この文章は,個人がサラ金などからたくさん借金して返せなくなった事例(いわゆるクレサラ事件)を念頭においたものです。
法人や事業者には,まったく別のアドバイスが必要ですので,くれぐれもご注意願います。
はじめに
借りた金は返す。これは当然のことです。
しかし、返せないものは返せない。「無い袖は振れない」これも実に真理です。
自由競争・自己責任の経済社会では、そもそも、返せないような人にお金を貸すほうが間が抜けているともいえます。
世の中の「債権者」は、自分の債権が額面どおりいつまでもそこにあるものと誤解しがちです。しかし、たとえば、1億円を他人に貸したとした場合、もしも借りた人が貧乏な浪費家であれば、貸金証書の価値はほとんど0円ですが、借りた人が裕福な資産家であればその価値は限りなく1億円に近づきます。要するに、債権の価値は、債務者の資産・能力によるのであって、最初にいくら貸したのかは単に返してもらうことのできる上限金額を意味するに過ぎません。ですから、同じ1億円の債権でも、貸した相手によっては実質的には0円から1億円までその価値が違ってきます。
頭の固い債権者は、最初に貸した額面にいつまでもこだわりますが、「債権」というものはせいぜい上に述べたような程度の非常に弱い権利ですから、返せなくなった人に対して、貸した金を「額面どおり」返せというのは、そもそもまったく筋が通らないのです。
クレサラ事件において、債務整理と称して、債権者に債権を負けさせ、分割払いの要求を(無理して)呑んでもらうのは、上に述べたような考え方を背景としています。
他方、債権者の立場に立ってみると、債務者が必ず返してくれると思うからこそ貸すわけですから、債務整理はすくなくともその期待を裏切ることになります。
一時に大金を用立てることのできない場合に、将来利息を払えば今すぐにその金を用意してくれるというシステムは多くの家庭や個人・企業にとってぜひとも必要なものであり、貸金業者の果たす役割もそれなりに評価すべきです。ですから、私はたとえ高利貸しの業者であってもそれを一方的に悪者扱いする態度にも与したくありません。
このような考え方から、私は、債務整理を行うにあたっては、「債権」が支払能力を担保とする弱い権利であることを債権者に認識してもらい、健全な貸金業者だけが社会的意義ある事業を継続していけるよう、両方の立場に配慮した迅速かつ公平な処理を心がけております。
時として、債務者にも債権者にもそれぞれに厳しい注文をつけることがありますが、それは、上に述べたような私の基本姿勢に由来しているものであることを十分ご理解いただきたいと思います。
債務整理の費用
さて、いちばん皆さんが気にかけているのは、費用のことだと思いますので、まず最初に説明しておきます。
大阪弁護士会では、法律相談センターがクレサラ事件の標準報酬規定を定めており、そこでは次のとおりとなっています。
着手金 債権者1件につき1.5万円~2万円 下限額は5万円、上限額は75万円とする。 報酬 債務者の受けた経済的利益の10%、二年以上の分割払の場合は5% 実費(示談金、郵便切手代、交通費等)は別途 |
着手金とは、依頼を受けて債務整理に着手する前に支払っていただく金額です。
報酬とは、事件がすべて解決した後で、依頼者が最終的に受けた利益に対する割合で計算して支払っていただく金額です。
実費とは、上記以外で事件の解決のために支出しなければならなかった費用(切手代,交通費等)のことです。
上記のとおり、金額の基準は一応定められていますが、計算や支払の方法については、各弁護士の裁量に任されていますので、詳細はご自分が依頼されようとする弁護士に相談してください。ここでは、私が受任する場合の計算及び請求方法等について参考までにご説明しておきます。
着手金は基本的に債権者1社あたり2万円を受領します。ただし、時効援用が可能な事案など簡易な処理が見込まれる事案の場合には1件あたり1.5万円まで適宜値下げすることがあります。
夫婦で債務者となっている場合には、夫婦で同じところから借りていたり、保証人になっていたりした場合でも、それは個別に1件として数えます。
報酬は、債権者が開示した現在債権額に弁護士が出した介入通知到達時までの利息(但し利息制限法による)を加えた金額を「元債務額」とし、利息制限法により引き直した金額を「現債務額」として、元債務額から現債務額を差し引いた金額の5%を請求します。
実費については、私の場合は特に経費がかさむような事情がないかぎり、すべて上記の着手金・報酬の範囲内で処理することにしていますので、実費のみを別途請求することは原則として致しません。但し、遠方への出張等が必要な場合や債権者が20社を超えるなど特別な場合には交通費・通信費等の実費を請求することがあります。
