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事業承継と名称等の使用

1 事業支援の概要
 他社の事業を支援するにあたっては,会社の新設,分割,合併,営業譲渡,出資,金融支援などの様々な手法があります。
 それらの方法については,その時点での会社法制や税制などの状況や,関係先の状態に応じて臨機応変に判断しなければならないので,必要になった都度,検討をすることになります。今回は,それらの手法のことではなく,共通して問題となる「名称の使用」について整理してみました。

2 名称の種類
 会社は,様々な名称を使っています。例えば,「社名」これは法人組織であれば,登記された名称(商号)であり、個人営業であっても商号登記が可能で、法的保護対象になります。
 店舗経営会社の場合は,社名と経営する「店舗名」が違うこともあります。
 また,代表的なサービスや商品の名称も会社名とは違う事があります。それらの表示は商標登録されている場合もあります。
 事業支援を会社の新設,分割や営業譲渡の方法で実施する場合に,名称利用について注意すべき点が,大きく分けて二つあります。
 一つが,「商号続用」で,もう一つが「ブランド,商品名続用」です。前者では会社法・商法が,後者では商標法その他の知的財産関連法が問題になり,共通の問題としては,不正競争防止法も問題になります。順に説明して参ります。

3 商号を続けて使う場合
 この点については,商号を続けて使うことにより事業承継者に責任が生じるケースを裁判所が多数判断しております。
 例えば、別会社の経営していた飲食店舗を譲り受けてそのままの名称で営業を続けていた会社が,もとの経営会社に対する債権者からの事業上の債権取り立てを受けていた事件で,店舗の名称を続けて使う場合には,対外的に反対の意思表示を明示していない限りは,会社法に基づいて,旧経営者の負債を弁済する義務を負うと判断された例があります。
 このことから得られる教訓は,安易に支援先の事業を引き受けて,そのままの名称を使うべきではないということです。また,どうしても名称を続けて使いたい場合には,従来の取引先に対して十分な説明と周知を実施して,理解をえる必要があります。

4 ブランド・商品名を続けて使う場合
 これは古くからの問題ですが,最近ではインターネット上のアドレス(URL)につく「ドメイン名」の不正使用という問題も加わりました。結局は,他人の権利を侵害してはいけないという単純な話なのですが,ブランドや商品名,ドメイン名は,よほど著明なものを除いて,一般的には誰に帰属する権利なのか,あまり周知されていません。誤って他人の権利を侵害してしまうことを避けるためには,登録商標やドメイン名などを,事前に調査する必要があります。
 これらの知的財産に関する使用や登録のルールは,様々な国際条約,国内法,判例などが複雑に適用されますので,専門家(弁理士・弁護士)でないと扱いきれない問題になってきますが,会社が大きくなるとどうしても関わらざるを得ない分野です。

 ちなみに、***管理士という国家資格は、次のものだけです(これ以外に ××管理士 という名称を付けているものはすべて民間の技能検定にすぎません)。

  • エネルギー管理士・熱管理士・電気管理士(エネルギーの使用の合理化に関する法律)
  • 浄化槽管理士(浄化槽法)
  • 安全管理士・衛生管理士(労働災害防止団体法)
  • マンション管理士(マンションの管理の適正化の推進に関する法律)

このほか国家資格ではないものの、「補償業務管理士」という資格があります。これは、公共用地補償に関する国の制度の中に位置づけられている点でやや特殊な民間資格です。

・・・脱線しました・・・ 

5 不正競争の問題
 上記のような会社やサービス,商品等の名称が,世間に広まれば,それ自体が無形財産としての価値を持ちます。そのような営利会社がもつ対外的な無形的価値は会計上、「のれん(GoodWill)」として現れてきます。
 このような性質があるだけに,多くの事業会社が、被害者になるケースと加害者になるケースの両方に遭遇してしまう可能性があります。
 例えば,「sonybank」事件では,前記の「ドメイン」について,著名メーカーのソニー(sony)とは全く関係のない個人が,金銭的に多額の要求をする意図をもって,「sonybank」という名前をインターネットアドレスに登録していたケースです。最終的には裁判でソニーへの無償移転が相当と認められましたが,商取引での最近のインターネットの重要性を考えると,ソニーには相当な時間的,コスト的損害が発生したと思われます。

6 まとめ
 以上,簡略化して説明しましたが,事業の拡大・展開や縮小・撤退過程では,さまざまな法律分野にかかわる問題がたくさん生じてきます。美しいテイクオフ・ランディングが出来るように,しっかりとした事前・事後の法務対策をすることが必要です。