります。最高裁基準で著作権の対象になるのは、書家の筆致などに限られるものと思われます。ただし、フォントを一定のプログラムに基づいて創作するソフトウエアに関しては、著作権法での保護対象です(これは諸外国でも同様)。

 意匠権については、アメリカ合衆国やEU諸国でタイプフェイスが保護対象とされている例があるものの、平成18年・19年に財団法人知的財産研究所が実施した調査によると、日本の意匠法の保護制度とは違った面があり、そのまま日本法には取り入れがたい状況と言われています。

 一般の不法行為法で、例えば完全な模倣(デッドコピーといわれます)をしたものであれば、違法性があり、タイプフェイスとして法的に保護される場合があるとは言われていますが、これも実務上確立した見解とまではいえません。

 不正競争防止法ではどうかというと、平成5年の東京高裁決定(モリサワフォント事件)では、平成5年改正前の法律に基づいて、デジタル化した書体を収めたプリンター等の販売の差し止め仮処分に関して、不正競争行為と認めて、差し止めの仮処分を認めた例があります。しかし、その後法改正で模倣商品の譲渡に関する規定が加わったことで、この裁判例がそのまま一般化できるかどうかには議論があります。

 以上のとおり、タイプフェイスが知的財産であるという共通認識はあるものの、それを法的にどのような枠組みで保護していくかは、なかなか難しい問題のようです。
 現状としては、利用許諾契約でユーザーを囲い込むことでデザイン業者の利益が確保されていますが、タイプフェイスの権利性がはっきりしないために、海賊版や模倣品による侵害からの防御が意匠や特許などの場合よりもさらに困難な実情もあります。

 とはいえ、もともとは先人が意思伝達のために数千年を経て育ててきた結果が文字になって現代に流通していることを考えると、文字の変形バージョンに対するデザイン料の収受を超えて、万人に主張できる一般的な権利性を認めることに、やや躊躇を覚えるのは、、、私だけでしょうか。

参考文献リスト

不正競争防止法とは

 2013年10月、阪急阪神ホテルズから端を発した「メニュー偽装問題」は、他のホテルや旅館でも発覚し、社会問題になりました 。
 このニュースの中でしばしば言及されていたのが景品表示法や不正競争防止法です。
 石屋製菓が販売する北海道銘菓「白い恋人」に似せた、吉本興業販売の菓子「面白い恋人」が問題となった事件でも、不正競争防止法違反が主張されていました(和解で解決)。
 このように一般市民の消費活動にも関わってくる不正競争防止法。その概要と裁判例についてご紹介します。
 ちなみに 経産省作成の 逐条解説 はこちらです。

 不正競争防止法は国民経済の健全な発展を目的とし(1条)、「不正競争」行為をいくつか定義づけ、それに該当する様々な不正競争行為に対する差止め請求や損害賠償請求を定めたり、刑事罰を課したりしている法律です。

 不正競争防止法は2条1項で16個の行為を「不正競争」と定めています。たとえば、他人の商品・営業の表示として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の表示を使用し、その他人の商品・営業と混同を生じさせる行為(周知表示混同惹起)や、他人の商品・営業の表示として著名なものを、自己の商品・営業として使用する行為(著名表示冒用)、商品形態模倣行為(他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡等する行為)、営業秘密侵害行為などがあり、技術的制限手段回避装置提供行為(例えばビデオソフトのコピーガードを外すソフトウエアを提供する行為)なども不正競争と定められています。

 不正競争を行うと、不正競争によって被害を受けた者(「面白い恋人事件」の例で言えば白い恋人を製造している石屋製菓)は侵害の差止めを請求できます。また、不正競争によって財産的被害を被った者は侵害者に対して損害賠償請求や信用回復措置を講ずることを請求できます。

 著名事件としては、「スナックシャネル事件」があります。
 被告は、昭和59年12月から、千葉県松戸市内で「スナックシャネル」の店名で看板を出し、スナックの営業を行っていました。
 これに対し、異議を述べたのが世界的ブランド「シャネル」の商標等の管理を行うシャネル・グループの原告会社でした。
 原告会社は、被告が「スナックシャネル」という名前でスナックを営業することは、ブランド「シャネル」と何らかの関係があるとの誤解を消費者に与える(=周知表示混同惹起行為に当たる)と主張し、「・・・は、その営業上の施設又は活動に『シャネル』又は『シャネル』その他『シャネル』に類似する表示を使用してはならない」との差止請求及び被害の損害賠償請求をしました。
 この事件では、「スナックシャネル」という看板で営業することで、千葉県松戸市にある決して大きくはないスナックと世界的巨大ブランド「シャネル」とが緊密な関係にあると一般消費者に誤解を与えるかどうかが争点でした。
 一審、二審と判断は分かれましたが、最高裁は、被告スナック営業の内容は、その種類や規模からしてシャネル・グループの営業とは異なるとしたものの、「シャネル」の表示の周知性が極めて高いこと、企業の経営が多角化する傾向があること等の事情を指摘して、本件では一般消費者が松戸のスナックシャネルとシャネル・グループとの間に緊密な営業上の関係又は同一商品化事業を営むグループに属する関係があると誤信するおそれがあると判示しました。
 この判断自体には、様々な異論はありうることかと思いますが、そのような裁判紛争では、小さな個人商店であっても巨大グループ企業に敗訴することもありうると言えます。
 くれぐれも慎重な判断を要します。

基本的には「人の褌で相撲を取るな」ということですね!

善良な人には、この一言で了解できるルールが、世界や日本の様々な悪者のせいで、これだけしちめんどくさい法律になってしまうという悪例です・・・。

意匠の間接侵害

 意匠法38条1号では、ある意匠の製造のみに使う物の製造販売も意匠権侵害になるとされています。
 これは、直接意匠製品を製造販売するのではないけれども、意匠権を侵害するという意味で、「間接侵害」と言われます。典型的には、意匠製品を分解して、その部品(汎用性のないもの)を販売したり、意匠製品の組み立てキットを製造販売したりすることがそれに当たります。
 その他、裁判例で争われた事実として、建築用足場の足場と柵を一体として意匠権を有していた会社が、足場だけを販売していた業者に対して意匠権侵害で賠償請求をした案件があります。
 このケースでは、足場部分の部品には外観上、特段の独創性新規性もなく、また、機能的にも柵なしで単体として使われることがあるので、「建築足場柵」という意匠権者の製品の「製造のみ」に使われるとはいえないと判断されましたが、「のみ」かどうかは本当に難しい判断といえます。
 同様の間接侵害の規定は、特許法(101条)や商標法(37条8号)にもあります。

 裁判をやってみないとはっきりしたことは言えないという問題は、一般に「予測可能性」に乏しい事案だと表現されます。
 法律は、起こりうる事態を想定予測して定めてあるのですが、法律制定後に、状況が変化することはよくあり、また、状況が変わっていなくても、法解釈が裁判所に委ねられている以上、完全な予測は不可能というほかありません。
 問題ありうるケースでは、裁判で勝敗をつけることが、大きなリスクを伴うおそれがあるため、案件に応じて、裁判の断念や、損切りなどを含めて、リスク許容性を考慮した慎重な判断が必要になります。