支払いの方法についてですが、債権者が5社以内(最高着手金10万円)の債務整理の場合には、原則として着手時に全額を持参してもらいます。
債権者が5社を超える場合には、着手時には最低でも10万円以上を持参してもらいます。その後は支払額に応じて毎月10000円以上での分割払いをお願いしています。私も仕事としてやっていますので、非常に心苦しいのですが、この最低の条件も履行できないという方からのご依頼はお断りせざるを得ません。生活保護世帯については法律扶助制度の利用をお勧めします。一般法律扶助制度の拡充を望むところです。
ところで,最近債務整理の相談と称して,民間業者が上記以上の料金を取って,結局何もせずに放置してしまうという例や,そのような業者と結託した悪徳弁護士(業界では提携弁護士と呼んでいます)が,広告を出して顧客を集めていいかげんな整理をやっていると聞きます。はっきり言って,債務整理の仕事は弁護士として「おいしい」仕事では決してありませんが,社会的意義を感じてやっています。上記以上の料金をとることは,大阪では不当に高額なものと受け取られるので,そのような業者・弁護士には個人の債務整理を依頼しないでください。ただし,会社の任意整理はまったく別の基準でやりますので,特には何百万円という弁護士費用がかかることもありえます。
破産との違い
ところで、「破産」という制度をご存知の方も多いと思います。破産と任意整理のどちらを選択すべきかというのは、結構難しい判断ですが、一般に判断要素として言われているのは次のようなことです。
破産処理に向かない事案
- 債務額が年収の2倍を超えていない
- 収入が安定しており、扶養家族がなく、その他特に大きな支出も不要である
- 借入原因のほとんど全部が生活費であり、夫婦の一方のみが債務者になっている
- 免責不許可事由がある(ギャンブル・浪費・破産直前の詐欺行為など)
任意整理に向かない事案
- 利息制限法適用後の債務総額が年収の2倍を超えている
- 毎月の余裕金×60が債務総額より多い(5年以内に完済できない)
- 収入が不安定で毎月の支払額が確定できない
- 関係者の援助が不確実でいつ収入が途絶えるか解からない
よく受ける相談に、「破産はしたくないから、なるべく長期の分割で」というのがあるのですが、債務整理は基本的に3年以内に終結する案を作るべきであり、それができなければ破産すべきです。
というのも、3年を超えて最低限切り詰めた生活をしなければならないという事態は、想像を絶する過酷さだからです。初めはできるつもりでもそのうちいつか破綻します。4年に延ばせば毎月の支払いに多少余裕ができるという考えを持つかもしれませんが、少しの余裕を見積もったばかりに生活がルーズになり、結局再び破綻するという結果になってしまいがちです。
また、債権者の立場からしても、4年も5年もかけて帳簿上に不良債権が残ったままになるよりは、一気に償却したほうがメリットが大きいという事情があるため、なかなか4年・5年の長期分割案には合意してもらえません。
そんなわけで、私も3年以内の返済案が作れないときには、基本的に破産を勧めることにしています。
ただ、それでも破産を避けたいという事情がある場合には、次のような事情に限って長期返済案の成立に努力しています。
3年以上の分割弁済案を作成する事案
- 破産に適さない事案(前記参照)
- 不動産を所有している
- 免責不許可事由がある
- 高利の取引の期間が長く,負債額を大幅に減少しうる
- 安定した給与・事業収入等がある
- 債務額のうち3~7割の一括弁済が可能である
- 親族等からの継続的な援助ができる
念のためにもう一度申しますが、任意整理はあくまでも3年以内に完済できる計画が確実に履行できることを必須条件として行うものと考えてください。収支のバランスからみてあまりにも無理な弁済案での和解を要求をされる場合には、債務履行の意思がないのにその場しのぎ的に任意整理をしようとしているものと判断し、代理人となることを辞退・辞任させてもらうこともあります。
相談にこられるときには、あらかじめ自分の返済能力・家計の状況などをよく検討しておいてください。
なお,個人版民事再生については,従来の債務整理の大部分をカバーできる大変便利な制度ですが,非常に複雑な制度なので,項を改めて説明させていただきます。お急ぎの方は,私も執筆の一部を担当している「個人債務者再生手続実務解説Q&A青林書院 2001.3 ISBN4-417-01278-4 4600円+税」が,大変詳細かつすごくわかりやすいと思います(宣伝・広告)